あなたはNHK-FMの名物企画「今日は一日○○三昧」をご存知だろうか?
祝日をメインに不定期で放送されている「今日は一日○○三昧」は、毎回1つのテーマを設け、長時間の生放送で徹底的に深掘りしていく番組。約16年の歴史を持ち、毎回多くの反響を呼んでいる。
放送されるたびにSNSで話題となるこの番組は、どのように作られているのか? 音楽ナタリーではその舞台裏を探るべく、2月23日(水・祝)に放送されるジャニーズ縛りの企画「
取材・
NHK-FMの特性を生かした“三昧”企画
「今日は一日“アニソン三昧”」「今日は一日“みんなのうた”三昧」「今日は一日“プログレ”三昧」「今日は一日“失恋ソング”三昧」「今日は一日“RADWIMPS”三昧」――「今日は一日○○三昧」は、1つのジャンルやテーマ、1組のアーティストに焦点を当て、8~10時間の編成でディープに掘り下げるNHK-FMの番組だ。2006年1月に放送された第1回の「今日は一日“ラテン三昧”」から、今年2月11日の「今日は一日“乃木坂46”三昧 ~第二章~」まで、これまでに260回以上が放送され、NHK-FMの名物プログラムとして人気を博している。
「NHK-FMでは古くからクラシック、ジャズの特別番組を放送してきましたが、『いろんなジャンルをテーマにした特別番組を編成してはどうか』ということになり、2006年から『今日は一日〇〇三昧』という形でスタートしたようです。NHK-FMはラジオ第1に比べニュース番組の時間帯も少なく、生放送の長時間番組という思い切った編成ができる。その特性を生かして、1つのテーマに絞り、FMならではの高音質で1日じっくりと音楽に浸ってもらおうというわけです」
「アニソン」「戦後歌謡」「ピアノ」「沖縄音楽」などのテーマに沿って、リスナーからリクエストを募集し、そのジャンルやアーティストに詳しいゲスト陣のトーク、スタジオでの生ライブ、リスナーからのコメントなどを交えながら構成される「今日は一日〇〇三昧」シリーズ。NHKのディレクターを中心に、アナウンサーや制作会社のスタッフ、ときにはMCたちも企画を提出し、採択されたら提案者が中心となって番組を作り上げるシステムを取っている。制作者の熱意、そのジャンルに対する愛情が感じられるのもこのシリーズの魅力だ。
「決まり事は『1つのテーマにこだわる』『リスナーのリクエストに応える』だけで、それ以外は本当に毎回、担当者が自由に制作しています。通常の番組では、専門的な用語、マニアックな話題が出たときに『こういうことですよね』と説明を挟みますよね。でも、コアなリスナーが多く聴いている『〇〇三昧』では必ずしもそうではなく、ゲストの皆さんのトークの流れも大事にしていて。クロストークしていただくことで、レアな話題が飛び出すことも多いですね」
プロレス好きが高じて番組誕生
伊達氏が初めて「〇〇三昧」に参加したのは、「プロレス・格闘技テーマ曲三昧」(2009年)。当時は福岡放送局にアナウンサーとして在籍していたが、プロレス好きを公言していため、番組担当として起用されたのだとか。
「個人的な話になりますが、私がアナウンサーになりたいと思ったきっかけは、古舘伊知郎さんのプロレス実況だったんです。もちろんプロレスも大好きでしたが、まさかその知識が放送で生かせるとは思っていませんでした(笑)。レスラーの入場テーマをかけるたびに、リスナーの皆さんから『〇〇〇が登場するところをイメージして、拳を握りしめて聴いています!』といった熱い感想がたくさん寄せられて。レスラーのコスチュームや必殺技など、マニアックな話で盛り上がれたのも楽しかったですね。その頃はまだSNSが普及してなかったんですが、インターネットの掲示板もすごく盛り上がって、私自身も『〇〇三昧』の面白さを実感しました」
その後、伊達氏は演出やプロデュ―サーとして、「爆笑コミックソング三昧」(2012年)、「GLAY三昧」(2019年)、「Mr.Children三昧」(2019年)、「松田聖子三昧」(2021年)などを制作。その中で想定以上の出来事を経験してきたという。例えば2017年に放送された「
「中学生の頃、おニャン子クラブが大好きだったんですけど、それだけで番組を作るのは難しいと思い、秋元康さんが書かれた歌詞をフィーチャーして企画を通したんです。当初はご多忙な秋元さんが生出演する予定はなく、事前に収録したコメントを放送する予定だったんです。でも、実際に事務所に行って、ご本人に企画を説明させていただいたところ、『面白い! これは僕が出たほうがいいよね!』と言っていただき、結局、最初から最後までスタジオで生出演してくださったんです。その翌年(2018年)も『秋元康ソング三昧』を放送したのですが、そのときはとんねるずのお二人、松任谷由実さん、久米宏さん、三谷幸喜さん、福山雅治さん、指原莉乃さんなど、縁のある方々が次々と出演されてそれぞれ1時間前後の豪華なトークが実現しました。しかも台本はなし。秋元さんに『いいラジオの台本っていうのは、何も書いてない台本なんだよ』と言われたことは、今でも印象に残ってますね」
リスナーとの双方向のコミュニケーションを大切に
オフコースの大ファンとして知られる阿部渉アナウンサーが司会を務めた「
「鈴木さんがいらっしゃるスタジオにお邪魔して、取材させていただきました。小田さんと2人だけのオフコース時代の『ひとりで生きてゆければ』をリクエストしてくださったんです。『声がかすれてきたり、ステージとかそれなりに気を使うところもあるので、がんばっていきたい。お互いそれぞれのアーティスト活動をがんばりましょうということです』と小田さんへの思いも語ってくださって。それを聞いたスタジオの小田さんも、『すごいのを録ってきましたね。ビックリです。ありえないですね。これはもう消化するのにしばらくかかりますね。[ひとりで生きてゆければ]を挙げてくれたことも含めて。俺はすごくあいつから学んできた。あいつが俺から学んでると思わなかったし、そんなことも初めて聞いたし。いやあ、びっくりしましたね……』と語りました。そのやり取りが放送された直後、『オフコースの大ファンの母が泣いてます!』などリスナーの方々の反応もすごかったですね」
また、SNSを介したリスナーとの双方向のコミュニケーション、番組放送中のリアルタイムの盛り上がりも“三昧”企画が支持されている理由だ。
「『セパ対抗! 今日は一日“プロ野球ソング”三昧IN福岡』(2012年)はNHK福岡放送局からの公開生放送だったんですが、Twitterでの盛り上がりがすごくて。リスナーの皆さんの投票でMVP(最優秀選手)ならぬ“MVS”(最優秀ソング)を決めたんですが、阪神のトーマス・オマリー選手が歌った『六甲おろし』が選ばれたときは即トレンド1位になりました!」
放送中は、ほぼTwitterのタイムラインを見ているという伊達氏。リスナーからの情報提供やリクエストに即座に反応することも多いという。
「『
“三昧”制作は学生時代の文化祭のような楽しさ
2月23日には、「A.B.C-Z10周年!今日は一日“J'sソング”三昧」が放送される。A.B.C-ZがMCを務めるNHKラジオ第1「A.B.C-Z 今夜はJ's倶楽部」のスピンオフ特番で、リスナーのリクエストをもとに、歴代のジャニーズの楽曲を8時間半にわたって生放送。またトークはA.B.C-Zのメンバー、各グループの貴重なエピソードを交えながら進行するという。
「僕は『A.B.C-Z 今夜はJ's倶楽部』にも携わっていますが、普段から『この番組が1週間がんばったご褒美』『この番組を聴いている間は、仕事のつらいことも忘れられます』といった感想がたくさん送られてきて。今回の『J'sソング三昧』はA.B.C-Zのデビュー10周年にも重なっているので、熱を込めて作らなくちゃいけないなと思っています。当日は
1つのテーマを深く掘り下げる長時間の構成、ゲスト陣の貴重なトークやここでしか聴けない音源、さらにSNSを通したリスナーとのやり取り。コロナ禍以降、再び注目されているラジオというメディアの利点を存分に生かした「今日は一日〇〇三昧」は、今後さらに存在感を増していくことになりそうだ。
最後、あまりにも楽しそうに話す伊達氏に「特殊な番組なので苦労も多いのでは?」と聞くと、氏は笑いながらこう答えた。
「MCやゲストをどなたにお願いするか、どの曲をどういう順番でかけるか。それぞれのテーマのコアなファンの方が聴いてくださる番組なので、とにかく準備はしっかりやっていますけど、本番で何が起こるかわからないのでまったく気は抜けません。とはいえ、『〇〇三昧』の企画が通ってから放送当日までは、学生時代の文化祭の準備のような楽しさがあるんですよ(笑)。リスナーの皆さんが参加することによってさらに盛り上がる番組でもあるので、ぜひ、Twitterのタイムラインを見ながら聴いていただけたらと思います」
「今日は一日○○三昧」最新情報
NHK-FM「A.B.C-Z10周年!今日は一日“J'sソング”三昧」
2022年2月23日(水・祝)12:15~21:15(※一部ニュースなどの中断あり)
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楊(やん) @yan_negimabeya
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