あの頃はみんなバーバー言わせてた
ハマ K-POPもそうですけど、今世界的に80年代ブームが来てて。やっぱりみんなドラムで80年代的な音を表現してるんですよね。The Weekndとかもそうですけど。
細野 ゲートリバーブを使ってるの?
ハマ はい。
細野 イヤだな(笑)。
ハマ ははは。80年代を思い起こさせる音ですよね、あのゲートがかかってるスネアって。
細野 当時あれに没頭したんだよね。出たときは面白くて面白くて。残響音をゲートでスパッと切るっていう。
ハマ 当時ゲートを流行らせたのって誰なんでしょうね? まあでも、やっぱりヒット曲とかなんですかね。で、みんな「なんだこれ?」ってなって。
細野 当時はみんな“バーバー”言わせてたね(笑)。
ハマ ゲートをかけることを「バーバー言わせる」って初めて聞きました(笑)。
──でも、ゲートリバーブは完全に時代の音ですよね。
細野 エコーやリバーブっていうのはその時代の音になっちゃうんで、普遍性がないわけ。だから僕は今、全然エコーを使わなくなっちゃった。
安部 あー。
──ゲートリバーブって今も面白く使えるものなんですかね? 先ほどハマさんがおっしゃっていたように、The Weekndとかが使ってるっていうのはありますけど。
細野 経験がない世代によっては面白いだろうね。
ハマ 細野さんは、バーバー言わせまくってると「ちょっと嫌だな」ってなっちゃうってことですよね。使ってなかった世代は超面白いわけじゃないですか。
細野 それはもうどんどんやってほしいよ(笑)。
ハマ 僕ら世代は新鮮ですけど、でも確かに一聴して「80’sだね」ってなっちゃいますよね。
安部 飛び道具みたいな感じだよね。
──ゲートリバーブを使えば、シティポップ的な音とか作りやすいですもんね。
ハマ まさしくその流れも来てますし。(星野)源さんの新曲では、まさしくスネアにゲートリバーブをかけていて。
安部 「不思議」?
ハマ そう。あと打ち込みもRoland TR-808とか、そういう時代のものと合わせて。そこは意図的に作ってた。ただ楽曲全体のニュアンスはそんなに80年代って感じではないけど。現場でゲートとリバーブを調整する作業を初めて見たので、すごく新鮮でしたね。いざやるとこうなるんだっていう。
細野 結局アナログでやってるわけね。
ハマ あとはDAWの波形で作業したりしてました。僕は源さんがエンジニアの方と試している現場にしかいなかったですけど。それにしても「バーバー言わす」って、すごくいい言葉だな(笑)。
──「ブイブイ言わす」的な(笑)。
ハマ そうですね。忘れたくないです、「バーバー言わす」(笑)。
ハマ・オカモトにとっての二大巨頭
細野 当時のニューウェイブ全体に言えるんだけど、ゲート以外にもエコー処理がいっぱい使われていたんだよ。要するにイギリスは“石の文化”なんだよね。
一同 なるほど!
細野 教会とか、べニューとか、ああいう場所で響く感じ。そういうエコー文化があるんだよ。そことニューロマンティックっていうのも結び付いている。ゴシックな感じというか。だから、ドライな音楽ってそんなにないんだよね。ときどきあるとすごく新鮮だったな。
──エコーやリバーブということでいえば、イギリス人ってアメリカ人よりダブとか好きな印象があります。
細野 うん、そうなんだよ。
──ジャマイカ系移民が多いというのもあるのかもしれない。
ハマ カルチャーが融合していますもんね。今まさしくイギリスの若いバンドがまた盛り上がってきていて。それが本当にTalking Headsみたいなバンドばっかりで。
細野 ホント? へえ。
ハマ この間教えてもらったんですけど。
細野 そういえばデイヴィッド・バーンの映画「アメリカン・ユートピア」まだ観てないんだけど、今すごく新鮮かもしれない。あの人変わらないんだよね、80年代から。
ハマ ホント変わらないですよね。
細野 で、ルーツが見えない音楽なの(笑)。
ハマ 急に大陸的なサウンドになりましたしね、Talking Headsも。
細野 不思議でアーティスティックな存在感があるね。僕もすごく影響された。
ハマ 僕、細野さんとデイヴィッド・バーンって、同じ感覚でカッコいいと思っている二大巨頭なんです。
細野 おやおやおや(笑)。
ハマ お会いする前からずっと思ってました。お二人の雰囲気とか。
細野 そう?
ハマ ホント、偉そうに言ってるわけじゃ全然ないんですけど(笑)。
細野 いやいや、それはうれしいけど、おこがましいというか。
ハマ 勝手に共通点を感じています。
細野 僕の中では、Talking Headsの「Once In A Lifetime」という曲がすごく印象的だった。当時珍しくMVが作られたんだけど、音楽はもちろん、映像もすごくて。デイヴィッド・バーンの動きとか。
ハマ 動き、面白いですよね(笑)。
細野 当時日本では原宿の駅前に竹の子族っていたんだよ。知ってる?
ハマ わかります。僕らの親の世代ですね。
細野 そうそう。みんなで音楽に合わせて振り付きで踊ってたんだよ。意味不明の振り付けがあるわけ。こんなことやったりね(踊ってみせる)。
ハマ&安部 ははは。
細野 それをデイヴィッド・バーンがやってるんだよ。「Once In A Lifetime」で。
ハマ どこで見たんでしょうね。
細野 よく東京に来てたからね。僕、1回東京でデイヴィッド・バーンに会ってるんだよ。すごく内向的な学生さんみたいな人で、ダンガリーのシャツのボタンを上まで留めて、よれたショルダーしてじっと黙っていた。あの人は面白いね。
ハマ 細野さんはTalking Headsのライブも観てるんですか?
細野 観てる、観てる。日本青年館かな? Tom Tom Clubとしても来てたし。いい時代だったよね。
ハマ ニューウェイブの文脈で見ると、Talking Headsは別格ですよね。ちょっとひとくくりには言えないけど。
細野 流行ではないというかね。
ハマ けっこう社会派だし。パンクの精神みたいなものも、ニューウェイブは地続きで持ってますよね。
細野 でね、デイヴィッド・バーンの振り付けをやっていたのがトニー・ベイジルっていう、すごくキレイな女性ダンサーなんだよ。
ハマ 振付師がいるんですね。やっぱり面白いな。
細野 彼女は自分でもソロシングルを出して大ヒットを飛ばしてる。「Mickey」っていうチアリーダーソングの走りなんだけど。彼女はビング・クロスビーとかフランク・シナトラとも共演しているハリウッド周辺の人で、そういうちょっとニューウェイブとは違う文脈で面白い人がいた。
ハマ 細野さん、デイヴィッド・バーンに会ってるんですもんね。デイヴィッド・バーン、ずっとカッコいいもんなあ。
細野 僕から見ても一番カッコいい人だよ。
<後編に続く>
細野晴臣
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリースした。
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安部勇磨
1990年東京生まれ。2014年に結成された
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1991年東京生まれ。ロックバンド
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