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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 2回目 前編 [バックナンバー]

和田彩花とアイドルの自由意思を考える

「ファンのために」という言葉の意味

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佐々木敦南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。この企画では「アイドルソングを聴くなら、この人に話を聞かねば!」というゲストを毎回招き、2人が活動や制作の背景にディープに迫っていく。作詞家・児玉雨子に続く第2回のゲストは和田彩花。2019年にアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業して以降ソロでアイドル活動をする彼女に、スマイレージ(現アンジュルム)のオリジナルメンバーとしてデビューした当時や、活動の中で心の中に芽生えた変化、グループ活動をともにしたメンバーへの思いなどについて語ってもらった。今回は3人によるトークの前編をお届けする。

構成 / 瀬下裕理 撮影 / 猪原悠 イラスト / ナカG

和田さんが選挙に出たら当選する

佐々木敦 僕、今日は緊張しながらここまで来たんですけど、さっき編集部の入り口でいきなり和田さんに会っちゃって(笑)。そのままなし崩しに話を始めてます。南波くんは和田さんに何度も取材したことがあるんだよね? 最初の取材はいつ頃?

南波一海 2011年の夏ですね。スマイレージ2期がサブメンバーとして加入することが決まった頃かな(※2011年8月14日に行われたライブイベント「Hello! Project 2011 SUMMER ~ニッポンの未来はWOW WOWライブ~」にて中西香菜、小数賀芙由香、竹内朱莉、勝田里奈、田村芽実の5名がスマイレージのサブメンバーになることが発表された)。それが僕にとって初めてのハロプロ関連の取材だったんですけど、そこから和田さんはどんどん知性を磨かれていって、今ではこんな立派な……。

和田彩花 あはは(笑)。いやあ、もうめっちゃ前ですね。でもグループアイドル時代に受けた取材では新曲にまつわる質問が多かったんですけど、南波さんは毎回それ以外にもかなり深いところまで話を聞いてくれて。私も当時日々感じていることがあったから、いつもインタビューを楽しみにしてました。

和田彩花

和田彩花

南波 そう言っていただけてうれしいです。

佐々木 和田さんの人間的な成長を見守ってきたんですね。

南波 節目節目で話を聞いてきました。和田さんはグループでインタビューしているときも1人だけ見ている地平が違ったというか、発言がすごく客観的だったのを覚えています。僕が「コンサートのあの部分がよかったです」と言うと「いや、あそこはもっとこうできたと思うんです」「あの部分には疑問を感じてました」みたいな議論になることもあって。だから和田さんと話をするときは「がんばらないとな」という緊張感がありました(笑)。

佐々木 僕は去年初めてアイドルというものに強く興味を抱いて、ライブには行かずにひたすらYouTubeを観ているような人間なんですが、最近の活動からスマイレージ時代まで和田さんの活動をさかのぼりながら本当にひとかどの人物だなと思いました。

和田 ありがとうございます(笑)。

佐々木 ここ一番というときに語る言葉がすごい。この連載でも前に話したんですけど、僕は和田さんが選挙に出たら絶対に当選すると思っていて(笑)。

和田 そんな! やめてください!(笑)

佐々木 若干誤解を招きそうな言い方でしたが(笑)、とにかく過去の映像を観ていて、すごく意志の強い方だという印象を受けて。和田さんは2004年にハロプロエッグ(現ハロプロ研修生)に合格して、2010年にスマイレージのオリジナルメンバーとしてデビューしたわけですが、最初にアイドルを目指したときはどんな気持ちだったんですか?

和田 最初はアイドルになりたいとはそこまで思っていなくて、オーディションを受けたのも半分は親の勧めがあったからなんです。うちはちょっと親バカというか(笑)、我が子がかわいいばかりにいろんなオーディションを私に受けさせていて。ハロプロもその延長線上にありました。とはいえ私もハロプロは好きで、ミニモニ。さんの真似をしたりだとか、あとは小さい頃、ayu(浜崎あゆみ)が大好きだったんですよ。ayuが腰に付けている尻尾のアクセサリーを真似して買って付けてみたりして。でも別に、自分で歌って踊って何かを表現したいとは考えていなくて、単純に憧れの人たちと同じような恰好をしたいとか、「なんか好きだな」という感覚でした。そしたらいつのまにか研修生になっていて、あとは流れに身を任せていた感じです。「この仕事をしよう!」というスイッチが入ったのは、スマイレージでデビューしてからですね。

佐々木 じゃあ、アイドルに“なっちゃった”というか。

和田 そうです。デビューするまではアイドルとしての自覚は一切なかったです。

佐々木 上を目指そうとか、ちゃんとやっていこうという気持ちが芽生えたのは?

和田 それもデビュー以降です。当時のマネージャーさんに「これは仕事なんだからこうしないといけないんだよ」と厳しく教えてもらって。それまでは部活動みたいにみんなで楽しくワイワイする感覚でしたが、これは仕事なんだと思うようになってから自然とスイッチが入りました。それで雑誌の取材を受けたり、駅中で自分が写ってる看板を見つけて、「うわー、デビューってこういうことなんだ!」と自覚していって。

佐々木 気持ちがあとから追いついてくる感じですね。

和田 そうです、そうです。

南波 とはいえ、僕が最初に取材したときはむちゃくちゃ無邪気でしたけどね(笑)。ほかのメンバー含め、やんちゃな子供って感じで。

佐々木 実際年齢的にも子供だし(笑)。デビュー当時は平均年齢15歳でしたっけ?

和田 はい。なのでよく言われてましたよ、「子供」って(笑)。

辞めていったメンバーに対して思ったこと

佐々木 和田さんはハロプロで約10年間アイドルとして活動されてきましたが、その中でだんだんと今のご自身ができあがっていったわけですよね。意識的に大きく変わるきっかけが何かあったんでしょうか?

和田 一番は、デビューして1年でメンバーが半分辞めちゃったことですかね。幼いながらにファンの存在をすごく自覚した出来事でした。メンバーの卒業が発表されるたびに、大人のファンの方々が泣いてるんですよ。「私たちみたいな子供に対して、こんなに泣くの?」という驚きがありました。でも自分たちがそれくらい影響力を持っているんだとそこで自覚して。それと同時に、当時は辞めていったメンバーに対して自分勝手だなって思ってしまったんですよ。「グループのために一生懸命サポートしてくれるスタッフさんだったり、応援してくれてるファンの人たちがいるのに、そんなにすんなり辞められるんだ」と。私は1回スイッチが入るとのめり込んじゃうタイプなので、がんばろうと決意した矢先にメンバーが辞めてしまったことにすごくショックを受けて……それからは、「自分は辞めずに、ファンのために活動していこう」という思いが強くなりました。でも、その考えにはいろいろな側面もあるじゃないですか。

佐々木 いろいろな側面というと?

左から佐々木敦、南波一海、和田彩花。

左から佐々木敦、南波一海、和田彩花。

和田 「ファンのため」って考えすぎるあまり、いわゆる“アイドルらしさ”に縛られてしまう部分もあるし。そういうことに気付いたのは10代後半なんですけど、それまではとにかく「自分のやるべきことはみんなを笑顔にすることだ」とずっと思っていました。

佐々木 アイドルの加入と卒業には1人ひとりの事情や物語があると思うんですが、和田さんが今おっしゃった、ファンとどんな関係を結んでいくかというのは大きなテーマですよね。「ファンのためにがんばります」という気持ちは正しいし、本当に純粋にそう思ってるんだろうけど、「ファンのために」と過剰に思い込んだり、それが義務感のようになってしまうと歪みが生じてくる。

和田 本当にそうですよね。スマイレージは華々しくデビューしたのに1年の間にメンバーの卒業と加入があって。そうするとファンの人数が目に見えて減っていくんです。「ファンが離れるってこういうことか」とすごく思って、その分ファンの皆さんに好きになってもらうことばかり考えてましたね。

佐々木 なるほど。

和田 でも、その後、新メンバーが入ってアンジュルムに改名したら、一気にみんなに注目されて、思いもしなかった大きな会場でいきなりライブができたりして。大衆の意識を感じたというか、「それって今までやってきた活動とどこかで切り離されてない?」と疑問に思ったんです。「ファンのために」という無邪気な気持ちが、「ファンって、じゃあ実際はどんな人たちなのか」「私たちの活動が本当の意味でその人のためになっているのか」と徐々に変化していったんです。ある時期から自分がなんのためにアイドルとして活動して、なんのために生きてるんだろうと考えるようになりました。

和田彩花

和田彩花

南波 確かにちょっとしたきっかけでそんなふうにグループを取り巻く状況がガラッと変わってしまうと、ファンのためとはいえこれまでのことはなんだったんだ?という気持ちになりますよね。それだけを拠りどころにするには不安定すぎる。

和田 ですね。私も握手会とかで「ずっと辞めないでね」って言われたりしたんですけど、そうすると「そうか、辞めたらみんな悲しむんだな。やっぱり辞めちゃいけないんだ」と思ってましたし。

佐々木 葛藤がどんどん芽生えていきますよね。ファンのために、例えばチャートで1位を取るとか大きな会場でライブをやるとか、数で見えるような具体的な成功を目的にしてしまうと、実現できなかったらダメだったということになってしまう。最終的な目標が数字や規模感だけになってしまうのは、アイドルと言われる10代の人たちにはヘビーすぎる気もします。

和田 私もそう思います。私は20代になってから、自分がそういう具体的な数字を目標にしていないことに気付いて、それは大きな変化でしたね。ライブハウスにお客さんが全然来てなくてもツアーは楽しかったし、お客さんが楽しそうにフロアで走り回ってるのとかも本当にいい思い出なんですよ。数で何かを評価することはできないとそこで気付きました。でもハロー!プロジェクトにはいろんなグループがいて、自分たちよりも大きな会場を回ったり海外に行っているグループもある。そういう中で、自分たちがいいと思うものは自分で決めていいんだと気付いたのは、ある種のあきらめかもしれないです。

佐々木 でもそんなふうに変化していく心の内を、グループのリーダーとしては口に出せないですよね。

和田 当時はそうでしたね。

南波 そういう発言が若いメンバーに影響を与えてしまうことも和田さんは心配していて。単独インタビューのときは自分が抱えている葛藤みたいな部分を話してくれるけど、みんなで話すときはけっこう慎重になると言っていたんです。そういう姿勢もすごいなと思っていました。

和田 ありがとうございます。

和田彩花

和田彩花

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水道橋博士 @s_hakase

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