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細野ゼミ 8コマ目(後編) [バックナンバー]

細野晴臣とエレクトロニカ

細野ミュージックの根底にある音響へのこだわりとは?

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珍しいものって、やっぱり面白い

安部 エレクトロニカもそうですけど、細野さんってあまり1つの音楽を長くやらないイメージがあるんですよ。

細野 飽きちゃう(笑)。

安部 やっぱそういうことなんですか(笑)。

ハマ 世の中に広まっちゃったらご自身の中で鮮度が落ちちゃう。

細野 誰でもできることをやったってしょうがないっていう。珍奇なことが好きなんだよね。ノベルティっていうんだけど。

ハマ ノベルティってそういう意味合いでも使えるんですね。

細野 うん。「ノベル」って小説ということになってるけど、本当は「珍しい話」みたいな意味がある。

ハマ そういう意味なんだ、ノベルティって。

細野 珍しいものって、やっぱり面白いんだよ(笑)。

ハマ そうですよね。得体が知れないもの。

細野 脳の感覚って何も刺激がないと広がらない。でも自分が知らないことにぶつかると知ろうとするじゃん。そうすると今まで持っていた感覚がちょっと広がるんだよね。アートってそういうもんなんだよ、たぶん。

ハマ 音楽だけじゃないってことですよね。

細野 同じところを同じようにくすぐるのは、快感もあるけど飽きてくるというか。なぞっていくうちに嫌になっちゃう。だからポップスは両方ないとダメなんだよ。

ハマ安部 なるほど!

細野 同じところをくすぐるところと、そこからちょっと逸脱するところと。ちょっとだよ? うんと逸脱すると受け取る側がわからなくなっちゃうから(笑)。

安部 そうですよね。

細野 ちょっとずっと広げていくっていうのがロックなんだよね、もともとは。だからヒットチャートに出てきた音楽って、「ちょっと聴いたことあるけど、何かが違う」っていうものがいっぱいあるわけだ。それを聴いてみんな興奮するんだよ。

ハマ 音やフレーズの中に懐かしさがあったりとか。

細野 60年代から音がいいシングル盤っていうのがあったわけ。特にアトランティック・レコードの音がすごくよかった。当時中学生だったけど、すごいと思ったよ。逆にフィリップスレコードっていうヨーロッパのレーベルは音が最悪なんだよ(笑)。痩せてて。

ハマ その差を体感できているかどうかっていうのはすごく大きいですよね。デジタル配信がメインになった今の状況だとなかなか難しい。そういう意味ではフィジカルの体験はデカいよね。

安部 物に触れているってことだよね。

ハマ レコードとか露骨だもんね。本当に音がいいとか悪いとか。

細野 そう。だから、はっぴいえんどのレコードとか聴くと「うわっ……」って思っちゃうんだよね(笑)。

安部 えっ、そうなんですか!

ハマ 言葉にしづらいけど理想の音のよさが細野さんの中にもあるわけですよね。音像みたいな。

細野 うん、あるんだけど、理想の音像って、いつも自分よりも先に行っているから追いつかない。

ハマ 振り返ると、やっぱり気になってしまうわけですね。

細野 でも、はっぴいえんどの頃も努力してたんだよ。

ハマ 時代と照らし合わせたら、べらぼうにいい音だなって思いますけど。ドラムもカッコいし。

安部 今聴いても全然カッコいい音が鳴ってるから、すごいなって思いますけど。

ハマ 時代が回って、ああいう音がいい音なんだって、みんなようやくわかるようになったというのもあるだろうし。

安部 確かに。当時はっぴいえんどの音を聴いたら、どう思ったんだろう?

ハマ 佐野史郎さんみたいに熱狂的なファンになるか、でも一方で「なんだこれ?」って思った人もいたと思うんだよね。僕らは今までの過程を知ってるから、当然のようにカッコいいと思ってるんだけど。

安部 リアルタイムで聴いてみたかったな……。

ハマ いや、もちろん自分の感覚を信じたいよ(笑)。その時代にタイムスリップしても、カッコいいと言えていると信じたいけど。でも数年後、テクノカットにしてる細野さんに追いつけるかどうかだよね(笑)。

僕は基本的にリスナー

──最後に。SKETCH SHOWで3作品をリリースしたあと、幸宏さんはpupaやMETAFIVEだったり、どこかSKETCH SHOWの雰囲気を感じさせるようなユニットを結成しますが、一方の細野さんはガラッと変わって生楽器を中心としたサウンドに取り組まれていくようになります。

細野 問題児だよ(笑)。

──そういうお二人の活動の分かれ方が僕は面白いなと思っていて。細野さん自身は、エレクトロニカに関して決して飽きたわけではないんですよね?

細野 いや、飽きた(笑)。

ハマ安部 はははは。

ハマ 細野さんの中で終わったんですね(笑)。

細野 さっき言ったことを繰り返すけど、あれはブームだったんだよね。そして、ブームは終わるんだよ。でも音響派は自分にとってブームではなくて基本だから。そういう意味では終わっていないっていう。

安部 そうですね。全部つながっているんですもんね。

ハマ 原点回帰みたいなふうになっていったんですか? 今のバンド形態とかもそうですけど。

細野 ブギウギって自分にとっては古くないんだよね。むしろ新しい音楽。自分では、ずっとできないと思っていたわけ。こんなの歌えないと思ってたんだよ。ところが少しずつできるようになってきたんだよね、歌が歌えるようになってきて。バンドメンバーもブギのビートができるようになって、そこから楽しくなってきた。「あっ、できるや!」と思って。

ハマ 細野さんの中では新しいものだったんですね。

細野 新しい音楽。メンバーにとっても新しい音楽だったんじゃない?

安部 ずっとできなかったことが、できるようになったということで、そこに新しさがあったわけですね。なるほど!

細野 いつでもできる音楽じゃなかったんだよ。この歳になって初めてできた。若いうちはできなかったよ。20代の頃から、ずっとやりたかったんだよね。

ハマ すげえいい話だなあ。そっかあ……。

安部 ブギにチャレンジしてみようとしたことは何度かあったんですか?

細野 寄せ集めのメンバーで何回かあったけどね。ティン・パン・アレーを含めて。「泰安洋行」のときは、林立夫くんと佐藤博くんがいたからできたんだよ。同じメンバーで今やれって言われてもできないかもしれない。固定的なメンバーで10年くらいかけて、やっとできるようになった。セッションで簡単にできるようなものじゃないんだということがわかったね。

ハマ ありますもんね、好きで聴く音楽だと思っているものって。僕もジャズとか聴いてて楽しいしカッコいいなと思うけど、やれって言われてもまったくわからないし(笑)。

安部 細野さんの場合、ブギがそういうことだったんですね。

細野 うん、そう。

ハマ それができるようになってきたっていうのは楽しいですね。

細野 ただ完璧だとは思わなかった。まだまだもっと先があるとは思っていたんだけど、2019年にたまたまそアメリカに行くことになって、そのあと去年から活動停止になったんで、結局アメリカ公演が集大成になっちゃった。でもブギウギなんかアメリカ人の前でやるって、すごく怖かった。

安部 そうですよね。めっちゃ怖いんだろうな。

細野 でもウケたんで(笑)。

ハマ カッコいいなあ。「ウケたんで」(笑)

細野 それでなんかもう完了したっていうかね。

安部 音響を追求するということは続くけど、ブギに関してはひと段落したというか。

細野 落ち着いた。

安部 今はまた違う鮮度を求めているというか。

細野 今は白紙ね。

ハマ おお!

細野 もちろん、コロナのせいもあるよ。なかったら今頃まだブギをやっているかもしれない。

ハマ そうですよね。海外での展開もあっただろうし。

細野 強制終了だよ。

ハマ そういうことだったんですね。

安部 今白紙で次何やろうかなっていうのは特に?

細野 ないね。もちろん40年代、50年代の音楽も相変わらず聴いてるけど、今はただのリスナーなんで。

安部 蓄える時期というか。

細野 僕は基本的にリスナーなんだよね。

音響っていうのはすごく大事

──今回はエレクトロニカをきっかけに、結局は“音響派”という話になっていきましたが(笑)、皆さんいかがでしたか?

ハマ 連載の初回に登場した音響派という言葉が今回のテーマにもつながっているし、エレクトロニカやテクノとか、細野さんの音楽史という枠組みの中でも音響派という表現が使えるし、むしろ僕らもそういうふうに捉えることで音楽の聴き方が変わっていくなと思いました。必ずしもズンチ、ズンチ、テケテケ言ってるのがエレクトロニカじゃないっていう。

安部 結局いろんな音楽が音響っていうところで全部つながっているんだなって。今までわからないなりに、いろいろ聴いてきたんですけど、今日のお話を聞いて、それらがジャンルを超えて全部つながり始めるような感覚があって、「おお!」って思いました(笑)。すごく楽しかったです。

ハマ 音響という事象自体は川の源流みたいなことなんだろうなと思いました。音楽の長い歴史の中で、いかにして音を追求していくかという概念が太くなっているだけで。

細野 音響ってすごく大事なんだよ。例えば僕は昭和歌謡が好きなんだけど、昭和30年代に流行ったレコードを聴くとすごくいい音なんだよね。でも、その人たちがのちのち原曲をリアレンジして、新たにレコーディングしたものを聴くと最悪なんだ。いい曲と思えないわけ。曲は一緒なんだよ? 音で変わっちゃうんだよ。だから音響っていうのはすごく大事。

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。9月にオリジナルアルバム全3作品をまとめたコンプリートパッケージ「"audio sponge" "tronika" "LOOPHOLE"」を発表した。

hosonoharuomi.jp | 細野晴臣公式サイト
細野晴臣 | ビクターエンタテインメント
細野晴臣_info (@hosonoharuomi_)|Twitter
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安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカル&ギター。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、上海、北京、成都、深セン、杭州、台北、ソウル、バンコクなどアジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年6月に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsよりリリースした。

never young beach オフィシャルサイト
Thaian Records
never young beach (@neveryoungbeach)|Twitter
Yuma Abe (@_yuma_abe) ・Instagram写真と動画

ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO'Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、2021年9月29日にニューアルバム「KNO WHERE」をリリース。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

OKAMOTO'S OFFICIAL WEBSITE
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abentis @abntis

久々にHOSONO HOUSE聴いたら、思った以上に今聴いてるような音楽と近い立体的な音響デザインだなと思って、ジャンル<音響な嗜好が芽生えたデカいルーツは細野さんだったんかなと思ってたら本人も似た話してた

https://t.co/Xd4xIwIFnm

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