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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 5回目 後編 [バックナンバー]

フィロソフィーのダンスとボーダーレスなアイドル像を考える

青春の1ページじゃない、私たちの人生

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女性アイドルだけど別に続けててよくない?

南波 もう1つ聞きたいことが。今日の女性アイドル文化には年齢のハードルが確かに存在していると思うんですが、皆さんはどう考えていますか? 僕としてはそこは変わっていってほしいなとずっと思っていて。活動を長く続けていこうとするフィロソフィーのダンスは、その部分も変えていってくれるという期待も託されているんじゃないかなと。

十束 確かにハードルはあります(笑)。でもその問題って、アイドルの世界だけで起こっていることじゃないですよね。私の友人も、勤めている会社の同僚から「もういい歳なのにまだ結婚しないの?」と言われたそうで、令和の時代にまだそんなことを言う人がいるんだとびっくりしました。アイドル界の話でいうと、男性アイドルは年齢についてはあまり言及されないのに、女性アイドルは言われるじゃないですか。それってもはやアイドルという職業どうこうの話じゃなくて、根底に「女性だから」という理由があるのかなと感じました。なのでこの問題を解決するには、今の社会の現状を変える必要があるので時間がかかると思いますが、私たちが活動することで少しでも力添えできていたらうれしいです。

左から十束おとは、日向ハル。

左から十束おとは、日向ハル。

南波 メジャーデビュー曲「ドント・ストップ・ザ・ダンス」(2020年9月発表)には女性の在り方を描いた歌詞も盛り込まれていたので、今の社会と切り離されずにメッセージを発信しているのがとても印象的だったんですよね。

日向 まさか私たちもこんなふうになるとは想像していませんでした。

佐々木 これまではアイドルの方々自身、言えることと言えないことがはっきりしていた時代が長く続いていたと思うんです。大人に教わったことや運営から言ってよしとされていることしか話せないというムードがずっとあったけど、今は自分たちのことや社会に対する考えを以前よりは自由に発言できる時代になった。実際に僕もこの連載にゲストで来てくれたアイドルの方々からお話を伺うと、「すごいな。こんなことを考えてたんだ」とすごく刺激を受けますし、自分の思いを正直に言葉にしたり、歌詞やパフォーマンスに自分たちの思いを込めたりするのも歓迎すべきことだなと思います。

日向 歌詞に関して言うと、メジャーデビューを機に作詞を担当してくださる方々の体制が変わったということが大きいですね。インディーズ時代はヤマモトショウさんにいただいた歌詞を自分なりに解釈して歌っていたんですが、メジャーデビュー以降、作詞家の方が固定ではなくなったんです。そのタイミングでレーベルの人たちから私たちに「曲を通して何を伝えたいか、自主性を持って考えてみて」という話があって。

左から日向ハル、奥津マリリ。

左から日向ハル、奥津マリリ。

佐々木 なるほど。

日向 で、スタッフさんと一緒になってどうしようかと考えたときに、私たちは女性だから、同じ目線で誰かを応援できる曲にしたいとか、メンバーの年齢は非公開ですけどそういうところを含めて私たちのストーリーを感じられるものにしたいという気持ちが固まったんです。「ドント・ストップ・ザ・ダンス」の作詞を引き受けてくださったのはヒャダインさんだったんですけど、歌詞の中に4人それぞれの自己紹介的な要素も入れていただいて、それであの形になりました。私たちはアイドルで、その立場からアイドルの概念を変えることを目標にしてはいますが、社会全体を変えたいなんて大きなことは言えないです。でもやっぱり男性アイドルは何歳になってもアイドルとして存在しているのに、女性アイドルは30歳とかになると「まだやってるんだ」と思われてしまう空気が確かにあると思います。AKB48柏木由紀さんが「女性アイドルの概念を変えたい」とおっしゃっているように、私たちも「女性アイドルだけど別に続けててよくない?」と言えるような存在になりたい。当たり前のように、ただグループを続けていたいんです。それに私たちだけじゃなくて、「周りからなんと言われようと活動を続けたいから続けるんだ」という女性アイドルグループが増える時代になったらいいなと思います。

佐々木 アイドルの方は10代前半でデビューするケースが多いかもしれないですが、もっと年齢を重ねてからアイドルになったって別にいいですよね。大切なのは活動の中身ですから。活動をストップせずに自然に歳を取っていきながらアイドルでい続けていいし、辞めずに続けることの価値はとても大きいと僕は思います。若いときの一瞬の輝きこそアイドルの醍醐味と考える人は今も多いだろうし、もちろんそういう刹那的な価値を持った側面も確かにあるんだけど、その時間が過ぎたらアイドルとしての人生は終わりなのかと考えると、決してそうではないと思うんですよね。だからフィロのスの皆さんに限らず、アイドルを続けたいと思う方にはずっと続けていってほしいです。

日向 走り続けます。

佐々木敦

佐々木敦

おじさんだって自由に踊っていい

佐々木 2020年代、今後の活動についてフィロソフィーのダンスさんはどんなビジョンを持っていますか?

奥津 今日お話していて改めて思ったのは、私たちは何かを否定しながら生きていくより、自分たちの姿を見せることで、グループとしてのスタンスを示し続けたいなって。「自分たちはアイドルじゃない」と言ってアイドルシーンを否定したり、「若いって何?」と若い子たちを否定したりはしたくない。どの年代やジャンルのパフォーマンスにもそれぞれの素晴らしさがあると思うんです。

左から十束おとは、日向ハル、奥津マリリ、佐藤まりあ。

左から十束おとは、日向ハル、奥津マリリ、佐藤まりあ。

佐々木 なるほど。

奥津 さっきも話に出ましたけど、今アイドルを取り巻く環境が閉鎖的で複雑になったのは、アイドル自身の責任でもあるし、実際にそういう受け取られ方をする機会をアイドル側が増やしてしまったことにも問題があると思います。さらにアイドル業界に集まってきた女の子たちを、一部の大人がおいしいと思う部分だけビジネスとして搾取して、その部分だけ切り取られたアイドル文化がネガティブなイメージで世の中に浸透していることも、よくないんじゃないかなと思います。

南波 うんうん。

奥津 でも、そんな時代の中で生まれた私たちだからこそ、ここから先は自分たちで「こういうアイドルになりたい」「こういう女性になりたい」と思い描きながら、アイドルとしても女性としても年齢とキャリアを重ねていきたいですね。それに「どの年代もいいよね」「どのアイドルもいいよね」「でも私たちはカッコいいほうがいいよね」みたいな、あくまでもポップな感じで自分たちの思考を示していけるような、アイドル界の新しいシンボル的な存在になれたらなあと思っています。

奥津マリリ(フィロソフィーのダンス)

奥津マリリ(フィロソフィーのダンス)

日向 ちゃんとまとまった(笑)。

南波 素晴らしい。

奥津 去年から世の中はコロナ禍で落ち込んでいるけど、私たちに何ができるか考えたら、誰かを明るくすることや元気のない人にパワーを与えることだと思ったんですよね。それはエイジレスであり、ジャンルレスな行為でありたい。私たちは「子供も踊っていいし、おじさんだって自由に踊っていいんだよ」って全世界を肯定したいと思っている集団なので。この時期、この情勢だからこそ、「ジャパンにはフィロソフィーのダンスが必要でしょ」と思えるぐらい陽気にがんばりたいです!

佐々木 すごく素敵ですね。佐藤さんはどうですか?

佐藤まりあ うーん、どうなんですかね。この先グループがどうなっていくかはわからないですけど……私はフィロソフィーのダンスを青春の1ページという気持ちではなく、ここまで来たら人生だと思ってやっているので。

佐藤まりあ(フィロソフィーのダンス)

佐藤まりあ(フィロソフィーのダンス)

日向 うわー、めっちゃいいこと言ってる!

南波 人はアイドルたちに“青春の1ページ”感を求めすぎですよね!

奥津 あ、南波さんがまた怒った!

佐藤 着火させちゃった、ヤバいヤバい(笑)。

南波 いや、そうじゃなくて、むしろそういうものが好きなほうなので、佐藤さんの言葉にハッとしたんです。

佐藤 でも本当に青春の1ページではなく、これは私の人生だと思ってフィロソフィーのダンスの活動をしているので、とりあえず終点まではメンバーについていきたいと思っています。

左から奥津マリリ、佐藤まりあ。

左から奥津マリリ、佐藤まりあ。

南波 終点(笑)。

佐藤 「ライブ・ライフ」(2018年8月発表)のMV冒頭で1人ずつインタビューに答えているシーンがあるんですけど、そこでマリリが言っていた「この音楽を枯らしちゃいけない」という言葉がずっと頭に残っていて。自分たちの活動が終わったら、フィロソフィーのダンスの音楽自体は残るけど、ちゃんと生かしてはあげられないじゃないですか。私たちがステージで歌ってこそフィロソフィーのダンスの音楽には輝くものがあると思うので、ファンの方や誰かが求めてくれている以上は歌い続けたいと思っています。

佐々木 いやあ、どんどん感動モードになってきた……。

南波 何度も言ってしまいますが、フィロソフィーのダンスの皆さんにはシーンを変える力があるってすごく期待しているんです。だからどんどん思うことを発言していってほしいし、本当はライブ映像(4月に発表された最新シングル「カップラーメン・プログラム」付属Blu-rayに収録されている映像「"World Extension"2020.11.19@harevutai」)の副音声にもピー音を被せなくてもいいんですよ。

日向 でもあれ、◯◯◯◯ですよ(笑)。

南波 ◯◯◯◯なんて別にいいじゃん。ハルさんの発言にピーって自主規制音が入っちゃうことがあるけど、もはやそれも規制しないほうがフィロソフィーのダンスらしいいんじゃないのという気持ちになりました。まあ、ピーが入ること自体がネタとして面白いというのもあるんですけど。

日向 あははは(笑)。私もおいしいところはいただいたなと思いますよ。

奥津 私もどうせだったら過激なやつ言ってみたいです!

十束 というか何ならピーになるんだろうね。

南波 ピーを狙う必要はないですが(笑)、もっと言っていいと思いますよ。皆さんは空気を読めてしまう人だけど、これからのインタビューとかでも変に周りに気を遣わず、普段思っていることをガンガン話していいんじゃないかな。

十束 それで次ピーだらけになったらどうしよう。

日向 「使えるところがないです」って撮り直しになったら終わる……でもそうなったら「南波さんに言えって言われました!」って話そうっと(笑)。

左から佐々木敦、十束おとは、日向ハル、奥津マリリ、佐藤まりあ、南波一海。

左から佐々木敦、十束おとは、日向ハル、奥津マリリ、佐藤まりあ、南波一海。

フィロソフィーのダンス

奥津マリリ、佐藤まりあ、日向ハル、十束おとはからなる4人組のアイドルグループ。2015年に加茂啓太郎のプロデュースにより活動を開始し、同年12月に会場限定シングル「すききらいアンチノミー」、2016年11月に1stアルバム「FUNKY BUT CHIC」を発売。以降“音楽性にはコンテンポラリーなファンク、R&Bの要素を取り入れ、歌詞には哲学的なメッセージを込める”というコンセプトのもとコンスタントに楽曲を発表し続けている。2020年9月にメジャー1stシングル「ドント・ストップ・ザ・ダンス」、2021年4月にメジャー2ndシングル「カップラーメン・プログラム」を発表。同年7月に東名阪ツアー「Philosophy no Dance Dance with Me TOUR 2021」を開催予定で、翌月8月にはメジャー3rdシングル「ダブル・スタンダード」を発売する。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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佐々木敦 @sasakiatsushi

自分でも読み返して感動してしまった。
後半です!
https://t.co/BhNU96ByT7

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