土岐麻子

土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.9 [バックナンバー]

2021年を彩った、トワイライト気分な10曲

SSWからラッパー、アイドルグループまでをプレイリストでお届け

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7. Minsu「Healthy Food」(2021年)

語学の勉強のためによく韓国のラジオをアプリで聴いてるんですけど、いつも聴いている「설레는 밤」(トキメキの夜)っていう番組でこの曲がかかって、「なんてかわいい曲なんだろう!」と好きになりました。「Healthy Food」というタイトルの通り、ブロッコリーとか鶏胸肉とかアサイーボウルとか……低糖質高タンパクのストイックな食事のことを歌ってる曲です。古めかしくユーモラスで80'sぽいミニマムなサウンドの上に、ちょっとヘンテコな歌詞が乗っている感じが面白いなって。アイドルってみんな、体作りのための食事制限をすごくがんばっているじゃないですか。Minsuさんもきっと、ヘルシーフード生活に嫌気がさしてこの曲を作ったんじゃないかな、と(笑)。そういうシニカルなムードも感じました。サウンドはミニマムな中にも細かいところにこだわりが感じられて、冒頭に電子レンジの音が入っていたりするのもユニークですね。

8. ZEEBOMB「Surf'low」(2021年)

ZEEBOMBさんも韓国のラジオがきっかけで好きになりました。KBSラジオを夜中に聴いていたら「Beautiful Night」が流れてきたんですけど、声から、絶対にベテランのおじさんシンガーなんだろうなと思ったんです。でも調べたら青年で(笑)。ほかの曲も聴いてみたら、この「Surf'low」が80'sの香りがする西海岸っぽいサウンドで好きになりました。シティポップというか、今のトレンドっぽさがありますよね。古家正亨さんの番組に出させてもらったときに「Beautiful Night」をかけたら、あの古家さんでもご存知なかったので、まだ知る人ぞ知るアーティストなのかな。「Beautiful Night」は歌謡曲っぽいアレンジの弾き語りバージョンもあるので、そちらも聴いてみてほしいです。

9. サム・キム「Love Me Like That」(2021年)

今年ヒットしたドラマ「わかっていても」のオリジナルサウンドトラック(OST)です。「わかっていても」では、若いがゆえに抗えない性愛みたいなものが描かれていて。共感しづらいところも多くて「私、本当にこのドラマが好きなのかわからないな」と思いつつ、でも面白くてつい観てしまうという、不思議な作品だったんですよね。それはもしかしたら、この曲が映像と相まって醸し出される甘美なムードに惹かれていたのかもしれないと思いました。ドラマのOSTは積極的にチェックするほうではないんですけど、ドラマを観ていてたまに、話を追うより流れている音楽に耳がいってしまうことがあって、この曲もそうでしたね。


今年のドラマではほかには、「調査官ク・ギョンイ」という作品がすごく面白かったです。主人公のクギョンイは「宮廷女官チャングムの誓い」のイ・ヨンエさんなんですけど、あんなに透明感のある方が、お酒ばかり飲んでいる自堕落なゲーム好きの元警察官の役をやっていて、すごいキャスティングだなと(笑)。メインの役どころが全員女性だったり、男性同士の恋愛がさらりと描かれていたり、自分の中にあるジェンダーバイアスを突きつけられる、痛快なドラマでしたね。サントラもシューゲイザーっぽい感じですごくよかったです。

10. リチャード・パーカーズ「Psychic」(2014年)

リチャード・パーカーズさんにはLambCさんと同じくらいの時期にハマって、この曲をずっと聴いていました。MONSTA Xのショヌさんが、何年か前に上げたダンス動画でこの曲を使っていたんですね。ショヌさんのダンスももちろん好きなんだけど、曲がすごくよくて、途中から曲ばかり気になっちゃって(笑)。声が中性的で独特で、本当に素敵なんです。テレビ番組に出ている映像を観るとミュージシャンっぽい佇まいで、制作と表現に打ち込んでいる雰囲気にシンパシーを感じましたね。

実はLambCさんの前に、リチャード・パーカーズさんにもインスタでメッセージを送っていて。一緒に音楽を作ろうというお誘いではなく、とにかく好きだということを伝えたかったんです。覚えたての韓国語でしたけど、すぐにお返事をいただいて、私の音楽も聴いてくれて「ファンになりました」と言ってくださって。すごくうれしい交流でしたね。最近はOSTのお仕事が多いのかな。それもまた違ったテイストで素敵ですが、オリジナルアルバムが出るのも楽しみに待っています。

変わり続ける姿勢に勇気をもらう

K-POPを好きになったのは2019年の春なのでまだ月日が浅いですけど、この2、3年の間で音楽シーンもものすごいスピードで変化していて、変化を貪欲に取り入れる文化の国だなと思っています。MAMAMOOは去年「HIP」で自分のスタイルを貫く姿勢を示して大きな共感を得ましたけど、今年11月にメンバーのファサが出したソロ作品(「Guilty Pleasure」)を聴いたら、また更新されている感じがあって。同じところに立ち止まってはいない人たちなんだなあと感じます。韓国の方々の真剣な表現からはこれからも目が離せないですね。

土岐麻子

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余談ですけど、先日美容師さんが「ブリーチして鮮やかな色を入れる大人の女性がめちゃくちゃ増えました」って話していたんですよ。コロナ禍でリモートワークが浸透した影響もあるでしょうけど、話を聞くとK-POP好き、BTS好きという方が圧倒的に多いそうで。やっぱりバンタン(BTS)の「Dynamite」のヒット以降、K-POPに新しい扉を開けられた大人の方が増えているんでしょうね。髪をブリーチして色を入れるってテンションが高くないとできないと思うし、すごくワクワクすることだなと。K-POPスターたちの変わり続ける姿、挑戦していく姿勢に、本当に私たちは勇気をもらっているんだなあと思います。来年も韓国のエンタテインメントがどんなふうになっていくか、どんな作品が生まれるか、楽しみにしています。

新沼のコーナー

こんにちは、土岐麻子です。新沼のコーナーですが、本題に行く前にちょっと雑談を……上記のインタビュー最後で「BTSが日本の大人たちの髪色を変えた」という話をしましたが、そういった変化を感じる場面には、日常の中でほんとにたくさん出会います。
たとえば2020年の「Dynamite」の登場で、ラジオ局のK-POPに対する雰囲気が変わったことを肌で感じています。
昨日はあの番組、今日はこの番組、あのディレクターが、あの作家が……「Dynamite」をオンエアしたらしいという情報が連日のように入ってきました。それも「ただただ流したい! 聴きたい! 聴かせたい!」という一心で、考えるよりも先に体が動いているような雰囲気。
私たちが呼ぶ、いわゆる「洋楽」と同じように、どこの国の音楽という前置きなく、ただいいものであればかける、という自然な流れ。英語曲ということもあったけど、K-POPがK-POPの枠からまた一歩出たような、熱い現象だったと思っています。
これまでK-POPに疎かったスタッフも、BTSのみならず他のグループにまで関心を持つ人が増えて、特集番組やトークテーマになることも増えたと感じています。私は心の中でBefore DynamiteとAnno DynamiteとしてBD / ADと聖書風に刻み付けております。


新大久保以外のお店でも、よくK-POPを耳にするようになりました。
ある日、いつも洋楽しかかけない近所のカフェでBTSの「Butter」がかかっていました。ちなみに私は当時、父が他界してから音楽のことをまったく考えられない日々を過ごしていましたが、気付いたらBGMに合わせて体を揺らしながら口ずさんでいたことに驚きました。ダンスミュージックの力。そのときの「音楽が私の体に戻ってきた!」という感動は忘れられません。

この1年で知人・友人にもARMYが続々と爆誕しました。そして先日、3人の大人のジンペンを新大久保にお連れする機会がありました。バンタン(BTS)の知識がないといういささかの不安があったので、ちょっと予習して臨んだりして。
しかし「門前の小僧……」という言葉があるように、実際にペンたちの会話を聞くに勝るものはありませんでした。初対面同士の人もいたのに「ジンのヒョンぶり」「ガムのパッケージ」「大邱出身の男たちとは」というふうに、テーマがうつろいながらもグルーヴが止まらない会話。丁寧な自己紹介や人見知りをする間もなく、一気に大人同士が仲良くなる様子にはちょっと感動しました。
そして彼女達が推しへの見解を一致させていくたびに、私の中でもだんだんBTSがプロファイリングされていって……花粉症みたいに、そうやって溜まっていった情報のかけらがいつか一気に溢れて沼にハマっていくんだろうかと思ったりしている今日この頃です。
アメリカにおいてもK-POPの価値を決定づけた彼らには、良い休暇を過ごしてほしいものです。
土岐麻子

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さて遅くなりましたが、今回は「でこ」さんからメッセージいただいたA.C.Eで新沼開拓です。
(でこさん、読み応えたっぷりの推薦コメントありがとうございました!)
2021年初めにはスティーヴ・アオキ氏がBTSやMONSTA Xに続いて彼らの曲をリミックスしたそうです。しかも、なんとCHOICE(A.C.Eファンの呼称)のレコメンドによる実現なんだとか。すごいなCHOICE!
私は4月に発表したという、グループ初の全編英語詞曲「Down」がとても気に入りました。
アメリカンなポップサウンドと、彼らの雰囲気や歌声がとても合っていると感じます。
このMVでは、めっちゃ楽しそうだけどあとでお腹冷えてないか心配になるビョングァンさんが気になります。
見終わる頃にはなぜか懐かしいような、儚いような、尊い気持ちになりました。なんでしょうかこの気持ち……。
BTSに続いて、今後の彼らのアメリカでの活動もとても楽しみです。

このコーナーでは、私をこれから新しいK-POP沼にハマらせてくれる情報を引き続き募集します。こちらのフォームから、ぜひあなたの沼を熱くプレゼンしてください。

土岐麻子

1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2011年12月に初のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」を発表し、ソロデビュー10周年を迎えた2014年11月に「STANDARDS」最新作となる「STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~」を発売。2015年7月には、コンセプトプロデューサーとしてジェーン・スーを迎え、2年ぶりとなるオリジナルアルバム「Bittersweet」をリリースした。2019年10月にソロ通算10作目となるオリジナルフルアルバム「PASSION BLUE」を発表。2021年2月にカバーアルバム「HOME TOWN ~Cover Songs~」、11月にはオリジナルアルバム「Twilight」をリリース。2022年1月からワンマンツアー「TOKI ASAKO LIVE 2022 "Morning Twilight"」を開催する。

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読者の反応

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Seung-il Chang(張 勝一) @smileschang

土岐麻子さんによるK-POP年末総集編。いや、知らん人&知らん曲ばっかりやし。ええお勉強になりました~(*^^*)
https://t.co/TDu3hAz5uY

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