活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている
ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(
取材
エレクトロニカというよりも音響派
──SKETCH SHOWは高橋幸宏さんと細野さんのエレクトロニカユニットで、3枚のオリジナル作品を発表していますが、時系列で聴くと、だんだんエレクトロニカというジャンルに深く入り込んでいく様子が伝わってきます。
ハマ・オカモト だんだん真面目になっていったとおっしゃってましたもんね。
細野晴臣 最初はコント的な感覚が強かったんだけどね。
ハマ そこからどんどん作風が変わっていったわけですね。
細野 あのね。当時、北国にすごく憧れていて。
ハマ え!? どういことなんですか、それ(笑)。
細野 極北の音楽を作りたいなと思ってたんだよ。
ハマ 極北の音楽ですか?
細野 音響的な前線がどんどん北上していったんだよね。アイスランドであるとか北国のほうに。あるいは赤道を軸にすると南下もしていた。だから意外とブラジルやアルゼンチンとか中南米のほうにも音響派っぽいアーティストが現れたりね。静的なボサトロニカみたいな作風で。
安部勇磨 聴いてみたい! 面白そう。
細野 そういうへんてこりんな音楽は今みたいにネットには出てこないからCDを買いに行くんだけど、青山のスパイラルの2階にあったCDショップがその手の音楽を集めていて。そういう店は大事なんだよ。ちゃんと面白い音楽をレコメンドしてくれるんで。その店に行くと面白いのがいっぱいあるから勉強になる。そこではブラジルの音響派が売られてた。
──一時期、音響派という言葉がクローズアップされましたよね。サウンド的にはエレクトロニカに留まりませんが、言葉としては“アルゼンチン音響派”などもありました。
細野 そう。だから僕の中ではエレクトロニカというよりも、音響派と言ったほうがしっくりくる。
安部 ジャンルとかを取っ払って、音響派という観点で捉えるわけですね。なるほど。
ハマ アンビエントミュージックの回でも音響派っていうワードが出てきましたし。細野さん的にはそれで1つ筋が通る世界観ですよね。
細野 そうだね。
ハマ あの回を読んだ周りのミュージシャンが言ってましたよ。「音響派って言おう」って。
細野 いいね(笑)。
ハマ 確かにいい言葉ですよね、音響派。
細野 エレクトロニカやニューウェイブって全部ムーブメントだから。今僕はラジオでサーフィン音楽の特集をやろうとしているんだけど、あれも実質1、2年しか盛り上がってないムーブメントなんだよね。そういうものは1、2年で終わっちゃうようなことばかりだよ(笑)。
ハマ “派”というのは、ムーブメントとは違うわけですね。
細野 ジャンルに関係なく、一本筋を通したら音響派だよ。レコード芸術というか。
安部 なるほど……今、すごくいい話聞けた。
ハマ そうですよね。録音芸術とかレコード芸術とか。
安部 最近、曲がいいよりも音がいいほうが大事な気がしてきたんですよ。音がいいほうが気持ちいいっていうか、曲もよく聞こえるし。
レコーディング技術を追求するアーティストは音響派
細野 例えばディアンジェロの「Black Messiah」(2014年発売のアルバム)を聴いたとき、僕はちょっと驚いたんだよ。これはマジックだって。音響がね。「何、このリズムのズレは?」って思った。でもライブを観たらズレてない。ライブではできないことをレコーディングではできるから、やっぱりマジックなんだよ。
ハマ そうですね。それは録音でしかできない。
細野 あれはファイルをズラすだけだから。実は大したことはないんだけど。
ハマ そうですよね。ある意味、レコーディング中の事故でああいうふうになっててもおかしくないですよね。「でも今のカッコよくなかった?」みたいな(笑)。
細野 新発見だよね。だからみんなが真似して、本人やることなくなっちゃったっていう(笑)。
安部 ははは。
──レコーディング芸術的な見方をすれば、確かにディアンジェロの「Voodoo」とかも、音響派と言えそうですね。
細野 あれも音響派だと思う。
ハマ The Beach Boysも、そういう意味では録音芸術でしかないですもんね(笑)。
──確かに。エレクトロニカから音響派に行くとまた解釈が広がっていきますね。
ハマ 録音でどうこうしてやろうっていう、歴史の延長ですよね。バンドでも多いじゃないですか。サイケデリック期くらいから「どう録音してやろうか」みたいな人たちが。そういう意味では、レコーディング技術を追求してきたアーティストは、みんな音響派って呼んでもいいくらい。
安部 そっちのほうがみんな仲よくできそうでいいね。
ハマ 人類みな音響派みたいなね(笑)。
安部 そうそう。
──確かにサイケは音響芸術ですね。
ハマ 完全にそうですよね。The Beach BoysとThe Beatlesとか、音を録ってみんなで「勝った / 負けた」とか言ってたわけじゃないですか。
細野 The Beatlesの影響はやっぱり強かったよね。逆回転とか。
ハマ 水とか。
安部 そんなのあるの?
ハマ 水の中で録ったらどうなるんだろうとか。
安部 アンプを振り回したりとかしてたよね?
細野 やってたね(笑)。
ハマ でも危ないから止めたっていう。すごく真っ当な理由で(笑)。ただ何ごともやらないとわからないですからね。経験した人じゃないと何も言えないから。
──それにつながる話なのかもしれないですけど、SKETCH SHOWのレコーディングでは、細野さんご自身でノイズを作っていたんですよね。今ではプラグインとかで作ることが多いと思うんですけど。
細野 YMOのときからやっていたけど、サンプリングマシンを使って仲間内で作ってたんだよ。
安部 え、仲間内で?
細野 そう。初期のサンプラーだから、たった5秒くらいしか録れないんだよ(笑)。でも当時は「これはすごい!」と思って。街や工場の音を録ってきてサンプリングして使っているのが「TECHNODELIC」あたりに入っている。
ハマ そうなんですね。
細野 機材って“おもちゃ心”をくすぐるじゃない? 新しい機材が出るとすぐ使っていたよね。で、それが商品化して世の中に出回るともうつまらなくなる。
珍しいものって、やっぱり面白い
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abentis @abntis
久々にHOSONO HOUSE聴いたら、思った以上に今聴いてるような音楽と近い立体的な音響デザインだなと思って、ジャンル<音響な嗜好が芽生えたデカいルーツは細野さんだったんかなと思ってたら本人も似た話してた
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