令和のアーティストとファンベース 第4回 [バックナンバー]
ROTH BART BARONは、いかにしてファンとの信頼関係を築き上げてきたのか
お爺さんになってもステージに立つための逆算の思考法
2021年9月10日 17:00 1
ライブやアルバムのプロデュース権の貸与
──4回目のクラウドファンディングではライブやアルバムのプロデュース権など、ご自身のクリエイティビティに関わる部分をリターンとして用意されていましたが、ファンに寄り添いすぎてしまうことの危惧はありませんでしたか?(参照:ROTH BART BARONが新アルバムリリース、“ライブ×配信”ツアー開催に向けたクラファン始動)
ロットは今僕1人ですけど、一緒に演奏してくれるバンドメンバーも多いし、たぶんみんなで何かを作ったり、できあがったものを見たりするのが好きなんですよ。ハーモニーが生まれる瞬間が僕はたまらなく好き。さらに言うと、それが多くの人に伝わったときが最高に好き。例えば今回アルバムプロデュース権で参加してくれた子がテルミンを弾けるから、「レコーディングで弾いてみない?」って誘って配信しながら練習してみたり。ただ、ロットの名前でやる以上、自分らしさみたいなものまで渡しちゃうと、たぶんみんながガッカリしますよね。そういう根幹の部分はしっかり保持できていると思います。
──みんなで1つの作品を作り上げることに喜びを感じるんですね。
もともと映画関係の仕事をしたいと思っていたくらいなので。この間、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の総監督の庵野(秀明)さんに密着したドキュメンタリー番組を観てすごく共感したんですよ。スタッフが「これどうですかね?」って聞いてくるんだけど、庵野さんが「まだわかんない」って答えるシーンがあって、「そうそう、今言われてもわかんないよね!」って。でも締め切りとかがあって周囲はあたふたしてるという(笑)。その状況もすごくわかるんですよね。でも最後の最後で庵野さんがグッとまとめるという。
──三船さんは制作のときとPALACEの運営のときとで、思考回路を入れ替えてたりするんでしょうか?
入れ替えていると思います。たぶんクリエイターモードのときの僕と会うとかなり精神的ダメージを負うことになると思います。こんなに社交的じゃないし、さっきも言いましたけど人間として破綻しているので(笑)。
──正直、楽曲のイメージと、今こうしてお話しているときのギャップを感じています(笑)。
両チャンネルありますね。ロットのいいところはその二面性があるところだと思います。今のこの人当たりのいい感じだけで音楽を作っていたら本当につまらない作品になると思うけど、クリエイターとしての三船雅也はまったく別の顔だと思います。
ライブ配信と制作密着150時間ドキュメンタリー配信
──前回のクラウドファンディングでは全国ツアー全14公演をストリーミング配信するのが目的でしたよね。
今までバンドとしてカメラの向こう側の人たちのことを強く意識してライブすることってほとんどなかったと思うんです。お客さんがまったくいない空間で、レンズの向こうへ音楽を届けるというライブの経験値が圧倒的になくて、この感覚値を持たないと表現者としてヤバいと思ったんですよね。当たり前にライブもデジタル配信される世界になるだろうから、この先にそれを意識しないアーティストにはなりたくないという思いがあって。ツアーを全公演ストリーミング配信するというのは、自分の経験値アップというか、筋力トレーニングというのが裏テーマとしてあったんです。
──そこで得た気付きはありますか?
今まで東京でライブする場合、お客さんは東京に集まるしかなかったけど、日本に限らずいろんな国の人もアクセスできるようになったというのは可能性を感じました。あと日本人ってライブだと「オー!!」とか言わないけどコメントだとめっちゃ饒舌なんだなと。僕が会心の出来のライブをやっても全然反応なかったのに、ストリーミングだとコメントだらけになっていて「なんだこれ!?」みたいな気持ちになってすごく面白かったです(笑)。
──ストリーミング配信つながりで言うと、今秋リリース予定のニュアールバムの制作過程ほぼすべてを生配信するプロジェクト「ALL STREAMING PROJECT 2021」も話題になりました(参照:バンヒロシ(ばんひろし)ROTH BART BARONがニューアルバム制作の様子をほぼすべて配信、サウンドの秘密を明かす)。
僕らが音作りをする様子を延々と配信するというもので、アルバムのデモの段階でスタジオセッションしているところから、最後のボーカル録音までずっとドキュメントしたら150時間以上になりました。例えば宮崎駿さんの150時間におよぶドキュメンタリー番組があったら、僕はたぶん20万円くらい出すと思う。僕がそれほどの人間かと言うとおこがましいですけど、クリエイターを目指している人にとってはこんなリアルな教材は貴重かもしれないし、発表前に全部ネタバレする、って絶対に面白いと思って。
──制作過程を見せることに抵抗はなかったですか?
それはなかったですね。初めてのことだから失敗も何もないし、単純に面白そうという気持ちのほうが大きかったです。映画のドキュメンタリーを事前に観ていても劇場で観ると想像していたものと違うのと同じで、実際に聴いたら全然違うものになると思っているし。デジタル上にものすごく濃厚な空間を作って、悩んでいる僕の横にいるくらいの気持ちで観てもらう。このドキュメントを観た人にとって、このアルバムが完成したら一生忘れられない作品になると思うんですよね。
──自分も携わったと思えるくらい制作過程を知ってますもんね。
そう。それと、僕はこれまでアメリカでジョナサン・ロウ(※「第63回グラミー賞」で年間最優秀アルバム賞を受賞したテイラー・スウィフト「folklore」などを手がける)といったレコーディングエンジニアと仕事をしてきて、その経験値を日本の音楽シーンに還元できるかもしれない、という思いもありました。
メジャーとかインディーズは関係ない
──これまでずっとDIYで音楽活動を続けきて、そういう活動の仕方がほかのアーティストにとって参考になる部分も多いと思います。サステナブルに音楽活動を続けていくうえでのヒントになるようなご自身の体験があれば教えてください。
僕もいわゆるメジャーアーティストと呼ばれるものになれるんだったらそうなりたかったですよ(笑)。だけど「どうやって売ったらいいかわからない」とか「裏声で変な歌を歌うね」とか、それはそれはひどい言われようで。それでも生きていかないといけないし、できれば音楽で生きていきたいと考えていたらこうなったというか。望んでこうなったかと言われたらたぶんそうじゃなくて、生きていくためにがんばるしかなかっただけで。
──そうだったんですね。
契約がほぼ決まって曲も作って明後日レコーディングっていうタイミングでドタキャンされたりとか、この10年間それなりに傷付いたこともあったので。でもいろいろな出会いがあって今は信頼できる仲間も増えて、自分たちの手で音楽を続けられる方法を1つひとつ見つけてきた感じですね。ずっと音楽を続けているという確信はあったから、お爺さんになっても変わらずステージに立つにはどうしたらいいんだろうと考えて、それを叶えるために逆算してきたというか。どこが目指すべきゴールなのかということを考えて、もっと本質的な意味でみんなに喜んでもらう方法ってなんだろうって考えたときに、メジャーとかインディーズとかそういうことはあまり関係ないような気がします。
──音楽家としての強い意志を感じます。
人によると思うんですよ。たぶんほかに仕事をしながら音楽をやるのは生活のリスク回避になるし新しいクリエイティブのインプットにもなるし、それはそれでいい生き方だけど、僕は仕事も音楽も両方そつなくできる器用なタイプではなかったので。ちゃんと自分のクリエイティビティを維持するためには今のような活動の仕方が必要だったというか。でも自分が提供した音楽を喜んでもらえて、そのお返しにお金だったり「よかったよ」っていう言葉だったりをもらえるのであれば、それはたぶん僕にとって向いている仕事ですよね。それが少しでも大きくなればいいなと思って僕も必死に模索している最中です。
ROTH BART BARON
シンガーソングライターの三船雅也が2008年に結成した日本のインディーフォークバンド。2014年7月に、アメリカでレコーディングしたデビューアルバム「ロットバルトバロンの氷河期」をリリースする。2015年リリースの2ndアルバム「Atom」が好評を博し、「FUJI ROCK FESTIVAL」や「SUMMER SONIC」などの大型フェスに出演。2019年の4thアルバム「けものたちの名前」は、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が立ち上げた音楽賞「APPLE VINEGAR -Music Award-」にて大賞を受賞し、2020年発表の5thアルバム「極彩色の祝祭」の収録曲「極彩 | I G L (S)」は音楽番組「関ジャム完全燃SHOW」にて蔦谷好位置から2020年の年間1位に選出された。2021年に入ってからはアイナ・ジ・エンド(BiSH)とともにA_oとして活動するなど、活躍の場をさらに広げている。
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三船雅也 M a s a y a M i f u n e (@bearbeargraph) | Twitter
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音楽ナタリー @natalie_mu
【連載:令和のアーティストとファンベース】
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「お爺さんになってもステージに立ち続けるために」
「ファンに寄り添っても本当に大切なクリエイティブは譲らない」
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