令和のアーティストとSNS 第6回 [バックナンバー]
TikTok宮城太郎&LINE MUSIC出羽香織が振り返る、2020年の音楽シーン
歌詞のインパクトと共感が生んだエモのスパイラル
2020年12月18日 18:00 8
2020年の日本の音楽業界における大きなトピックがTikTok発のアーティストのヒットだろう。さまざまな新人アーティストがTikTokをきっかけにバズり、その後LINE MUSICをはじめとするサブスクリプションサービスでその人気をさらに広げるという1つの流れができあがった。そこで今回の記事では、TikTok Japanの音楽チーム シニアマネージャー・宮城太郎氏とLINE MUSICのコンテンツマネージャー・出羽香織氏の2人に、今年SNSをきっかけにブレイクしたアーティストについて語り合ってもらった。
取材・
瑛人とTikTokと紅白
──さっそくですが、TikTokやLINE MUSICで今年どんな曲が流行ったか振り返っていければと思います。
出羽香織 外せないのは
宮城太郎 2019年もTikTokでの人気曲がLINE MUSICなどのチャートに入ることはあったんですけど、瑛人さんくらい一発大きくヒットしたものがなかったので、「TikTokで流行ったものはTikTokの中で終わる」と言われていたんです。今年はちゃんとTikTokから外に広がることが示せたのでよかったと思います。
──やはり瑛人さんは外せないですね(参照:瑛人「ライナウ」インタビュー)。
出羽 紅白出場というのが、音楽ファンだけじゃなくてお茶の間にも届いたという感じですよね。
宮城 今年ブレイクしてからのスピードが早かったですよね。あっという間に紅白出場まで行って。
──しかも「香水」って2019年に発表された曲なんですよね。
宮城 そういうケースが今年は多かったですね。「なんで今これが流行っているんだろう?」と思うようなものがけっこうありまして。「なんで突然バズったんですか?」ってよく聞かれるんですけど。
──なんでなんですか?
宮城 去年の夏にindigo la Endさんの「夏夜のマジック」という曲が話題になったことがあったんですよ。TIkTokクリエイターがこの曲を使って動画を上げて「めちゃめちゃエモい!」と評判になり、LINE MUSICなどのチャートに影響があったりして。そこからエモい感じの楽曲をユーザーが動画として上げていく流れがけっこう定番化したんですよね。陽キャの人だけじゃなく、陰キャの人でも切なさとかそういう気分の動画を上げていいんだという流れができて、歌詞動画が根付き始めるんですね。
──それはindigo la Endさんの「夏夜のマジック」がきっかけだったんですか?
宮城 もともと大森靖子さんの楽曲を使って動画を上げている人たちもいたし、どれか1つがきっかけということは言い切れないんですけど、「夏夜のマジック」に関しては明らかにヒットしたという感覚はありますね。ほかにはiriさんの「会いたいわ」とか。そうやって徐々に歌詞動画が伸びてきたところで、その次の段階で男性シンガーソングライターの瑛人さんがユーザーに刺さったのかなと。
──ちょうど盛り上がっているタイミングだったんですね。
宮城 そうですね。去年だったらダメだったかもしれない。
歌詞のインパクトが求められる
出羽 今、エモいというお話がありましたけど、ユーザーの間で歌詞の世界観がすごく重視されていますよね。歌詞が付いた動画を載せることによって、より強調しているんでしょうね。ただ聴くだけじゃなくて、歌詞の世界観が視覚でも入ってきて。
宮城 そうですね。特にTikTokは頭の何秒かで興味ないとパッと飛ばされちゃうので、最初の歌詞のインパクトが求められるんですけど、そういう意味でも「香水」の「別に君を求めてないけど」とか「ドルチェ&ガッバーナ」というワードが強くて、スワイプされずに残ったんだと思います。
出羽 動画を観ているユーザーが「わかる!」って共感して、それがどんどん連鎖していくというか、シェアされていくんですよね。エモのスパイラルというか。アーティストのネームバリューに関係なく、歌詞に共感してどんどん広まっていきますよね。
──
宮城 そうですね。「snow jam」もAメロの「Loadingで進まない毎日」という言葉の強さがあって、モーニングルーティンの動画を上げる人がすごく多くて。Aメロからバズったので、僕らがフル尺を聴いたのはけっこうあとで、「あ、サビってこうなってたんだ」ってあとになってわかるという(笑)。
出羽 サビを聴いていなくても、グッとつかむワンフレーズがあれば楽曲が広まるきっかけになるんですよね。
──ほかに今年気になったアーティストは?
出羽 yamaさんの「春を告げる」も衝撃的でしたし、
宮城 「ドライフラワー」は「かくれんぼ」のアンサーソングですよね(参照:優里「ドライフラワー」インタビュー )。
出羽 そうそう、アンサーソングが女性側の目線で。1曲バズったからと言って次の曲もバズるとは限らないんですが、そういうギミックがユーザーに刺さったんでしょうね。「あっそういうことだったんだ!」みたいな。
宮城 「かくれんぼ」も歌詞の強さが衝撃的でしたよね。
ユーザーの共感が大事
──今年TikTok発で話題になるアーティストが多く出てきた理由はどういうところだと思いますか?
宮城 僕は音楽の聴き方が変わってきたと思っています。昔はアーティスト側が「この歌はこういう曲なんだよ」とミュージックビデオで提示していたと思うんですが、今はユーザーが勝手にMVを作ってくれるんです。曲がどう解釈されるか、僕はユーザーに任せたほうがいいと思っていて、ユーザーがうまいことMVを上げてくれるような流れを作っているアーティストが共感を得ている感じはしますね。昔は「聴き手に委ねる」という言い方をしていましたけど、今は聴き手であると同時に作り手でもあるので、ユーザーにどう委ねていくかがポイントで、そこで共感が生まれたものが結果的に多く聴かれる状態になっていると思います。
──“共感”というのは1つのキーワードですね。
出羽 共感された曲が勝手に一人歩きしていくのがすごくいいですよね。例えば、おそらくアーティストが狙った本意ではないかもしれないですけど、
宮城 そうそう、「キンモクセイ」でシャボン玉を飛ばしている動画はTikTokに多いですよね。
出羽 ほかにも紙袋で遊ぶ動画とか、ある種お約束的な動画がたくさんあるんですけど、たぶんどれもアーティストが望んだものではない。その曲で本来狙ったものとは違うんだけど、ユーザーが撮りたいように撮って楽しんで広まっていくのがすごく面白いですよね。
宮城 それが結果的にアーティストにも還元されるんですよね。
TikTokには偶然の出会いがある
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Kiyoshi @Kiyoshileo
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