佐々木集(millennium parade、PERIMETRON)

映像で音楽を奏でる人々 第21回 [バックナンバー]

millennium paradeでも活躍、肩書きのない佐々木集が描くものとは?

自分の興味を掘り下げ続けるクリエイターが目指すPERIMETRONの形

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「Bon Dance」に込めた祈り

millennium parade「Bon Dance」のMVは当初今年の2月頃完成予定だったんですが、納得するまで詰めたいという理由から公開が遅れてしまって。周りに無理を言って延ばした結果、公開がお盆の時期になったんです。

「THE MILLENNIUM PARADE」のコンセプトである「失われた者への弔いと、新しく生まれることへの祝い」に一番近い曲が「Bon Dance」なんです。コロナ禍の影響でどんどん文化や街が持つ空気感が失われる中、弔妖怪たちが渋谷に集まって祭りをする姿を通してそれを表現できたらと思って。さまざまな文化が一堂に会してお祭りをしているところに、奇しくも出会っちゃった少年少女というイメージ。大変だったのは、歩くモブ妖怪を描くカット。ミレパの前CG作はストーリーの主人公に焦点を当てて、その行動を追っていくといった感じだったんですが、今回は登場する妖怪のすべてが重要な作品だったので、彼らの存在が“嘘”にならないようなモーションに苦戦しました。

「Bon Dance」のMVはこれまで発表してきた作品に比べて毒っ気は薄いかもしれないけれど、子供も観ていて面白いポイントがあるので、家族で観る作品になってくれるとうれしいです。MVのキーになっている小鬼の存在も可愛らしいですし(笑)。着手したのが去年の秋くらいで、その頃もコロナで世界が同時にネガティブな方向に進んでいたので、その時期に公開するものを悲観的なものにしたくないと思ったんです。ポジティブな、めでたい映像にしたかった。自分たちが作る作品を社会と切り離したくはないので、制作において社会性や時代性というものは常に意識しないといけないと思ってます。受け取った人の気持ちとか、置かれている状況をしっかり考えないといけない。20代前半の頃に作っていたものは衝動的な部分もありましたが、今は作品の本質を見てもらえるように、広い視点でいろんな角度で考えるようになりましたし、その意識を大事にしています。

仕事に対する意識を変えた「あびばのんのん」

映画「竜とそばかすの姫」のメインテーマ「U」のMVに関しては、PERIMETRONがイチから作ったものではない作品なので、そこに色を付けすぎたくないというのが作るうえで一番大きなポイントでした。普段MVを作ってる僕らだからこそできることは、音の体感性を表現することだろうと。「U」が高揚感のある、今から一歩を踏み出すという強い意志が込められた曲に感じたので、映画の中で一番胸が高まる瞬間だったり、ワクワク、ハラハラしたりするところと重ね合わせることができるなと思いながら、ディレクターで入ったMargtと作っていきました。

先日公開されたTempalayの「あびばのんのん」のMVもこだわりましたね。土屋萌児さん、水江未来さんという2人のアニメーターを含む少人数体制で取りかかったんですが、コロナ禍なので一度も顔を合わせることなくZoomやメールのやり取りだけで完成させたんです。でも有意義な打ち合わせの時間を持つことができて、みんなの熱が高ければ、会わなくてもクオリティの高いものができるんだと痛感しました。そこは従来のPERIMETRON作品の制作手法と違いました。それと「Bon Dance」とは逆にすごく短い時間でMVを作らなくちゃいけなかったんです。それでも自分としてベストなものを作ることができたので、仕事の仕方を考え直さなきゃいけないなとは思いました(笑)。

Tempalay「そなちね」で手にした自信

MVの役割がアーティストの曲をプロモーションするものであるという部分は今も昔も変わってないと思います。以前はアーティストの顔を見せることを重視していたところがあったと思うけど、今はあえてアーティストを登場させない作品も多くなってきた気がします。やっぱりアーティストの存在というのは強いんですよ。その人を登場させることで、逆に作品の中で伝えたいことが伝わらないこともある。だからアーティストが出たほうがいいと思ったときにはしっかり出すし、違う見せ方をしたほうが人の心に強く残るものになるだろうと感じたらアーティストを極力意識させない。都度俯瞰しながら判断しています。

今はMVが消費されていくスピードと、自分たちのスタンスが合っていないと感じていて、今後どういう方法でPERIMETRONを動かしていくべきか考えている時期なんです。MVを作っても、発表して時が経ったら忘れられて、また新しいものが世に出ていく……そういう流れを僕は本当によく思っていなくて。そうならないように、millennium paradeのMVは後にいろんなコンテンツにできるよう、それぞれ世界観を変えて作っているつもりです。「Fly with me」はいつか続きを作れたらいいし、「Philip」はいつかマンガになったらいいし……作品にサスティナビリティみたいなものが出てきてほしいんですよね。そのために企画段階でいろいろ設定を考えるようにしてます。そうすることでMVに深みが生まれるだろうし、土台があれば続きも描くことができる。

ターニングポイントになったMVを1つだけ挙げるならTempalayの「そなちね」かな。最初からストーリーを僕に書かせてほしいとバンド側に伝えて作らせてもらいました。Tempalayの(小原)綾斗に構成段階の演出を見せて彼のアドバイスも取り入れて、僕が考えた全体の構成に対して現場でOSRINがカメラマンに「こういうアングルで撮ってください」と演出を付けていくみたいな感じで撮ったんです。そのときに今まで明文化されていなかった僕とOSRINの立ち位置がわかったし、こういうストーリーを書けるんだとちょっとした自信にもなった。カラっとした夏の空の風景なのに、どこか不気味な空気が漂っている感じ。そういう風景は日本独自のものだと思うんですが、あの感じがすごく好きなんですよ。そういう風景を撮りたいと思って作った作品です。

初めて曲を聴いたときの“色”にこだわり、細部までカットを決める

PERIMETRONの作品では初期からクレジットを入れるようにしています。というのも、予算も潤沢にない中で手伝ってくれている人がたくさんいるので、何かできることがないかと考えたら名前を載せるくらいしかできなかった。僕らのような職種の人間は本来表に出てくるようなタイプではないけど、PERIMETRONというブランドが成立しているのはいろんな人の力があるからこそ。そもそも大希自体が裏方の人間を“裏方”だと思っていないからというのもあるでしょうね。そこで僕らが作品に関わってくれた人に恩返しできるのは、「この作品に参加しているのはこの人たちですよ」と表明することなんじゃないかと。90年代や2000年代前半に比べてMVが作品的な観られ方をするようになったし、スマホが欠かせない今の生活様式にはMVくらいの長さの映像作品がフィットすると思うんです。だから短編の映像作品としての意思表明としてもクレジットはあったほうがいいと考えています。

MVを作るときに大切にしていることは……初めて曲を聴いたときの第一印象というか“色”ですね。その色は最後まで頭の中に残しておきたいと思っているし、それに応じて構成を考えるようにしています。僕の場合、そんなにアイデアがスパンスパンと出てくるようなタイプではなくて、頭とラストが決まるまで時間がかかるんですよ。それが決まってからは、ディレクションする作品については頭から1カットずつ書いていくようにしています。構成に関して細かいところまで見えていないのが嫌というのもあるんですが、僕は大まかに考えておけばあとは現場でなんとなくうまくいくタイプではないので。基本的には細部までちゃんと決めたものじゃないと現場のチームには見せたくないんです。

「やりたいことをやる」「いいものを作る」だけ

“PERIMETRONらしさ”みたいな話はあまり仲間内でしてないんですよね、意外と。それぞれチームとしての色や特徴は考えているけどまだ明文化されていない部分で。Mr.ChildrenのようにジャケットもMVもアーティスト写真もPERIMETRONで作るような、トータルでアートワークに関わるプロジェクトが多くなっていく中で、先ほども話した通りメンバーの得意分野がそれぞれ違う分、多岐にわたって情報を詰め込めるのが武器になっているのかなと感じています。何か1つの形に固執しない柔軟な部分……プロジェクトに応じてアメーバのようにチームの形を変えられるところが“らしさ”なのかな。関わるアーティストのエッセンスを吸収しつつ、自分たちの色でアウトプットしていく……PERIMETRONのサイトのトップページに登場する顔のグラフィックのようにいろんな表情が回っている、あの形がチームの色になりつつある気がしています。

将来的な話ですが、僕自身は街や環境、場所を作りたいと思っていて。地元の人と共存しつつもデザインが施された街や商店街とか、異世界に来たようで面白そうだし。テーマパーク的なんだけどリアルという環境っていうんですかね、そういうものに魅力を感じる。自分たちと近しい考え方だったりとか、作品を好きでいてくれる人たちがその街で自発的に暮らして、人生を終えるみたいな、MVの世界の中に住人が生まれるようなことをいつかできればいいなと思っているんです。というか、街を作る以外にもやりたいことがたくさんあるんですよ。でも1人ではできないから、みんなに手を借りながらできればと思ってます。

もちろん海外展開も考えてはいるんですが、主軸を移すことは今は考えていないですね。目標としてはありつつ、あまりそれにとらわれたくないというか。海外でも国内でも両者側からいいとされるものを作っていかないとと思ってます。日本は独特の風景とか文化とか、システマチックというかコンビニエンスなところだったり、ホスピタリティだったり、いいところがたくさんあると思うのでそういうところを作品で表現したいんです。

やりたいことをやる。いいものを作る。自分の考えていることを伝える……やってることはただそれだけなんです。そうなってくると、いよいよ肩書きがわからなくなってきますね(笑)。

佐々木集が影響を受けた映像作品

映画「ファンタジア」(1940年)

まさに音と映像が合っている作品ですね。例えば1つのストリングの音に対して、妖精の粉の動きがぴったり合っていたり……すごいですよね。これだけデジタル化が進んでも、戦時中の1940年に作られた作品に追いついていない悔しさもあるし、僕らの世代で超えるものを作らないとみんなあの体験をするために「ファンタジア」までさかのぼらなきゃいけないのかと。

映画「バタフライ・エフェクト」(2004年)

中学のときに観て、脚本的な部分ですごく感動しました。予算がかかっているわけではないのに、構成と展開であれだけ見せられるというのが印象的で、終始ずっと没入させられました。そういう意味では、クリストファー・ノーランの「メメント」(2000年公開)もすごかった。実は「メメント」がノーラン監督作品だと知らずに観てたんですが、「インセプション」(2010年公開)、「インターステラー」(2014年公開)と自分が本当に好きな映画がノーラン作品だと知ったときに「この人、怖っ」と思いましたね。しかも「メメント」を撮った人が、20年後に「テネット」を作ってて。クオリティももちろん上がっていて、ここまで食らわせられる作品を20年経っても作ってると考えたら、あまりのストイックさに吐きそうになりました。

「バタフライ・エフェクト」予告編

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