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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 3回目 後編 [バックナンバー]

神宿と新しいアイドルの在り方を考える

時代にマッチした“楽曲優先”のスタイル

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神宿として人生を生きているから

佐々木 一ノ瀬さんがBTS「Dynamite」をカバーしている動画を観たんですが、ヤバいですよね。歌唱力がこんな領域にまで達してしまっていて、どうするんだろうと思いました(笑)。

一ノ瀬 ありがとうございます。でも、あれについては、自分の中でたくさん反省点があるんです。だからこそ、カバーにはこれからも挑戦したいなと思っています。

南波 皆さんの歌唱力の向上もあって、楽曲の方向性が変わってきているというところもあるのかもしれないですね。

佐々木 確かに、難しい曲や今までにないタイプの曲も、皆さんが歌えるということが大きいかもしれない。妹さん(羽島めい)のラップも然り。あと、羽島姉妹で歌唱している「SISTERS」(2020年6月発表)ではASOBOiSMさんをプロデューサーとして迎えていますが、ASOBOiSMさんをフィーチャーするタイミングが早くて驚きました。

南波 ASOBOiSM さんが参加しているZoomgalsがまだ注目される前に制作された曲だから、どんだけ目の付けどころがいいんだよという(笑)。

羽島 あはは(笑)。うれしい。

佐々木 今はなかなか先が見えない状況ではありますが、神宿の未来については、どんなビジョンを持っていますか? これまでの成長に結果が付いてきている現状の中、皆さんはこれからどんなふうになっていきたいのかなと。

塩見 なんでこうやって変化し続けているかというと、やっぱり神宿を続けたいからだと思うんですよね。みんな神宿として人生を生きているから、このまま成長し続けて、私たちの人生に世の中をどんどん巻き込みたいって。やっぱり上辺だけというか、浅いところでは生きていけないなと痛感していますし、そうやって模索して考えて行動してきたから、こうやって、いろんな方々に神宿を見つけてもらえたり、みかさんのカバー動画が「関ジャム」に取り上げらたりもする。メンバーとしてすごくうれしいですし、今以上にみんなを巻き込んでいきたいなと思っています。

佐々木 塩見さんは、ご自身のソロ曲「Twenty」(2020年11月発表)で作詞に加え、作曲もされていましたよね。今後は作曲もやっていきたい気持ちはあるんですか?

佐々木敦

佐々木敦

塩見 そうですね。実は私、今マスタリングにも参加していて……。

南波 ええ、マジで!?(笑)

佐々木 それはもっと曲作りを深く知りたいということですか?

塩見 そうです。作業の工程がすごく楽しいんですよ。プロフェッショナルな方々と一緒にお仕事をさせていただく中で、「ああ、音楽ってすごく深いな」「私の知らない世界がもっともっと広がっているな」と気付いて。それについてもっと知りたいし、知るたびに楽しくなるし、幸せだなとも思えるんです。だからもっとがんばりたいです。

佐々木 なるほど。そのうちエンジニアリングも担当するようになったりして(笑)。

塩見 がんばります(笑)。神宿全体としては、2021年はやっぱり自分たちの人間力を高めることが大きなテーマかもしれないですね。

佐々木 人間力! そのテーマ、デカいですね!

塩見 あははは(笑)。そのためにYouTubeを活用したいろいろな施策を考えたり、どんどん曲を作ってアルバムを出したいと思っています。イベントなどがなかなかできない状況の中でも、自分たちができることはやっていきたいなと。去年ライブをしていて感じたことなんですが、神宿はみんなにとってやすらぎの空間だったり居場所でありたいし、自分たちが続けていきたい人生が神宿なんですよね。だから自分のこともそうだし、メンバーのことももっと理解したいと思ってます。

南波 “人生”というワードが何回も出てきていますけど、やっぱり「THE LIFE OF IDOL」って、すごいタイトルですね。今日の話を聞くと、すごく説得力があります。

南波一海

南波一海

佐々木 一ノ瀬さんはどうですか?

一ノ瀬 私は個人としてもグループとしても、みんなをどんどん引っ張って行きたいです。あと、10代の頃はできることにいろいろな制限があったので、20代はもっと自由になりたいです。そのためには自由になれるように技術を磨くし、人と対話することをあきらめないし、あきらめたくない。今まで以上に自由へ手を伸ばせるように過ごしたいです。

佐々木 素晴らしいですね。自由を求めてアイドルを続けていくって、なかなか言える言葉じゃないと思います。羽島さんはいかがですか?

羽島 自分のことでいうと、デビューしたときよりもメンバーそれぞれの成長が速いので、私も負けてられないなと(笑)。ボイトレに通ったり、最近またクラシックバレエを始めたので、表現力をもっと上げたいです。グループ全体としては、今後、神宿メンバーが個人でも大きな影響を与えられる存在になったらいいなと思っています。嵐さんみたいに、個々に活動しながら、5人が集まったらものすごいパワーが生まれるような。神宿はメンバー1人ひとり個性が強いので、YouTubeなどを通してそれぞれの魅力をしっかり伝えていきたいですね。

佐々木 なるほど、皆さん自分がやっていることをよく理解しているし、各々思い描いた活動をしていくんだという意欲が伝わってきました。今後の活動も楽しみです。

世界に羽ばたけるチャンス

南波 コロナ禍以降、特典会を開いてファンにCDを複数枚買ってもらうという従来のやり方は、なかなか難しくなってきましたよね。神宿は、そういうサイクルから抜け出して配信音源をリリースの軸に据えているところが今っぽいし、先のことをしっかり見据えていているように見えるんです。

塩見 この状況下で旧来のやり方続けていくのはマズいと気付いたのは、私たちのマネージャーさんだったんです。CDを売ってアイドルがファンと握手をするいう日本特有のCDの売買スタイルが、コロナの影響を受けて通用しなくなっている中で、これからは原盤というものに価値が見出されるんじゃないかって。

南波 確かに。これからはアイドルもCDを売るより、例えばSpotifyの再生回数だったりでメイクマネーしていく時代になるのかもしれない。

佐々木 海外のアーティストと同じ「音源を聴かせるのが第一」というスタイルですよね。アイドルにとっては、ステージでのパフォーマンスやファンとのコミュニケーションも重要だし、その中で優先順位なんてないかもしれないですけど、神宿は楽曲に重きを置いたことが大きく進化するきっかけになったんでしょうね。

塩見 そうですね。「在ルモノシラズ」のリリースタイミングで、Instagramでプロモーションを打ったことがあったんですが、そこからSpotifyで海外のリスナーがたくさん増えて。神宿の楽曲がSpotifyの急上昇チャートにも食い込むようになったんです。

左から塩見きら、羽島みき、一ノ瀬みか。

左から塩見きら、羽島みき、一ノ瀬みか。

柳瀬流音(神宿スタッフ) 補足しますと、一時期そのチャートで神宿の楽曲が1位にランクインもしたこともありました。そのときはどれくらいSpotifyに送客できるか実験していた期間だったので、うれしかったですね。握手会や特典会といったイベントを実施できなくなって、どうしたものかと考えていたので。そこから新しい試みとして、「在ルモノシラズ」「Erasor」「SISTERS」「Brush!!」とデジタルシングルを立て続けにリリースしていったんです。いろいろなマーケティングや施策をテストする中で、僕らなりにストリーミングの時代にマッチしたプロモーション方法を見つけたというか。

佐々木 なるほど。今はSNSと動画とサブスクリプションサービスが一体化したことで、海外にいる音楽ファンとの距離が一気に縮まりましたよね。以前は「日本語の歌詞はわからない」という理由で聴かれなかった音楽が、何語で歌っていようと「すごくいい」と思ってもらえる環境になった。つまり、世界規模の大きなマーケットがある。BTSが人気を博しているのも、彼らが英語曲を歌唱しているということも一因だと思いますが、そもそもリスナーの規模が大きく広がっていたという前提があるんじゃないか。だから、神宿が今挑戦していることは、日本のアイドルが世界に挑むための1つのヒントになっているような気がします。それに、海外の人から反応があるって、純粋にうれしいことですよね。行ったことのない国の人が、自分たちの存在に気付いてくれるというのは、昔はまずあり得なかったことですから。

南波 そしてアイドル本人たちと一緒にこんな話をしている今の状況もアツい(笑)。今は新しいアイドル活動のあり方を探すチャンスの時期ですよね。神宿の挑戦は、とても希望があると思います。

佐々木 むしろ「神宿ってコロナ以後、どんどん大きくなっていったよね」と言われるような存在になってほしいです。

羽島一ノ瀬塩見 がんばります!

左から佐々木敦、塩見きら、一ノ瀬みか、羽島みき、南波一海。

左から佐々木敦、塩見きら、一ノ瀬みか、羽島みき、南波一海。

<前回はこちら

神宿

一ノ瀬みか、羽島めい、羽島みき、塩見きら、小山ひなの5名からなる東京・原宿発のアイドルユニット。グループ名は「神宮前」と「原宿」を組み合わせて付けられた。2014年にデビューし、2015年12月に1stアルバム「原宿発!神宿です。」を発表。2017年11月に「原宿発!神宿です。」再録版と2ndアルバム「原宿着!神宿です。」を同時リリースした。2019年1月の東京・渋谷ストリームホール公演をもって、オリジナルメンバーである関口なほがグループを“勇退”。その後、関口の担当カラーである緑を引き継ぐ新メンバーのオーディションが行われ、2019年4月の東京・チームスマイル・豊洲PIT公演にて塩見が加入した。2020年9月に最新アルバム「THE LIFE OF IDOL」をリリース。同年11月に塩見のソロ曲「Twenty」、羽島みきのソロ曲「トキメキ☆チュウ」がデジタルリリースされた。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

※記事初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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