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細野ゼミ 9コマ目(後編) [バックナンバー]

細野晴臣とシンガーソングライター

で、結局シンガーソングライターってなんだ? 細野晴臣、安部勇磨、ハマ・オカモトが大放談

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活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている細野晴臣。音楽ナタリーでは、彼が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する連載企画「細野ゼミ」を展開中だ。

ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という同世代アーティスト2人。毎回さまざまなジャンルについてそれぞれの見解を交えながら語っている。昨年秋よりコロナ禍で休講していた本ゼミだが、半年ぶりに復活。第9回では、「シンガーソングライター」について3回にわたって語ってもらっている。今回は、シンガーソングライター編の最終回にもかかわらず、「そもそもシンガーソングライターってなんだ?」という根本的な疑問に立ち返るところから議論がスタート。話は脱線を重ね、“ミュージシャンの自己認識”を巡る放談に発展していった。

取材 / 加藤一陽 / 望月哲 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

線引きがどこなのか実際はよくわからない

ハマ・オカモト 前回の取材が終わったあといろいろ考えたんですけど、“シンガーソングライター”ってすごく解釈が難しいなと思って。例えばビル・ウィザースやスティーヴィー・ワンダーも自分で楽曲を作って歌っていますけど、僕としてはシンガーソングライターと呼ぶには違和感があるし。だから人によって解釈が異なるのかなと思うんです。

──前回まででも、「フォークシンガーか、シンガーソングライターか」のような議論はありました。

ハマ 考えてみれば、ブラックミュージックカルチャーの中ではあまり口にされていない言葉じゃないですか。B.B.キングのことを、わざわざシンガーソングライターって言わないですから。前回のユーミンさんの話のように、もうアーティストの名前自体がブランドになっていて、その人のやる音楽ジャンルは説明不要だという面もあるでしょうけど。

細野晴臣 僕もシンガーソングライターと呼ばれることはあるけどね。

──細野さんにはシンガーソングライターの側面があると思いますよ。

細野 そうね。でも、側面だよね。まあ歌って演奏する人はみんなシンガーソングライターだよ。自分で曲を作っていればね。

ハマ そうなんですけど、細野さんみたいにキャリアが多岐にわたると、シンガーソングライターというひと言だけでは活動を言い表せないと思うんですよ。

細野 まあ、“シンガーソングライター”というのは一過性の流行り言葉にすぎないんじゃないかな。過去の一時期に流行ったけど、線引きがどこなのか実際はよくわからないし。たぶん60年代後半から70年代の初頭にかけて、レコード会社がまだしっかりしていた時代にプロモーションで使われた言葉だったんだよ。アメリカのレコード会社が作った言葉。それが当時は新しい言葉だったから、呼ばれるほうもそれほど嫌じゃなかった、みたいな。

ハマ 当時は新しさを感じさせる言葉だったんですね。

細野 ジャンルって難しいじゃない。昔、レコードショップには“中間音楽”っていうジャンルの棚があって……つまり、どこにも入れられない、どこに入れていいかわからない音楽のこと。マーティン・デニーなんかはそこに置かれていたんだよね。でも、エキゾチックサウンドみたいなものが確立されると、そっちで扱われるようになったりして。概念が確立されると、それからジャンルができるんだ。いずれにしても、例えばソウル系やラップ系の人も自分で作って歌ったりしているけど、彼らも自分のことをシンガーソングライターかどうかなんて考えたことないでしょ。

ハマ そうですね。

細野 だから、シンガーソングライターという括りが登場した時代のスタイルを受け継いでいるという意識がある人がいまだに名乗ってるんじゃないかな。

安部勇磨 僕の勝手な解釈ですけど、“シンガーソングライター”って言葉には、なんかさわやかなイメージがあって。というのも、「シンガーソングライターの●●さんです」って紹介される人たちにそういう印象があるんですよ。同じようにギターで弾き語りをするにしても、僕はどちらかと言えば“フォークシンガー”っぽい人のほうが、いい意味で臭そうな感じがして好きなんです。どこか野暮ったいというか。シンガーソングライターは、もっとさわやかな感じ。

細野 都会的だよね。僕の場合は、“バンドマン”と呼ばれるのが一番好きだな。

──安部さんもそうですか?

安部 僕は“何もやってない人”かな(笑)。やっぱり自分のことをシンガーソングライターだと思ったことはないですね。自分が気になる音楽を作って、それに歌を乗せているだけなので。それをもってシンガーソングライターと紹介されるようなことはありますけど、「ただ好きなことをやっているだけで、シンガーソングライターになった覚えはないぞ」みたいな感じもあります。

ハマ “ネバヤン安部勇磨のソロ作”ってだけで、“シンガーソングライター安部の作品”ではないという。

安部 だからこそ、僕は初対面の人に「自分はシンガーソングライターです」って言われたら「ん?」って思っちゃいますもん。「そこに収まらなくてよくない?」って。

細野 うん、わかるよ。以前、もらったデモCDに「自分はシンガーソングライターです」という紹介文が入っていたな。今、シンガーソングライターというのは、“そういうふうに自分たちを呼びたい人たち”が使っている言葉なのかもしれないよね。ちなみにプロフィールに載せる肩書きとか、2人はどうしているの?

ハマ 僕は“ベーシスト”にしてもらってます。音楽と関係ない場に出ていくときも、やっぱり自分は音楽の人なので。

安部 僕は引っ越しするとき、書類に“自営業”って書きました。

ハマ 椎名林檎さんがデビュー時に「自作自演屋」と名乗っていたって聞いたことがあるんですけど、そういうことですよね。自分のことをなんと呼ぶか。

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ジャンルに自ら入っていくこと=様式を真似すること

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死後くん @sigo_kun

細野ゼミ「シンガーソングライター後編」です。今回は「シンガーソングライター」という言葉をめぐって各々のSSW論を語らってます。深夜のファミレス談議を聞いてるようで面白い!

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