「大人の沼~私たちがハマるK-POP~」Vol.10

土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.10(後編) [バックナンバー]

韓国ドラマと音楽の密な関係

韓国通ライター・K-POPゆりこと韓国ドラマを語り尽くす

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もし土岐麻子が韓国ドラマのOSTに参加するなら?

K-POPゆりこ 土岐さんも自分の楽曲をドラマに提供することがありますよね。「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」シーズン2(2015年)のオープニングテーマ「セ・ラ・ヴィ ~女は愛に忙しい~」は作品にすごく合っているなと感じたんですが、どのように制作していったんですか?

土岐 あれは作品に寄せて制作したのではなくて、すでにあった曲を起用していただいた形だったんです。ドラマ原作者のジェーン・スーさんと一緒に作った曲なので、内容もリンクした感じがあります。

K-POPゆりこ そうだったんですね! すごくぴったりだったので、絶対にドラマに合わせて作ったんだろうと思っていました。

土岐 いつか完全に作品に合わせて当て書きするということもやってみたいですね。

土岐麻子

土岐麻子

K-POPゆりこ ちなみに、土岐さんがもし韓国ドラマのOSTに参加するとしたら、どんな作品がいいですか?

土岐 私はですね、アン・パンソク監督の作品一択です。

K-POPゆりこ 「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」(2018年)の。それはなぜ?

土岐 アン監督の作品のムードがまず好きなんですよね。ストーリーももちろんだけど、映像や音楽、キャスティング、ドラマの持つ雰囲気がすごくロマンチックで、完成されているというか。家で夜に1人でお茶を飲みながらぼんやり観ているとリラックスできるような、大人の余裕を感じさせる雰囲気。音楽も、監督がセレクトするそうなんですけど、けっこう懐かしいテイストの英語曲が中心なんですよ。「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」「ある春の夜に」(2019年)はレイチェル・ヤマガタさんがOSTを担当してるんですけど、懐かしい感じのアメリカンポップスで、とにかく素敵な雰囲気なんです。

K-POPゆりこ なるほど。確かにあの監督の映像には、土岐さんの曲を流してもすごく合いそうです! 夜景の撮り方とかもすごくきれいですよね。2人で家に帰って行くごく普通のシーンですら、質感が素敵で。

土岐 そうですね。映画作品みたいに、監督がドラマの全体ムードをコーディネートしている作品に加わってみたいなと思っています。……と言いつつ、実は私、韓国ドラマのOSTに参加したことがあるんですよ。

K-POPゆりこ え!? そうなんですか? 土岐ペンの私としたことが初耳です。

土岐 (笑)。けっこう前の、「ソウルメイト」(2006年)っていうドラマなんですけど。ちょうどその頃に「STANDARDS on the sofa~土岐麻子ジャズを歌う~」っていうアルバムを出して、韓国で取材を受けていたときに、よくわからないけどそのプロモーションの一環で、冷蔵庫か何かのCMに私の曲が使われてたみたいなんですね。で、そのときに「ドラマのBGMにもなっているらしいよ」とは聞いていたんですが、どういうことなのかよくわかってなかったんです。それで最近になって、通っている韓国語学校の先生が私のことを調べてくれたようで、「土岐さん、『ソウルメイト』のOST歌ってるじゃないですか! 「Play Our Love's Theme」っていう曲、サブスクにありましたよ!」と言われて(笑)。

土岐麻子

土岐麻子

K-POPゆりこ えええ。そんな経緯でわかったと。すごいですね!

土岐 びっくりですよね。自分の知らないところでOSTに参加していたという(笑)。日本だとあんまりそういうことはないじゃないですか。でも韓国ドラマをたくさん観るようになって、なんとなくその使われ方の意味合いがわかったような気がしますね。

K-POPゆりこ 音楽監督さんは本当に耳で選んでいるから、純粋に土岐さんの歌がいいなと思って選んだんでしょうね。すごいです! 今後もまた、土岐さんの曲がドラマで聴ける機会があったらうれしいなあと思います。

「このドラマはぜひ観てほしい」2人のオススメ作品は?

土岐麻子

「調査官ク・ギョンイ」

前回のVol.9でもお話ししたんですけど、主役、バディ、敵、謎のボス、全員が女性の役者で、かといって女性性は少しも描かれていません。反対に男らしさを発揮して活躍するような男性のキャラクターも出てきません。自分の中のジェンダーバイアスが浮き彫りになる作品でした。コメディとしてもサスペンスとしても面白いし、イ・ヨンエさんの演技もすごい。あらゆるところで完璧なドラマだなと思います。

「賢い医師生活」

医師たちの日常を描いているのに、ブランドものを持っていたりゴージャスなマンションに住んでいたりするような韓国ドラマでお馴染みの描写がないのが新鮮です。病院の1階で売ってる紙コップのコーヒーを仲間に買って行ってあげるとか、忙しいランチタイムにみんなでテイクアウトののり巻きをかじるとか、そうした些細なことを素敵に思わせてくれる作品です。

「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」

ボックスティッシュを抱えて号泣しながら観ました。ストーリーはたくさんの時を超えていく壮大さがありますが、今を生きる登場人物たちは人間らしい愛情や友情をやり取りし、コミカルで魅力的。あの世とこの世の描き方に、たくさんのロマンを感じました。OSTの「I Miss You」は好きすぎて思わず日本語歌詞を付けてカバーしました。

K-POPゆりこ

「D.P. -脱走兵追跡官-」

韓国の軍隊の中でも少し特殊な、“脱走兵を捕まえる”軍人のお話。経験者も認めるほどとてもリアルに描かれているそうです。OSTにはHYUKOHのボーカル、オ・ヒョクや最近コン・ヒョジンとの交際で話題のケビン・オが参加。ハン・ホヨル役のク・ギョファンは、オ・ジョンセのようなすごくいいバイプレイヤーになると思います。かわいいイメージだったチョン・ヘインの骨太な演技も楽しめます。

「応答せよ」シリーズ

「賢い医師生活」と同じ監督、脚本家の大ヒット作。「1997」「1994」「1988」と3シーズンありますが、どれも当時のカルチャーや事件などを背景に若者たちの恋や友情、家族を描く名作です。「1997」から順を追って観るもよし、ピンとくる年代から観るもよし。私はどのシーズンも数回号泣しました(悲しい涙ではなく感動のほう)。現在ヒット中の「二十五、二十一」が好きな人にもおすすめです。

「ドリームハイ」

11年も前の作品なのですがアイドル出演ドラマの成功例。最近K-POPアイドルたちが通うことでも知られる「芸術高校」が舞台となった青春ドラマです。キム・スヒョン、テギョン、スジにIU……今見ると豪華すぎるキャスト陣に驚きます。そしてJ.Y.Parkも先生役で出ていました。出演していませんが元Wonder Girlsのソネが歌うOST「Maybe」は名曲です!

左からK-POPゆりこ、土岐麻子。

左からK-POPゆりこ、土岐麻子。

新沼のコーナー

兵役によるメンバーの活動休止は、韓国の男性グループの推し活につきまとう憂慮の1つでしょう。入隊したメンバーは1年以上服務することになるけれど、無事に帰って来ても年齢順にまた他のメンバーが入隊、というのを繰り返し、ファンは何年間も全員そろった“完全体”のグループ活動を待ち続けることになったりするのです。「いっそメンバー全員で同時期に行ってくれー!」と思ってもグループの維持を考えると難しいことだというのも理解できます。そんな中、昨年末にそれをやってのけたグループがいるというニュースを見て驚きました。ONF。1人の日本人メンバーを除いた韓国人メンバー全員が、同じ時期に入隊。グループ活動の空白を最小化したいというメンバーの思いによる決断だそうで、アイドルグループとしては異例のことだと書かれていて印象的でした。

そんな記憶も新しい彼らを、読者の【別世界】さんが激推ししてくれます。

「ONFは『名曲の宝庫』と言われているグループ」なのだとか。練習生時代から音を手がけるのは実力派音楽集団・MonoTreeのファン・ヒョン。アンドロイド・平行世界・タイムリープ……と、過去・未来・現在が交差する世界観で、MVには壮大な伏線が張りめぐらされているそうだ。同じ制作陣で紡いでいるからこその作品性でしょう。

【別世界】さんは、そんなONFの曲を3曲選んで紹介してくれました。
まずはONFの代表曲ともいえる「We Must Love」。

「相手に対して“自分を愛することになるだろう”という確信は、過去か未来に2人の間に何かあったからかも……。小説のような内容です」

※動画は現在非公開です。


2曲目は「Moscow Moscow」。

「彼らの隠れた名曲であり、FUSE(ONFファンの呼称)や音楽評論家からも人気の高い収録曲です。他のK-POPグループにはないようなバラード曲で、歌詞の“もしかしたら僕たち、ずっと前に魔法にかけられて記憶を奪われたのかも”なんて、ONFの世界観が爆発しています」

3曲目は、デビューから4年にして音楽番組初1位を獲った「Beautiful Beautiful」。

「“生きていてる私たちは美しい”と、暗い世の中を明るくする前向きな曲で、曲中にはアカペラが盛り込まれています。このMVもこれまでの世界観を引き継いでおり、マーベルのCGチームが制作しました」

3曲とも違ったスタイルの曲ですし、他の曲も気になります。もっと知りたいと思わせるストーリー性がありますね。

【別世界】さんは、ONFの魅力に「歌声、表現力、ファン思い」の3点を挙げてくれました。

歌声に関しては、ハイトーンからロートーンまで、発声にもそれぞれ違って、けっこう個性がハッキリと分かれているなというのが初見の私にもわかりました。「Beautiful Beautiful」ではアカペラ調のパートもありましたが、そのバラバラの声の個性が躍動感を出しているのかも?【別世界】さんによる「虹のような美しさ」という表現、いいな~と思いました。

表現力に関しては、同じ制作陣でやっていることから、曲やコンセプトの深い理解につながっているのでしょうね。

そして3つ目の、ファン思いの行動についてですが、VLIVEはほぼ毎日で、bubble(チャット形式でアーティストからメッセージが届くアプリ)は彼氏のような頻度なんだとか。
【別世界】さんいわく「彼らの代名詞は“名曲の宝庫”ともう1つ、“VLIVE公務員”です。毎日のように配信を行い、時にはメンバーが順番待ちをしているほど。ちなみにですが、ONFはVLIVEで“最長・最短配信記録”と、“タルゴナコーヒーを初めて配信で作ったK-POPアイドル”というタイトルを持っています。コンカフェ訪問もマメだったONFに加わったのが、bubbleです。時間さえあればとにかくメッセージを送ってくるので、毎日通知が忙しい。なんと、リーダーのヒョジンは入隊前、訓練所に入る直前に歩きながらボイスメッセージを録音、すぐにbubbleで送ったのでした。入隊10秒前までファン思いなのが伝わるエピソードです」

そして、もっともファン思いな出来事は、件の同時入隊だと言います。現在は1人で留守を守る日本人メンバーUが番組出演をしたり、これまでと変わらずファンと交流をしているそう。
兵役はファンとの信頼関係を試される機会でもあるでしょう。ファンを信じて入隊したONF。FUSE思いのONFは、ONF思いのFUSEの心を信じたということですね。美しい鏡!

K-POPファン歴10年近い【別世界】さんは今、彼らを推していて「不安が全くない」そうです。なんだその、結婚生活のような推し活……!
ちなみに私の推しグルMONSTA XとONFは、同じボーカルスクール、同じダンススクール、高校の先輩・後輩、さらにはモネク候補生のメンバーもいたりと、縁があって仲がいいのだとか。

最後に、メンバーの自己紹介ソング「My Name Is」。

韓国人メンバーが除隊してグループ全員がそろうのは2023年6月末頃と考えられています。“VLIVE公務員”の1年6カ月ぶりの帰還が、私も楽しみです。

このコーナーでは、私をこれから新しいK-POP沼にハマらせてくれる情報を引き続き募集します。こちらのフォームから、ぜひあなたの沼を熱くプレゼンしてください。

土岐麻子

土岐麻子

土岐麻子

1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2011年12月に初のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」を発表し、ソロデビュー10周年を迎えた2014年11月に「STANDARDS」最新作となる「STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~」を発売。2021年2月にカバーアルバム「HOME TOWN ~Cover Songs~」、11月にはオリジナルアルバム「Twilight」をリリースした。

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K-POPゆりこ

音楽・エンタメ領域で活動するライター。雑誌編集者を経て渡韓し、ソウルで1年半を過ごしたのちに帰国。現在は女性誌やニュースメディアなどで、韓国カルチャーについて執筆している。

K-POPゆりこ 韓国沼の主婦 (@yurikpop0327) | Twitter

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ドラマ対談の後編、更新しました!今回は久しぶりの新沼のコーナーもあります〜! https://t.co/eZ6bW2S4No

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