細野ゼミ 9コマ目(中編) [バックナンバー]
細野晴臣とシンガーソングライター
ジェイムス・テイラー、ニール・ヤング、高田渡、小坂忠、西岡恭蔵……細野晴臣が出会ってきたミュージシャンたち
2022年5月30日 20:00 42
活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている
ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(
取材
ジェイムス・テイラーが細野晴臣に与えた影響
──前回話に出てきたボブ・ディラン、ジェイムス・テイラー、ニール・ヤング、キャロル・キングといったシンガーソングライターについて、細野さんはそれぞれどんな印象を持っていますか?
細野晴臣 ボブ・ディランは前回話したように、最初は作曲家というイメージだった。友達がアメリカに行ってレコードを買ってきたんだよね。「The Times They Are a-Changin'」っていうアルバム。そこにいろんな人が歌ったヒット曲がたくさん入っていて、「なんだこれは!」と思ってびっくりしたね。しかもあの歌声だし、ぶっきらぼうな歌い方で。アレンジを変えるだけで、あんなにいい曲になるんだって驚いた。
ハマ・オカモト オリジナルを聴くことで、カバー曲のアレンジのすごさも体感されたんですね。
──そこがカバーの面白さでもありますよね。
ハマ ボブ・ディランのファンに怒られちゃいますけど、僕も最初に聴いたときはあまり心象がいい感じではなかったです(笑)。「え!?」みたいな(笑)。
細野 でも、みんなディランのぶっきらぼうな歌い方を真似しだしたんだよ(笑)。そのうちディランはエレキギターを持ち出して。僕は「Subterranean Homesick Blues」っていう曲が大好きで、コピーしていたね。別格だよ、ディランは。“ボブ・ディランっていうブランド”になっちゃった。神格化されすぎてるところもあるけど。
──ジェイムス・テイラーはいかがですか?
細野 ジェイムス・テイラーは「Fire and Rain」っていう曲が大ヒットして、よくラジオで流れてた。それを聴いてすごく新鮮だなと思った。ロック色が薄いし。はっぴいえんどの1枚目を作るか作らないかの頃だったんだけど、彼の低い歌声にはすごく影響を受けたよ。当時はロックバンドのボーカリストってみんな高い声を張り上げて歌っていたから。僕にはあんな高い声は出ないし。もしも高い声が出てたら、今頃The Beach Boysや山下達郎みたいに歌ってる(笑)。
ハマ すごい世界線(笑)。
細野 要するに、僕のような低い声の人にとってのお手本になったわけだ。そういうシンガーソングライターがいっぱい出てきた。ゴードン・ライトフットも声が低いし、トム・ラッシュも低い。逆に1人で歌うのに高い声だと情けないっていうか(笑)。
安部勇磨 ああ!
ハマ なるほど!
安部 僕は20代の半ばくらいに細野さんのインタビューを読んで、ジェイムス・テイラーを聴いてました。確かに声低いなって。
──ちなみに、安部さんの声も低いほうだと思うんですけど、ご自身ではどう自認していますか?
安部 僕は中途半端な声だなと思ってすごい落ち込むんですよ。細野さんの歌を聴くと低くてふくよかで太い。僕は高くもないけど低くもないみたいな(笑)。
細野 ちょうどいいじゃん(笑)。
安部 どっちにもつかないという悩みがありました。細野さんとかテイラーさんとかいろんな人の歌を聴きながら。
ハマ 「テイラーさん」(笑)。ちなみにジェイムス・テイラーからの影響が「風をあつめて」とかに表れているんですか?
細野 もちろん。
ハマ ですよね。「高く歌わないといけない」みたいな意識があったら、ああいう歌い方になりませんよね。
細野 はっぴいえんどの1枚目はロックバンドっぽくやろうとして無理してたんだよね。2枚目はシンガーソングライターからの影響がすごく強かったから、1人ひとり曲を作るようになった。
安部 ほかのメンバーに「もうちょっと声高く張り上げてみたら?」とか言われなかったんですか?
細野 全然ない(笑)。勝手に自由にやってたよ。
安部 お互いの作品に立ち入ることってあんまりなかったんですか? それぞれの作風を尊重するというか。
細野 もっと共有感があったね。例えば大瀧(詠一)くんが「颱風」を作ってきたら、「この曲はトニー・ジョー・ホワイトでいくんだ」みたいな。
ハマ バンドっぽいですね。
安部 なんとなくみんなでイメージを共有できているんですね。
細野 そう。
ハマ でも高い声、低い声の話はすごく重要ですよね。ジェイムス・テイラーの歌声に細野さんが背中を押されたのと、藤原さくらさんが「低い声がコンプレックスだったけどノラ・ジョーンズを初めて聴いて『これでいいんだ!』と思った」というエピソードは同じことだと思うんです。ノラ・ジョーンズは「全世界の低い声の女子! 私がいるから大丈夫よ」とは思ってないと思うけど(笑)。
安部 本人がそう思っていなくても、結果誰かの背中を押してるというのは、すごく素敵なことだよね。自分がやりたいことをやってるだけだったのにさ。
ハマ うん。そういう気付きが、はっぴいえんどの2枚目を作っていた時期の細野さんにもあったわけで。ジェイムス・テイラーがヒットしていなかったら、ロックバンドのボーカリストは高い声のままだったのかな(笑)。
細野 もう1つ、ジェイムス・テイラーで言いたいのは、1枚目のアルバム「James Taylor」をThe Beatlesが設立したアップルレコードからリリースしているということ。あの作品にはポール・マッカートニーとジョージ・ハリスンが参加してるんだよね。
安部 ええ、そうなんですか?
ハマ 知らなかった。
細野 1曲くらいね。そのアルバムは、ピーター・アッシャーっていう有名なプロデューサーが付いてイギリスでレコーディングされたんだけど、ジェイムス・テイラーがアメリカでやっていたバンドのデモテープに入っていた曲が中心で、いい曲がいっぱいあるわけ。ソングライターとしては、すごくポップなセンスの持ち主なんだよ。あと、ギターがすごくうまい。ジェイムス・テイラーがギブソンのJ-50を弾いてたから、僕も同じギターが欲しいと思って買ったんだけど、間違ってJ-45を買っちゃった。ジェイムス・テイラーにはそれくらい影響を受けてるよ。
──ニール・ヤングは音楽的にどういうところが好きですか?
細野 Buffalo Springfield在籍時、ニール・ヤングの曲はだいたいシングルのB面だったんだけど、僕は彼の曲が大好きで、自分でもコピーしてよく歌ってたよ。
──ニール・ヤングは声が高いですよね。
細野 特徴あるね。そういえば、ニール・ヤングがソロデビューした頃、「歌わないほうがいい」って言われていたこともあった。実際、バンド時代は自分の声にコンプレックスがあったみたい。でも、ソロでは思いっきり歌ってるじゃん。名盤がたくさんある人だけど、僕は1枚目のアルバムが一番好き。
ハマ 根っからのファンなんですね。
細野 どうなんだろうな(笑)。でもBuffalo Springfieldはニール・ヤングがいなかったら、ちょっと寂しいバンドだよね。ニール・ヤングはシンガーソングライター的な資質が根っこにある人で、もう1人の中心メンバーだったスティーヴン・スティルスはもうちょっとポップソング寄りの人。それぞれタイプが違うんだよ。
ハマ それがいい効果を?
細野 そうそう。バンドとしてのバラエティが生まれて。スティーヴン・スティルスの近況はあまり聞かなくなっちゃったけど、ニール・ヤングは今も現役でやってるからすごいよね。
──ローラ・ニーロに関してはいかがでしょうか?
細野 最初に知ったのはThe Fifth Dimensionの「Stoned Soul Picnic」というヒット曲。その曲をローラ・ニーロが書いていて、すごくいいなと思った。その後、彼女がソロアルバムを出したら、その曲が入っていて、オリジナルのほうが全然よくてびっくりした。
──ローラ・ニーロもカバーを先に聴くパターンだったんですね。
細野 うん。だいたいヒットチャートに入ってくるような曲しか聴いてなかったんだよね、僕は。ただ、当時のヒットチャートは本当にいい曲ばっかりなんだよ。つまらない曲が入ってこない。正直な世界だったから、それを聴いているだけでいろんなことがわかった。
細野晴臣にとって大切な存在だった西岡恭蔵
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🟢ハマ・オカモト🟢
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