左からK-POPゆりこ、土岐麻子。

土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.10(前編) [バックナンバー]

韓ドラは後半で面白くなる作品が多い? 注目したいバイプレイヤーは?

韓国通ライター・K-POPゆりこと韓国ドラマを語り尽くす

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視聴者の厳しい目

土岐 確かに、回収されない伏線って少ない気がします。すごく緻密に描かれているなと。韓国ドラマの制作体制についてですが、じっくり丁寧に作るというのは昔からそうなんですか?

K-POPゆりこ 昔は「撮って出し」な時代もあったみたいです。撮影現場からバイク便などでテープを局に送り、すぐ編集してその日の夜にオンエア、みたいな。よく観ると照明さんの機材やスタッフが画面に映り込んでいたり(笑)。

土岐 えええ(笑)。

K-POPゆりこ 撮影とオンエアのタイムラグがあまりないから、視聴者から「あのキャラクターを殺さないで」って電話が大量にかかってきたら、亡くなる設定だったはずの人物の病状が急によくなったりとか、そういうこともあったみたいです(笑)。でも今は制作会社が海外に作品を売ることで資金繰りがしやすくなったり、Netflixなど配信プラットフォームがオリジナル作品に投資することも増えたので、最初から予算がしっかりあって、丁寧に撮れるシステムが整ってきました。あとは、監督や脚本家もとても重視されていますね。「○○さんの作品なら出演します」っていうことも増えているみたいで。

土岐 俳優サイドがそう言うということですか?

K-POPゆりこ そうです。出演オファーを受ける際「脚本家は誰か」を気にすることが多いと聞きました。人気ある役者がどんなに演技をがんばっても脚本が稚拙だと、やっぱり本国の視聴者に厳しくジャッジされてしまうんですよね。

土岐麻子

土岐麻子

土岐 韓国の視聴者の目の厳しさは随所で感じますね。BLACKPINKのジスが主演した「スノードロップ」(2021年)が、あらすじが明らかになるに従って歴史歪曲だと放送前から抗議が殺到して、大統領府に国民請願が出される事態にまで発展するということがありましたよね。結局申請は棄却されて放送されたんですけど、放送されたらジスの演技がどうとかまたいろいろ言われていて。プロが言うならまだしも、視聴者がそんなに厳しい目で見ているのは少し怖いなと思いました。でも、だからこそ作品が研ぎ澄まされていくということなんですかね。

K-POPゆりこ そうですね。度が過ぎた批判は社会問題にもなっていますが……面白いものは面白いと讃え、たとえ好きな役者の出演作でもつまらなければつまらないという、韓国の視聴者の正直で厳しい目が韓国作品を育てていると思います。

バイプレイヤーを覚えると、韓国ドラマは何倍も楽しい!

K-POPゆりこ 韓国ドラマの楽しみ方ということで、今日ぜひお話ししたかったのが、「バイプレイヤーの顔を覚えると何倍も楽しくなるよ」ということ! 何作品も観て行くと、「あれ、あのドラマで主人公の父親だった人が今度は殺し屋の役やってる?」とか、気付きがあるはずなんです。

土岐 私もバイプレイヤーに目が行きがちで、観終わったあとすぐに「この人はほかに何に出てるのかな?」と調べることが多いですね。次に観る作品を決めるとき、主演の人を知らなくても、好きなバイプレイヤーが出ていたらそれが決め手になることも。

K-POPゆりこ ありますね。いつかコロナ禍が明けて韓国に自由に旅行できるようになったら、ぜひ現地で屋外広告やテレビCMを観てほしいです。「この入れ歯接着剤の広告のおじさん、あのドラマのあの人じゃん」って、わかることが多くて面白いはず。バイプレイヤーの知識がついてくると、一気に韓国ドラマ通になれた感覚を持てると思います。

土岐 好きなバイプレイヤーということで言うと、パッと浮かぶのは「梨泰院クラス」で長家(チャンガ)の会長をやっていた、ユ・ジェミョンさん。すごいお年寄りなのかと思っていたら、私とそんなに年齢が変わらなくて(笑)。今48歳だったかな。

「梨泰院クラス」より、ユ・ジェミョン演じるチャン・デヒ。(Netflixシリーズ『梨泰院クラス』独占配信中)

「梨泰院クラス」より、ユ・ジェミョン演じるチャン・デヒ。(Netflixシリーズ『梨泰院クラス』独占配信中)

K-POPゆりこ 老人を演じるための特殊メイクがすごくリアルでしたよね。「ヴィンチェンツォ」(2021年)にも出られていましたね。

土岐 そうそう、「ヴィンチェンツォ」では庶民的な弁護士の役で、全然違いました。いろんなドラマを観て行くうちにあちこちでいろんな役をされてることに気付くんですけど、ジェミョンさんはオーラが自由自在という感じ。あとは、私は阿部サダヲさんが大好きなんですけど、「社内お見合い」(2022年)に出ていたイム・ギホンさんは阿部さんを彷彿とさせる雰囲気がありました。すごくコミカルな演技で、ギホンさんが出てくると必ず面白いシーンになる印象。Twitterでも同じようにつぶやいている人がたくさんいましたね。ゆりこさんが好きなバイプレイヤーはどなたですか?

K-POPゆりこ 女性から挙げていくと、ラ・ミランさんは、ここ数年全盛期を迎えているなあと思います!

土岐 「恋のスケッチ~応答せよ1988~」(2015年)でお名前を覚えました。女性から人気のある方なイメージです。バラエティ番組とかにも出ていますよね。

K-POPゆりこ はい。基本的にクセが少しあるけど情に厚い役が多い気がします。あとは「パラサイト 半地下の家族」の家政婦役で注目されたイ・ジョンウンさんは、舞台役者から出てきた人ですけど、これからどんどんメジャーな場で活躍していくんだろうなと思います。

土岐 お名前はちゃんと覚えられてなかったけど、いろんな作品でお顔を見ている気がします。

K-POPゆりこ 男性だったら、イ・ムセンさんが気になってます。「ある春の夜に」(2019年)や「夫婦の世界」(2020年)に出ていて、それまではそんなに気になる存在ではなかったんですけど、最近の「39歳」(2022年)での泣く演技がすごくて。「さあ泣くぞ」っていう感じじゃなくて、「本当に大切な人に悲しいことが起きたらこういう泣き方をするよな」というリアルさがあったんですよ。演技というより、役が乗り移っている感じでした。あとは「サイコだけど大丈夫」で自閉スペクトラム症を持つサンテ役を演じていたオ・ジョンセさんも、いろんな面を持っていて応援しています。最初「会いたい」(2012年)で見たときはカッコいいなと思ったのですが、近年はコミカルだったり情けない役もいっぱいやっていて、演技の幅が広いなって。

「サイコだけど大丈夫」より。右がオ・ジョンセ演じるムン・サンテ。(Netflixシリーズ『サイコだけど大丈夫』独占配信中)

「サイコだけど大丈夫」より。右がオ・ジョンセ演じるムン・サンテ。(Netflixシリーズ『サイコだけど大丈夫』独占配信中)

土岐 「サイコだけど大丈夫」のメイキングを観たとき、すごく感動したんです。木の前でサンテがお母さんに向けて絵本を読んで号泣するシーンがあるんですけど、カットがかかったあとに、主演でオ・ジョンセさんの弟役のキム・スヒョンさんが「どうしてこんなふうに(悲しく)作り上げたの!?」って泣いていて。台本だけではそこまで泣けるシーンではないと共演者も思っていたけど、感情が込み上げてくるままに演技した結果、そこまでの演技が引き出されたんだろうなと。当たり前なんだけど、役者の演技の加減によってドラマが大きく変わる。俳優さんが作り上げている部分って大きいんだなと思います。

K-POPゆりこ そうですね。台本に書いてあるのはただの文字だけど、それをどう表現するかは俳優さん次第。それが上手でケミストリーを生める方が、いいバイプレイヤーとしていろんな作品に呼ばれているんでしょうね。

土岐 「椿の花咲く頃」(2019年)で全国民から嫌われるような悪役を演じていたイ・ギュソンさんは、演技が鳥肌ものだなと思ったんですけど、オ・ジョンセさんと同じ作品に立て続けに出ていますよね? すごく慕ってるみたいで。オ・ジョンセさんが次に出る作品を聞いて、その作品のオーディションを受けに行ったりしてるみたいです。

K-POPゆりこ キャストからの推薦で出演が決まるということもあるようなので、もしかしたら監督が「この役に合いそうな役者、誰かいる?」と聞いて、イ・ギュソンさんが共演者にフックアップされている、ということもあるかもしれないですね。あくまで憶測ですが。それぞれ演技が上手で、お互いに信頼しあっていないと成り立たないことだなあと思います。

土岐 日本のドラマのキャスティングは、事務所の影響力の大きさを感じることも多いですよね。主演の人の事務所の後輩俳優が脇役で出ていたりとか。韓国ドラマでも、キャスティングにおいてそういう影響はあったりするのでしょうか?

K-POPゆりこ 少ないと思いますね。2000年代前半までは、サイダスHQ(現iHQ)いうマネジメント会社がとても大きくて、どのドラマを観てもその事務所の人ばかりということもあったんです。あのヨン様(ペ・ヨンジュン)や、チョン・ジヒョンさん、ソン・ヘギョさん、コン・ユさんとかもいましたね。そこからみんな独立したり他社へ分かれていったので、今はそういう存在はない気がします。事務所よりテレビ局より何より、キャスティングにおいて強いのは監督と言われています。監督と脚本家が描く世界に全然マッチしていなかったら、大手の事務所の俳優でも採用されないんじゃないかと思います。もし出演できたとしても、期待に応えられなければ視聴者から厳しい目で見られますから。「あの子はバーターだよね」みたいな話も、日本より聞かない印象です。

土岐 なるほど。

K-POPゆりこ 韓国国内での視聴率1位も大事ですが、Netflixなどを通じて世界で観られることを重視しているので、見ているところが違うなと思いますね。変な話、韓国ではスポンサーの力も微々たるもののように感じます。最近では、CJ ENMがスタジオドラゴンとは別に新しいコンテンツスタジオ「CJ ENMスタジオズ」をこの春に新設したり、「スタジオドラゴンジャパン(仮)」の設立も予定しています。今年2022年に日本に進出すると言われているTVINGもオリジナルコンテンツを拡充しているので、さらに韓国ドラマの競争はさらに激しくなると思います。いいドラマも増えそうですが、視聴者側からすると時間が足りないという幸せな悩みがさらに増えそうですね(笑)。

後編につづく)

左からK-POPゆりこ、土岐麻子。

左からK-POPゆりこ、土岐麻子。

土岐麻子

1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2011年12月に初のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」を発表し、ソロデビュー10周年を迎えた2014年11月に「STANDARDS」最新作となる「STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~」を発売。2021年2月にカバーアルバム「HOME TOWN ~Cover Songs~」、11月にはオリジナルアルバム「Twilight」をリリースした。

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K-POPゆりこ

音楽・エンタメ領域で活動するライター。雑誌編集者を経て渡韓し、ソウルで1年半を過ごしたのちに帰国。現在は女性誌やニュースメディアなどで、韓国カルチャーについて執筆している。

K-POPゆりこ 韓国沼の主婦 (@yurikpop0327) | Twitter

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ナタリー連載、今回はゆりこさん @yurikpop0327 とドラマについて語りました!まずは前編です。 https://t.co/nFXVGolIse

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