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細野ゼミ 9コマ目(中編) [バックナンバー]

細野晴臣とシンガーソングライター

ジェイムス・テイラー、ニール・ヤング、高田渡、小坂忠、西岡恭蔵……細野晴臣が出会ってきたミュージシャンたち

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細野晴臣にとって大切な存在だった西岡恭蔵

──続いて、日本におけるシンガーソングライタームーブメントの夜明けについて細野さんに教えていただければと思います。日本におけるシンガーソングライターの先駆け的な存在はどなたになるのでしょうか?

細野 僕の中では吉田美奈子とユーミン(荒井由実)で始まってるな……いや、でもユーミンは“ユーミン”だな……ブランドになっちゃうとそう言わなくなるのかもね。あとは大貫妙子か。時期で言えば1970年代の初頭くらい。その前の時代はやっぱりフォークだよね。僕も関係しているURC周辺のアーティストを含め。

──遠藤賢司さんとか。

細野 エンケンはシンガーソングライターっぽいね。特にデビューした頃は。

ハマ 細野さんの中ではそういう認識なんですね。ちなみに、はっぴいえんどで岡林信康さんのバックバンドを務めていた頃は?

細野 岡林信康は“フォークの神様”って言われていたね。

ハマ フォークシンガーのバックバンドをやっているという感覚だったんですね。

細野 うん。

ハマ 岡林さんとは自然な流れで知り合ったんですか?

細野 自然だよ。お互いURCに所属していたからね。

ハマ じゃあレーベルメイトというか。

細野 岡林の中ではボブ・ディランのイメージが頭の中にあったわけだよ。当時ディランはエレキギターを持ってバンドを従えてライブをやっていて、ちょうど同じレーベルに恰好のバンドがいたわけだよ(笑)。

安部 「できる!」ってなったんですね(笑)。なるほど。

細野 それでツアーを組んだんだよね。レコーディングじゃなくて、ツアーから始まって。

ハマ 先ほど、シンガーソングライターの先駆けとして細野さんから出た名前は女性がメインだったじゃないですか。今日は個人的に西岡恭蔵さんについてお話を聞きたくて。

細野 西岡はすごく特別な存在だったね。

ハマ 僕、めちゃくちゃ好きで。

細野 知り合った頃は、すでに「プカプカ」という曲がヒットして有名になっていたんだけど。

ハマ 金魚のジャケのシングルですね。

細野 西岡にはフォークシンガーという印象はなくて、僕の中ではソングライター的な位置付けだった。

ハマ 西岡さんの作品は、細野さんのソロ作品とはまた違った“日本じゃない景色”が描かれている気がするんです。

細野 どっちかっていうと南部っぽいよね。

ハマ すごく稚拙な表現ですけど、日本人的な感覚と無国籍な感覚が絶妙に交わっている感じがして。

細野 あるとき西岡から連絡があって、僕にプロデュースを頼みたいっていうんだよね。要するに「ろっかばいまいべいびい」を歌いたいと。最初はあまりぴんとこなかったんだよ。「あの曲の何が好きなんだろう?」って(笑)。

ハマ 西岡さんとのお仕事は、あの曲がきっかけだったんですね。「ろっかばいまいべいびい」はアルバム名になっています。コロナ禍の2020年に僕が一番聴いていたのが、京都磔磔での演奏を収めた西岡恭蔵さんのライブアルバムなんです。そこから西岡さんの作品を聴き漁って、素晴らしいミュージシャンだなと思って。

安部 僕はコロナ禍に小坂忠さんの「ありがとう」(細野が作詞・作曲・編曲を担当)をずっと聴いていて。あれめちゃくちゃ素敵な曲なんですよ!

細野 ははは。

ハマ わかる。改めていいよね。

安部 歌詞も最高だし、ドラムのフレーズもすごい面白いし。小坂忠さんもシンガーソングライターといえます。

ハマ 細野さんの中で、小坂忠さんはどういう印象ですか?

細野 さっき言いそびれたけど、ジェイムス・テイラーと同じような気持ちで聴いてたのが小坂忠の歌。それまで忠はLed Zeppelinを歌ってたんだよね。声を張り上げて。ロックシンガーだった。ジム・モリソンの歌も歌ってたし。それが突然ボソボソと歌い出して。

ハマ ボソボソ(笑)。

安部 そういう変化をリアルタイムで見てる友達ってすごいですね。

細野 だって、“隣組”だからね(笑)。

ハマ 小坂忠さんって「ほうろう」の印象が強いじゃないですか。そうじゃない時代の忠さんを細野さんは知ってるわけですもんね。

細野 忠もジェイムス・テイラーの影響でギブソンのJ-50を買ったのかもしれないね。僕はそれをずっと借りてた。

ハマ うちはメンバー4人とも音楽性がバラバラなんですけど、唯一共通して好きなアルバムが小坂忠さんの「ほうろう」なんです。デビューして最初にレコーディング合宿をしたときも一晩中「ほうろう」が流れていて。そういえば、この間うちのボーカル(オカモトショウ)が弾き語りカバー企画をやったらドッキリで忠さんが出てきてくれて。ショウがカバーした直後にご本人が出てきて歌うっていう“カバー殺し”を(笑)。

安部 そんなことあったの? 僕も最近、忠さんの「はずかしそうに」という曲をカバーしました。

盟友・高田渡、エンケンとの思い出

──細野さんにとって、高田渡さんはどのような存在ですか?

細野 確か僕の2歳下だったかな。レコーディングも一緒にやったし、仲がよかったね。彼は東京の人だけど京都に住んでいて、地元を案内してくれたり。彼の家をみんなで訪ねて行ったこともある。時間がたっぷりあった時代で、当時の京都には面白い書店とかブルース喫茶とか、いいところがいっぱいあった。

ハマ ブルース喫茶いいな。

細野 “フォークブルース”って言ってたね、当時は。そういうのを聴くようになったのは高田渡の影響かもしれない。ロサンゼルスで一緒にレコーディングしたときは、ヴァン・ダイク・パークスが来たりして。スティールパンを入れたり、すごく楽しいレコーディングだったけど、そこからあまり会わなくなったんだ。息子の高田漣くんと仕事でよく会うようになってから、彼を通じて「そろそろどうなの? レコード作ろうよ」って伝えていたんだよ。でもすぐそのあとに亡くなったんだよね。早かった。

──そうか、細野さんが漣さんとお仕事するようになった頃は、まだご存命だったんですね。

ハマ そう考えると漣さんと細野さんが一緒に演奏しているというのはすごい巡り合わせですよね。

細野 不思議。渡は「ソロを作ろう」って打診したら、やる気になってくれてたんだよ。

安部 そうだったんですね……。

細野 そういうこともけっこう多いよね。恭蔵ともそうだったね。

安部 一緒に作品を作ろうという話をしていたんですか?

細野 いや、それはなかったかもしれないけど、そろそろ会いたいなと思っていたら亡くなってしまって、びっくりしちゃって。その前に手紙をもらったんだよね。

ハマ 寂しいですね。

──エンケンさんも亡くなってしまって。

細野 そう。エンケンも今いないんだよな。

ハマ エンケンさんとはおいくつくらいのときに知り合ったんですか?

細野 大学生の頃。僕が住んでいる家の前をエンケンがよく歩いていたんだよね。彼は近所の大学に通っていたから。それで友達を介して「お前と同じようなやつがいるよ」って紹介されて。

ハマ すごいですね、それ(笑)。

細野 そしたら下駄を履いてギター担いで家にきたんだよね。もう、でっかい声で歌うんだよ。ちっちゃい声で歌えない(笑)。

ハマ ははは。

細野 何を歌ったかな。「猫が眠ってる」かな。そうこうしてるうちに1年くらい会わなくなって、その後僕はフジテレビの「ヤング720」という朝の生番組にエイプリル・フールで出演したんだよ。

安部 へえ!! 朝の番組に出てたんですね!

細野 うん。Led Zeppelinの「Good Times Bad Times」を演奏したんだ。ツェッペリンはツーバス(ドラムセットのバスドラムが2つあること)だけど、松本隆は片足だけでがんばってた。それがいまだに話題になってる(笑)。で、その同じ日に偶然エンケンも出演したんだよ。そのときも「猫が眠っている」を演奏したと思う。

ハマ で、「エンケンだ!」ってなったんですか?

細野 そう。すごく風格が出てカッコいいなと思って。

ハマ 僕、エンケンさんとイベントで一度だけご一緒したことがあるんです。デビューした頃、渋谷CLUB QUATTROで行われたエンケンさんのイベントになぜかゲストで呼んでいただいて。出番が終わって楽屋で休んでいたら、「最後にセッションをするから舞台に上がってください」って突然言われて、何していいかわからなくてうちのドラマーがキース・ムーンみたいにドラムを叩きながら壊しちゃったんですよ。そしたらエンケンさんがそのパフォーマンスをめちゃくちゃ褒めてくださって。怖いイメージがあったけど、すごく優しい方でした。

──エンケンさん、独特の凄味がありましたよね。

ハマ はい、すごく怖いイメージがありました。

細野 普段はすごく静かな人なんだけどね。

ハマ バックステージではそんな感じでした。物腰も柔らかいし。でもステージに上がったら“エンケン”でしたね。

細野 だんだんステージで暴れるようになったよね(笑)。

ハマ でも細野さんとエンケンさんには、そんなつながりがあったんですね。全然結び付いてなかったなあ。

細野 その番組で一緒になって彼のライブを観ていたら、ティム・ハーディンっていうフォークシンガーを思い出したんだよね。ティム・ハーディンにそっくりだなと思った。

──そのとき細野さんもエンケンさんも10代だったんですか?

細野 10代は卒業してた。20歳くらいだったかな。今思えば2人とも子供なんだけど(笑)。

──そろそろ時間ということで。次回も「シンガーソングライター」をテーマにお話をお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

<後編に続く>

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。9月にオリジナルアルバム全3作品をまとめたコンプリートパッケージ「"audio sponge" "tronika" "LOOPHOLE"」を発表した。

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安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカル&ギター。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、上海、北京、成都、深セン、杭州、台北、ソウル、バンコクなどアジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年6月に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsよりリリースした。

never young beach オフィシャルサイト
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ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO'Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、2021年9月29日にニューアルバム「KNO WHERE」をリリース。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

OKAMOTO'S OFFICIAL WEBSITE
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