令和のアーティストとファンベース 第5回 [バックナンバー]
Gaudiy石川裕也に聞く、NFTがエンタメ業界に起こす革命的変化
ファンが稼ぐことのできる理想的な経済圏
2021年12月2日 17:00 5
Gaudiyが目指すのはファンエコノミーの形成
──アーティストがNFTを活用するときに想定されうることと、Gaudiyが今やろうとしていることの連携はどのようなところになってきますか?
アーティストが何をやろうとしているかに関してはわからないですけど、僕たちがやろうとしていることはエコノミーを作ることです。ファン国家とかファンエコノミーと言っているんですけど、例えば「Axie Infinity」というベトナム発のゲームがあって、それで儲けて家を建ててるユーザーがいるんですよ。これってすごくいいことで、ゲーム会社が儲かるだけじゃなくてファンの人たちが儲かっている。でも実際その人たちが「Axie Infinity」を引っ張ってきたわけです。こういう事例を僕たちは作りたいと思っています。例えばジャニオタ、ドルオタといった言葉がありますけど、これがファンの通称ではなくて職業になってほしいんですよね。YouTubeに対してYouTuberという職があるのと同義。ファンの人たちが消費者になるのではなくて、NFTを使って一緒にそのコンテンツを作り上げる共創者になり、その人たちに還元される社会を作りたい。
──それを実現するためにはアーティストの肖像権や著作権をどこまで認めるかが大事になってくると思いますが、ある程度委ねたうえで活性化させる?
そうです。だからこそコミュニティがすごく重要になってきます。コミュニティでありバーティカルであるというのが重要なこと。いまだにCtoC(※Consumer to Consumer:個人間取引)って普通にありますよね。例えばアイドルのグッズを作って友達同士で取引するとか。それを商売にしてはダメで、そこで出てくるのがFPaaSです。あるコミュニティの中でやってもらって、例えば手数料として20%が返ってくるなら運営はおそらくどんどんやってほしいですよね。自分たちがコンテンツを作らずに収入があるわけですから。だけどちゃんと制御することもできます。例えば20万円以上はダメとか、こういうアイテムは自分たちで作ろうと思っているので作っちゃいけないというガバナンスも効かせられるわけです。
──NFTの技術があれば、そういった管理ができるということですね。
そうです。Twitterで公式マークがありますけど、ああいう感じの管理になるはずです。「これは公式マークが付いていてちゃんと運営に還元されるからOKだよね」という認識がファンの間で広まり、それ以外のアイテムは消費しないという。
外部タッチポイントの重要性
──バーティカル、つまり縦軸の視点という意味で、コミュニティ外部との連携も重要になってくると思いますが、そのあたりはどうお考えですか?
これまで話したのはIPを軸としたコミュニティでできる横の幅をどんどん増やしていこうということでしたが、バーティカルな軸での拡張もどんどんやっていくべきだと思います。エンタメ消費は可処分所得の5%程度と言われていて、今まではそこを取り合っているだけだった。でも家賃とか保険代とか、残りの95%からでもエンタメの人たちは取れると思うんですよ。これはソリューションではなくてロイヤルティ(忠誠心)があるからです。
──自分が使える100%のお金のうち、エンタメ消費以外の95%の中からなんらかの手数料が入るように。
そうです。IP側に入るような切り替えをする感じですね。例えばYOSHIKIさんデザインのクレジットカードがあるんですけど、これはすごいです。消費に応じてポイントがもらえて、そのポイントを使ってグッズと交換できたり、ライブの先行予約に申し込めたりするんですよ。クレジットカードとYOSHIKIさんって本来なんの関係もないけど、YOSHIKIさんのファンはそのカードを使って消費をしますよね。そういう感じでサービスの連結部分をうまくやれば、TIFクレカ、TIF不動産、TIF保険といったものもできると思います。
──「楽天証券」とか「楽天生命」とかいろいろありますけど、“楽天”の部分がIPの名前に変わるイメージですね。アーティストのファンクラブはこれまで、ライブのチケットが買いやすくなる、会報が届くといった決まったフォーマットの中でのビジネスでしたが、新しい形のファンエコノミーとしては生活のすべてのタッチポイントに入り込んだうえでアーティストを応援できるようにする感じでしょうか?
「YOSHIKIカード」がまさにそんな感じですよね。既存のファンクラブはIPがあってそれを応援する人たちが消費する感じですけど、自分たちの考えるコミュニティはファンの人たちが主役なんですよ。ひろゆきの切り抜き動画をイメージするとわかりやすいと思いますが、ファンの人たちがちゃんと稼ぐ余地をコミュニティの中で持たせることが大事だと思います。よく投資の世界で「お金に働かせろ」と言いますよね。言い方は悪いですけど、ユーザーに働いてもらうんですよ。実は今回の「TIF」は広告宣伝費がゼロなんです。トータルで20万UU(※Unique User / サイトにアクセスした訪問者数)近い数字が出てますけど、そのうち約80%がリファラル(※SNSなどでの紹介による流入)なんですよ。
──それはなかなか聞いたことがないですね。
「SNSでシェアしてくれたらNFTをあげる」という施策をやったんです。今まで広告代理店にお金を払っていたけど、ユーザーにインセンティブを渡しました。そうするとみんなシェアしてくれて人が集まるんですよ。広告会社にお金を払うよりユーザーが口コミでシェアしてくれるほうがどっちもウィンウィンじゃないですか。「TIF」というコンテンツの価値が上がれば自分の持っているトークンの価値も上がるし。
──「TIF」は歴史があってIPとしてすでに認知がありますが、ローンチしたばかりのIPは広がりを作りづらいところもあると思います。今回「TIF」でやったような取り組みが向いてるのは大きいところなのか、もしくは小さいところでもやり方次第でどんどんグロースさせていくことができるのか、どちらでしょうか?
規模がマスであるかそうでないかではあまり関係なくて、熱量がどれくらいあるかだと思います。その中で1000 True Fansという有名な理論がありますけど、1000人の熱狂的なファンがいることがボトムで、それだけいれば成り立つと思います。これが10万、100万となるとこれはもはや都市なのでその規模をやる。僕たちはファン国家を目指しているので、国レべルの大きいことをやっていきたいと思っています。
クリエイターを応援する人たちを儲けられる世の中に
──ファンエコノミーで言うとBTSが最勢力でしょうか?
BTSについて僕もnoteで書きましたけど、本当に面白いですね。お金がないファンの人たちに楽曲を購入するお金を貸してあげるファンドとかがあって。そういうことをコミュニティの中でちゃんとできる状態を作ってあげれば、BTSに限らず、同じアーティストのファンというだけでCDを買うお金がない人たちを支えてあげる人たちが出てくると思うんですよ。
──これまでいわゆるトップオタと呼ばれる人たちは崇められるなど精神的な充足感を得るだけだったけど、彼ら、彼女らの行為に対してリアルにお返しができるような世界になっていく?
そうです。これまで還元できていなかったのは、構造をシステムにできなかったからです。でもYouTubeはちゃんとシステムを構築したのでトップYouTuberは稼いでいますよね。トップYouTuberのおかげでYouTubeはどんどん大きくなってるわけです。この構造をエンタメの中にもちゃんと入れていくことが大事だと思います。ただ、今のクリエイターエコノミーは能力のある人がよりお金をもらいやすい設計になっています。それは実際に文献があって上位1、2%の人しかできない。それはそうで、僕が歌ったって誰も投げ銭してくれないわけですよ(笑)。でもオリジナルソングは聴いてもらえないけどカラオケだったら聴いてくれる。オリジナルの絵を描いても見向きもされないけど、「ONE PIECE」のキャラクターの絵を描いたら「うまいね」と言ってもらえる。これは自分の創作物をもともとのコンテンツがエンパワーメントしてくれるからです。こういう経済圏をでかくすることが自分たちの考えるクリエイターエコノミーです。一部の人たちはすでに十分生活できているので、そうではない人たちが誰かの力を借りながらクリエイティブを回すことによってより大きな経済圏を作りたい。クリエイターが儲かる仕組みを作りたいわけじゃなく、クリエイターを応援する人たちを儲けさせたい。僕は全人類がクリエイターだと思っているので。
──それは結果的にクリエイターにも還元されて経済がより回っていくという。
そうですね。トップYouTuberのおかげでYouTubeが儲かってるのと同じですね。すごくシンプルだと思っています。そもそもカラオケとかコスプレとか、IPを使って二次創作によりエンパワーメントしていく文化ってめちゃくちゃ日本っぽいんですよ。だからこそ日本からやる意味があると思っています。
──コミケもそうですよね。
そうですね。バイデン米大統領が大統領選の際に「あつまれ どうぶつの森」の中に選挙本部を開設し、「ポケモンGO」がアメリカで社会現象になり、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は世界45カ国以上で上映され興行収入が500億を突破する。この前もテスラCEOのイーロン・マスクに対して「おすすめのアニメはなんですか?」と質問している人がいて、全部日本のアニメを答えてましたね。
──それは面白いですね。
7個答えてましたけど、全部日本の作品でした。やっぱり文化はすごく大事。この日本の文化はたとえ1兆円注ぎ込んでもGoogleには作れない。この文化で競争優位に立つのが大事で、そのための勝ち筋を見つけてくれたのがブロックチェーンだと思います。
石川裕也
2018年にブロックチェーン・スタートアップGaudiy(ガウディ)を創業。2020年に3億円の資金調達。現在、Sony Music、集英社、アニプレックスなどエンタメ企業とブロックチェーン事業を展開している。LINE Payや毎日新聞などで技術顧問も兼任している。
株式会社Gaudiy
Yuya Ishikawa / Gaudiy Inc. (@yuya_gaudiy) | Twitter
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山口哲一 @エンターテック✖︎スタートアップ @yamabug
日本は文化力で勝負という考え方に強く同意
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