土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.6 前編 [バックナンバー]
ワールドワイドな演出家・振付師の仲宗根梨乃と対面(前編)
K-POPの振り付けはいかにして生み出されるか
2021年4月9日 17:00 12
少女時代で鍛えられた、大人数フォーメーション
土岐 具体的な曲を例に挙げてみると、
仲宗根 最初に音源をもらったときに、音がインベーダーゲームみたいに聞こえたんです(笑)。FUKOさんという方と2人で振り付けを作ったんですが、ほかにもアシスタントや韓国にいる先生、メンバーの意見も反映させて完成させました。
土岐 フォーメーションがすごく複雑ですよね。人数が多いグループだと特に大変だと思うんですけど、どうやって組み上げていくんですか?
仲宗根 慣れ? あははは(笑)。もう、
土岐 はあ……! 少女時代は「Genie」が“美脚ダンス”としてすごく有名になりましたよね。(映像を観ながら)すごく細かい角度までそろってるなあ。
仲宗根 これは実は直接メンバーと会ってなくて。ビデオで振りを渡しましたね。それを韓国の振付師さんが9人用に作って仕上げてくださって。メンバーにはこのあとの「Oh!」っていう曲のときに初めて直接会えて、その後も何曲かやらせていただいて。何曲も作る中でも同じことはやりたくないし、歌割に合わせて9人を動かして……とかを総合的に考えていくともう、パニック! 白髪が100本増えましたよ(笑)。
土岐 9人だと3、3、3で振ったりもできそうだしセンターも据えられるけど、8人だと左右対象にできない……とか人数によって出てくる縛りもあるのかな。好きなフォーメーションが組める人数ってありますか?
仲宗根 奇数のほうがもちろん中心を考えやすいですけど、私はもはや「なんでも来い」って感じ。
土岐 あははは(笑)。
仲宗根 4人でも10人でも、それはそれで楽しもうって切り替えてますね。私の好みとかではなく、与えられた人材と音源をどう私がCookできるか。その中でもソロは本当に大事に考えていて。1人ひとりがShineするのがソロパートなので、それぞれが輝いて見えるようにこだわってます。あとは、次に歌うメンバーの入り方を自然にするとか、サプライズ感も入れたいし。
土岐 サプライズ感! うんうん。
仲宗根 ソロが終わって歩く、とかよりもちゃんときれいに見せたいんです。端っこにいるなら端っこを見えるようにちゃんと作る。1つのアートですから、計算して丁寧に見せないと。そのあたりを、少女時代で本当にしごかれました(笑)。
土岐 ちなみに、振り付けを考えるうえで男性グループと女性グループの違いって何かありますか?
仲宗根 そんなにないかなあ。私は音楽の世界観を常に大切にしています。
土岐 ミュージックビデオの撮影とかは緻密に香盤通りにオンタイムにやっていく感じですか? 私は韓国の制作の現場はライブやテレビしか知らないんですけど、私が出演したことのある現場はけっこうゆるいというか、本番でいきなり「はい、やってください!」みたいな感じだったんですよ。でも共演者の韓国の方はそこで完璧を出せるように練習していたりして、瞬発力が鍛えられてるんだろうなって感じたんですよね。カメリハやら何回もリハーサルを丁寧に重ねていく日本とは違うんだなって。でもK-POPのMVの仕上がりとかを観ていると、すごくコンセプトとか歌詞と振り付けとの連動性とかが緻密に作り上げられているから、そこがなんだか自分の中で一致しなくて不思議だったんです。
仲宗根 緻密なときもあるし、ゆるいときもあるかな(笑)。日本で仕事をすると丁寧さにびっくりすることは多いですけど。どっちがいいとかではなく、それぞれのカルチャーがありますよね。
「永遠にやり続けてほしい」NCT 127の1stツアー
土岐 アイドルの人たちの「こういう動きをしたい」「こういうメッセージを伝えたい」っていう気持ちを反映させて振り付けを作ることもありますか?
仲宗根 もちろん! 私はコンサートの演出もやってるんですけど、そういうときは特にメンバーたちと話し合って決めます。
土岐 そう、梨乃さんが演出されたNCT 127の1stツアー「NEO CITY」をDVDで拝見したんですけど、すごく素晴らしかったです! 楽屋でメンバーたちに声を掛けている様子にもジーンとしたり。
仲宗根 自分もパフォーマーだから彼らの気持ちはわかるんですよね。本番前にどう気持ちを持っていくかというところが大事で。NCTはあれが初めてのコンサートだったから。
土岐 そっかそっか。「本番前にこういうふうに声を掛けてくれる人がいると心強いだろうな」って思いましたよ。セットも、ジャングルジムみたいなものや舞台が傾斜したりと面白くて。でもセットだけが印象に残るというのでも、ダンスだけが印象に残るというのでもなく、すべてがいいバランスで融合しているなと感じました。この連載のVol.3に出てくれたシズニ(NCT 127ファンの呼称)のMICAさんも、海外公演を含めたくさん観に行ってましたけど、「あの公演を歌舞伎の演目やロングランミュージカルみたいに永遠にやり続けてほしい」って言ってました(笑)。
仲宗根 え、「ライオンキング」みたいに?(笑)
土岐 そうそう。例え彼らのことをまったく知らない人が観ても、あの公演は魅了されると思います。実際、うちの夫も映像をじっと観ていました。
仲宗根 うれしいなあ。あれを作っているときの目標として、ファンじゃなく、初めてNCT 127を観に来てくれる人が観ても楽しめる内容で、9人のメンバーを1人ひとり覚えてもらうために見せ場を作るっていうことをすごく意識してたんです。
土岐 1人ひとりが違う振りをしたりするところも、本当にその人自身が動いている感じがするというか。これはいろんな人に観てもらいたいなと思いました。
仲宗根 ありがとうございます。でもホント、メンバーあってこそなんです。アイデアを出したのが私でも、それを私の要求するもの以上で表現してくれるアーティストたちなのですごくやりがいがある。NCT 127は素晴らしいですよ。私はホント、ただみんなの魅力を引き出して見せたいだけ。マイケルのコンサートから学んだのはそういうことですね。人をアートによって心躍らせる、というのは常に表現したいです。
(後編に続く)
土岐麻子
1976年東京都生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2019年10月にソロ通算10作目となるオリジナルフルアルバム「PASSION BLUE」を発表。2021年2月17日にカバーアルバム「HOME TOWN ~Cover Songs~」を発売し、3月6日にはワンマンライブ「TOKI ASAKO LIVE 2021 Spring『MY HOME TOWN』」を東京・日本橋三井ホールで行った。
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仲宗根梨乃
1979年沖縄県生まれ。マイケル・ジャクソンに憧れ19歳で渡米し、ブリトニー・スピアーズ、グウェン・ステファニーのワールドツアーや、アヴリル・ラヴィーン、ジャスティン・ビーバーなどの数々のミュージックビデオ、映画、CMなどにダンサーとして出演する。2008年のSHINeeのデビュー曲を皮切りに少女時代、東方神起、BoA、SUPER JUNIOR、f(x)、Red Velvet、NCT 127、超新星など数々の韓国アーティストの振付を担当。またジャネット・ジャクソン、ブリトニー・スピアーズ、国内ではCrystal Kay、AKB48、SMAP、DREAMS COME TRUEなどの振付にも携わる。近年ではコンサート演出も手がけ、自身も女優として活動。2021年4月より配信されている「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」にトレーナーとして出演中。
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