構成
クリエイションに参加する喜び
南波一海 さて、特に気になるのは神宿の音楽面での変化についてです。2020年は、4月発表の「在ルモノシラズ」を皮切りに、アルバムやソロ楽曲を含めて計9作品をデジタルリリースしましたよね。楽曲が、どれも素晴らしいものばかりで。
羽島みき・一ノ瀬みか・塩見きら ありがとうございます!
佐々木敦 「えっ、こんな曲もやるんだ!?」と意外性のある楽曲ばかりで新鮮でした。神宿の皆さんは一緒に音楽を作る人たちとどんなふうに関わっているのかということもすごく気になっていて。例えば何曲も担当されている玉屋2060%(
一ノ瀬 玉屋さんは、まず私たちと面談をしてくれるんです。今どういうことを考えているのか、自分のいいところやダメなところなんかをそれぞれ聞いてくれて。「CONVERSATION FANCY」(2019年2月発表)は、そのメモを片手に玉屋さんが原宿の街を歩いたりして、歌詞のイメージを膨らませてくれました。
羽島 すごくメンバーに寄り添って曲を書いてくださいましたね。
南波 そういう形で自分の思いが曲に反映されたことで、制作するプロセスみたいなものが見えてきた感覚でしょうか。それがやりがいとなって、「THE LIFE OF IDOL」(2020年9月発表のアルバム)でメンバー全員が作詞に参加していたりするのかなと思うんですが、どうでしょう?
羽島 作詞にチャレンジしたのは、塩見きっかけですね。今まで誰も作詞をしたことはなかったけど、塩見が初めて挑戦して。それをきっかけに、こういうこともアリなんだという考えがグループに芽生えて、そこから楽曲に対する意識も変わっていったと思います。
塩見 さっき「ボクハプラチナ」(2019年11月発表)あたりからサウンドの幅が広がったという話が出ましたけど、実はあの曲は「Erasor」(2020年5月発表)の音源と一緒に聴いてたんですよ。で、その2曲を私たちが歌うことについてチーム内でいろいろ議論したんです。そこで、「これを今、神宿が歌ったらどうなるんだろう」「難しそうだけど、ちょっと挑戦してみたいよね」と話し合って。
南波 へえー。
塩見 それがきっかけで、楽曲制作だったりクリエイティブなことに参加するのがどんどん楽しくなっていき、もっと関わってみたいと思うようになって。ついには「作詞をやってみませんか?」という話になり、私がコライトで作詞に参加する形で「在ルモノシラズ」をリリースしました。そうしたら、ミュージックビデオのコメント欄が歌詞の考察で埋め尽くされていて(笑)。それを見て、「もしかしたら、私が作詞したから、ファンの方が歌詞の意味を各々汲み取って解釈してくれたのかな?」と思ったんです。そこで、やっぱり自分たちが楽曲制作にも積極的に参加していくことが大事なんだと気付きました。誰かに作っていただいた歌詞や曲に思いを乗せて歌うのもいいけれど、やっぱり自分たちの感情や意思をしっかり込めたほうがいいんじゃないかなと。
佐々木 もともと文章を書くことが好きだったんですか?
塩見 いえ、全然そんなことはないです。私、理系なので(笑)。でもアニメが好きということから専門誌でアニメのコラムを担当させてもらって、その文章を面白いと言っていただいたことが少し自信になったというか。そこから自分の考えや気付いたことをメモする癖が付いて、作詞にたどり着きました。
佐々木 でも、すでに何曲も作詞していて、さっき話していた「Erasor」の作詞にも携わられていますよね。
南波 アイドルが味変みたいな感覚でいろいろなタイプの曲を歌うのは当たり前にあることだと思うんですが、神宿はそういうことともちょっと違いますよね。
羽島 確かに、いろいろな曲を自分たちのものにしたいという気持ちはありますね。1曲1曲、挑戦するような感じで。
佐々木 ファンの人がしっかりそれに付いてきてくれるというのも、すごくうれしいことですよね。
羽島 本当にありがたいです。
変わらないという選択肢はない
佐々木 僕はYouTubeのコメント欄を熟読するのが好きなんですけど(笑)、神宿のファンの方々には、新曲が出るたびに「こう来たか!」と変化を楽しんでいるムードがありますよね。その一方で、アイドルがファンの期待に応え続けるのは難しいことでもある。ファンのニーズに合わせていくだけだと、自分がどんどん失われていってしまうこともあると思うんです。
南波 そうですよね。神宿の楽曲やルックスがガラッと変化したとき、ファンからの賛否はあったんでしょうか?
羽島・塩見 もちろんありました。
南波 それはどうやって乗り越えていったんですか?
塩見 うーん……乗り越えたと言えるかわからないんですが、そういう賛否に左右されている場合じゃないというか。よく「アイドルとは?」と聞かれるんですけど、私の中ではアイドルとは、ステージで歌ったり踊ったり、いろんな形でみんなに元気を届けられる人のことだと思うんですよね。一方で今、情勢によってエンタテインメントとファンの関係性がすごく変わってきていると感じていて。明日どうなるかわからないという状況の中で、ファンの方も不安な感情を持っていると思うし、もちろん私たちもすごく不安なんですけど……人って、不安な感情を持ってるときはどうしても誰かにすがりたくなるから、今はあらゆるエンタテインメントにおいて、みんながいいと言うものにすがりたくなって、バズが起きやすい状況にあるのかなと。
南波 なるほど。
塩見 でもそれだと、ただ消費されるだけというか……搾取される存在になってしまうんじゃないかと思うんです。だから私たちは、神宿でバズを起こしたいとはあまり思っていなくて。不安な状況下だからこそ、ファンの賛否に一喜一憂するのではなく、私たちのほうがファンを引っ張って行かなきゃいけない。ファンの方々を先導するために、自信を持って立ってなきゃいけないなと。
佐々木 すごい。アイドルインタビューではまず出ないであろう、“搾取”というワードが出ました(笑)。
一同 あはは(笑)。
南波 「バズで消費されることなく、地に足付けた活動をしていきたい」というスタンスは、バズを意図的に狙っているアイドルとは真逆ですし、それを神宿みたいな存在が発言するというところにもグッと来ますね。
羽島・一ノ瀬・塩見 ありがとうございます。
佐々木 ちなみに僕は、「ボクハプラチナ」以降、一ノ瀬さんの歌い方がすごくソウルフルな方向に変わったように思うんですが、ファンからの反応はいかがでしたか?
一ノ瀬 「歌がうまくなった!」とか、うれしい反応がたくさんありましたけど、その一方で歌い方が変わったことについて、いろいろ言われることもありました。
南波 「アイドルに歌がうまくなってほしくない問題」はありますよね。
一ノ瀬 そういう意味ではおそらく、私が一番逆風を受けていると思います(笑)。グループでは最年少だし、加入した14歳の頃の売り文句は「2年前までランドセル背負ってました」だったので……。
南波 令和の時代にはそぐわなさそうな強烈なキャッチですね(笑)。
一ノ瀬 あと、私はずっと自分の黒髪が好きだったんですが、20歳の誕生日に初めて髪を染めたんです。見た目の変化はすごく大きく感じ取られるから、ファンの方もびっくりしていましたし、私もちょっとだけつらいことはあったりしました。でも、「その髪色もすごくいいね」と言ってくれるファンの方もいたので大丈夫です。人って1つ気に食わないことがあると「どこもかしこも全部ダメ」と言いたくなっちゃうじゃないですか。むしろ私は、そういう人たちの心も浄化できる存在になれたらいいなって(笑)。
佐々木 すごい。そんな境地に(笑)。
塩見 みかさんは、自分が変わっていくことに対して、どう考えているんですか?
一ノ瀬 変わらないという選択肢は、あまり自分の中にないかな。変わらないことは停滞だし、私は神宿に青春を捧げてきたからこそいろんなものを得たし、勉強させてもらったので。仲間がいることにも感謝したいし。グループにしおみぃ(塩見)も入ってきて成長できる時期なのに、自分が停滞してたらもったいないと思う。
南波 ……金言しかない。
神宿として人生を生きているから
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音楽ナタリー @natalie_mu
【連載】佐々木敦と南波一海の「聴くなら聞かねば!」第3回:神宿と新しいアイドルの在り方を考える(後編)|時代にマッチした“楽曲優先”のスタイル
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