活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている
ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(
取材
記憶が抜けている80's
──今回のテーマは、ニューウェイブ~80’sです。細野さんにとって1980年代ってどんな時代でしたか?
細野晴臣 ずっと忘れてた時代なんだよね、80年代って。それ以前の時代の音楽ばかり聴いていたから。一番近いけどあんまり深く掘りたくないなっていう(笑)。そこらへんの時代の記憶が一番抜けてて。
──ちなみに80年代でいうと、細野さんのプロジェクト的には?
細野 YMOですよ。
ハマ・オカモト すごく忙しく活動されてた時期だからこそ、記憶が抜けている部分があるんでしょうね。
細野 全然懐かしいとは思わないね。でも、すごく大事な時期だったのは確か。前回も少し話したけど、ロンドンに住んでいたカメラマンのトシ矢嶋が送ってくれたカセットテープを高橋幸宏と毎日聴いていたんだ。そのテープにはニューウェイブの曲がたくさん入っていたんだけど、どのバンドも詳しいことがわからなくて。
ハマ 前回も話題に挙がった幻の“全曲いいテープ”ですね。
細野 うん。全曲よかった。
──当時は無名ながらも面白いバンドがたくさんいたんでしょうね。
細野 そう。ただ今聴き直そうとしても、楽曲が配信されてない。ニューウェイブはDuran Duranとか有名どころしか配信されてないんだよね。
ハマ 細野さんがお聴きになったテープに入っていたのは、Duran Duranとかより前のバンドなんですよね。ニューウェイブ夜明け前みたいな。
細野 ニューウェイブという言葉自体あったか、なかったか、そんな時期だね。よく覚えているのはマイケル・ナイマン。「Mozart」っていうシングルがトップチャートに入っちゃって。僕が聴いたテープに、その曲が入っていたんだよ。あとで調べたらマイケル・ナイマンって、すごく偉い先生だったりして。
──イギリスの作曲家 / ピアニストで、音楽学者としても活動していて、ミニマルミュージックの概念を音楽評論に持ち込んだことでも知られています。
ハマ そのときは細野さんも全然知らなかったんですか?
細野 知らなかった。新人かと思ってた(笑)。
ハマ ははは。ちなみにそれはバンド音楽だったんですか?
細野 オーケストラなんだよ。でも8分音符のチャチャチャチャっていうビートの感じで、ポップな音楽だったわけ。
──でもチャートに入るタイプでの曲ではないですよね。
細野 しかも、あとで聴いたら違うタイトルで真面目な音楽だった。勝手に誰かが「Mozart」っていう名前を付けてリリースして、ヒットしちゃったっていう。
安部勇磨 そんなことあるんですね。
ハマ めちゃくちゃだな(笑)。
細野 そのテープには、ポップなバンドに混ざって現代音楽の人が入ってたりして、すごく面白かった。あと、The Flying Lizardsの「Money」って曲も大ヒットしたね。The Beatlesの「Money」のカバーなんだけど。The Flying Lizards版は女性がアンニュイに「お金? 何よ」みたいに歌っていて(笑)。
ハマ ちょっと違うコンセプトなんですね。
細野 それが面白くて。The Flying Lizardsの「Money」は当時レコードを買ったかもしれないね。
オシャレな時代だった
──ニューウェイブって、音楽ジャンルとしてはそもそもどういうものを指す言葉なんでしょうか。
ハマ その名の通り、それまでとはちょっと様子が異なるタイプの音楽を指す言葉として出てきたんじゃないですかね。
細野 70年代後半から80年代初頭にかけて一気に花が開いたよね。みんな新しいことをやり出してて。
──メディアが作った言葉なのかもしれないですね。
ハマ ラジオや雑誌とかでしょうね。
細野 YMOもニューウェイブの範疇に入れられてるからね。
ハマ そっか、そうなりますか。
──それは海外でですか?
細野 いや、配信サイトに書かれてるジャンルで(笑)。
ハマ ニューウェイブなんですね(笑)。テクノでもあるけど、ニューウェイブのタグも付いていると。ちなみにニューウェイブって、バンドが強いんですかね? バンドの形態が新しくなったという取り方で合ってますか?
細野 そうだね。YMOの場合、シンセサイザーを取り入れたり、テクノの方向に向かっている最中だったから、そういうところでニューウェイブ的に捉えられていたのかもしれない。そういえばニューウェイブのバンドでYMOのシャツを着てるグループがいたな……誰だっけな? New Orderじゃなくて、そんなような連中が。
ハマ へえ!
──New Orderといえば、ニューウェイブの象徴的な存在ですよね。
細野 ちなみに僕はUltravoxがすごい好きだったんだよね。すごく影響されちゃって。
ハマ 細野さん、Ultravox聴かれてたんですね!
細野 1980年代初頭にニューロマンティックっていう、ニューウェイブのちょっと進化系が出てきたんだよ。
安部 そういうムーブメントが世界的に起こっていたんですか?
細野 イギリスだけだね、ほとんど。
ハマ 第2次ブリティッシュインヴェイジョンみたいに、その後言われ始めるから、けっこうイギリス勢が強かったですよね。
細野 そのニューロマンティックの時代にYMOはツアーでロンドンに行ったりしてたんだよね。当時、大スターだったスティーヴ・ストレンジっていうクラブの帝王みたいな人がいたんだよ。彼は毎週クラブを移動してイベントをやって、それで有名になって、そのうちレコードを出したりしてたんだけど。
ハマ 歌手ではなくてイベントのオーガナイザーみたいな人ですか?
細野 そうそう。カリスマ的な。
ハマ ROLANDみたいな? わかんないですけど(笑)。
細野 まあ、そういう系だよ(笑)。
安部 ははは。
細野 スティーヴ・ストレンジは自分のイベントに来る客を選ぶんだよ。クラブの入り口に立っていて、「お前は入っていい」「お前はダメ」って。
ハマ 本人基準なんですね。年齢とかではなく。
細野 見た目だね(笑)。
ハマ イケてる人は入れるってことですよね。
安部 すごい。
細野 みんな化粧してたり、80年代はすごくおしゃれな時代だった。その影響でYMOも化粧し出して。
ハマ 確かに時代のムードに呼応し合っている感じはありますね。当時の音楽を今聴くと。
細野 YMOもその真っ只中にいたんで。もう忘れたいって感じだよね(笑)。
ハマ でも同じ時代を生きてるわけだから当然影響は受けますよね。
細野 そうだね。
──当時だと、あとはAdam and the AntsやDuran Duranとか。
細野 Duran Duranはミュージックビデオがよかったね。素晴らしいアイデアだった。
ハマ UltravoxとDuran Duranなんて地方のレコ屋に行ったらもう3000万枚くらいあるんじゃないかって思いますよ。どこで掘ったって出てくるんだから(笑)。
細野 彼らは売れすぎて、飽きられちゃったね。
ハマ 日本でいかに売れたかっていうのは、地方のレコ屋に行くとすごくよくわかります。
とにかくドラムにゲートリバーブをかける80’sミュージック
──改めて、ニューロマンティックってどういうものなんですか?
細野 ニューウェイブに、ちょっとゴシックが入ってくる感じというかね。
ハマ そうですよね。のちのヴィジュアル系に多大な影響を与えていますもんね。
細野 すごくイギリス的だと思うね。僕の中で一番ニューロマンティック的なグループはSpandau Ballet。朗々と歌うんだよ(笑)。
ハマ Dead or Aliveとかは行きすぎなんですか? 文脈としてはあのあたりにいるっていうか。僕、今日に備えて、ニューウェイブのコンピ盤とかいろいろ聴いてきたんですけど、そのコンピにはA-haとかも入ってたんで。何をもってニューウェイブなのか聴けば聴くほどわけわかんなくなってきて(笑)。
──日本人と海外の人ではニューウェイブ感が違うのかもしれないです。
ハマ そうですね。リアルタイム世代と後追いの世代でも当然感覚が違うでしょうし。勇磨はニューウェイブって、どういうイメージ?
安部 お化粧してて目元が紫で、ドラムの音がスペーシーな感じという(笑)。なんかディズニーランドみたいな。
細野 80年代の音の特徴は、とにかくドラムにゲートリバーブをかけるっていうね。
安部 あれをゲートリバーブって言うんですね!
細野 YMOもそれをやってたんで、今聴くとなんかヤになっちゃうんだよ(笑)。
一同 ははは。
あの頃はみんなバーバー言わせてた
伊藤 剛 @GoITO
@daisukeohnosgm 細野晴臣の表現「あの頃はみんなバーバー言わせてた」
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