俺はいったい何を楽しんでいるんだろう
南波 ハロプロは、けっこう早い段階でお客さん入れるライブを始めていて。毎年夏と冬にハロプロのメンバーが一堂に会するコンサートがあるんですけど、今年の夏以降はライブの構成をガラッと変えて開催しているんですよ(「Hello! Project 2020 ~The Ballad~」)。
佐々木 全曲バラードでしょ?
南波 そうです。全曲J-POPのバラードのカバーで、基本的にはソロ。要するに、声援を上げず静かに観るような構成になってるんですよね。この間、日本武道館でその集大成的な公演(「Hello! Project 2020 Autumn ~The Ballad~ Extra Number」)があったから観に行ったんですけど、やっぱり延々バラードなんです。そう謳っているので当たり前なんですが(笑)。
佐々木 何十人も1人1曲ずつ入れ替わり立ち替わり出てきては歌って捌けていくわけでしょ? ある意味、のど自慢大会とかに近い構成だよね。
南波 そうなんです。観てると面白いんですよ。北川莉央さん(モーニング娘。'20)の表現はすごいなとか、短い歌割りだけだと気付きにくかった魅力を知ることができる機会もあるし。ただ、確かに面白いんだけど……自分がずっと楽しんできたものって、きらびやかな衣装を着た人たちが大勢で歌って踊るライブだったわけじゃないですか。それとは対極的なステージが目の前で繰り広げられていて。でも、そこに順応して面白さを見つけている自分もいる。で、「俺はいったい何を楽しんでいるんだろう……」って考えちゃいました(笑)。
佐々木 なんちゃんもアイデンティティクライシスに陥って(笑)。
南波 めちゃめちゃ根源的な謎にぶつかってしまって。自分はアイドルの現場に何を求めているのかという。
佐々木 以前と同じ人たちが出てるのに、違う。
南波 ステージにいるのはいつもと同じ人たちなんです。なんかすごく不思議な気分になって。
佐々木 客席はどういう空気なの?
南波 めちゃ静かですよ。
佐々木 だって声を出しちゃいけないんでしょ?
南波 ダメです。応援はペンライトを振るか拍手のみなんですけど、“高木紗友希(
佐々木 観た観た(笑)。動画で歌ってた曲をライブでやったんでしょ?
南波 小田さんのホイッスルボイスはミニー・リパートンみたいでした。もう、信じられないくらいの拍手なんです。で、さっきの話に戻るんですけど、あの公演全体を普通に楽しめていたというのは、さっき佐々木さんが言ったような、場の力みたいなものが働いていたのかなって。演者とファンが同じ時間に同じ場にいるという。
佐々木 ああ、それはあるかもしれないね。
南波 冷静に考えたら、あまり好きじゃないタイプの催しなんですけど(笑)。
佐々木 ある意味シュールな催しだもんね(笑)。
南波 3時間越えの長丁場ですしね。しかも普段から自分は歌がうまいとか、そういう評価軸だけでアイドルは語れないということを言ってるのに(笑)。でも、それでも楽しいなと思えているというのはやっぱり、現場のなせる何かがあるのかなって思うんです。
佐々木 いろんな要素がどんどん抜かれていったとき、最後の最後に残るバイブスみたいなものというか(笑)。
南波 そうですね。地下アイドルで、マスクして口パクでライブをやってた人たちがいたんですよ。ピューパ!!ってグループなんですけど。MCまで事前に録音したりして(笑)。それもなんだかんだ面白かったし。
佐々木 結局それも煎じ詰めれば、“そこに居る”問題だよね。口パクでもいいし、極端な話、何もしてくれなくても、その“場”を共有できればいい。同じ場に居合わせることの価値っていうのかな。
スパイス何個からカレーなのか
南波 ちなみに僕、武道館以外のところでやったハロコンにもチケットを買って行ってみたんですよ。そしたら出演者の人数を絞ったうえに演出もかなり控えめで。それも意外と楽しめたんですよね。そこで考えたのは、カレーを作るうえでスパイス何個からがカレーなのかみたいなことで(笑)。スパイスを抜きまくった公演のはずなのに。
佐々木 でもまだカレーだっていう(笑)。
南波 そうそうそう(笑)。ある意味、アイドルというものがすごくむき出しになっていて。
佐々木 アイドルの本質というか、ハードコアな部分を感じることができたっていう……でも、本当にそうなのかな?(笑)
南波 あははは。自分がアイドルのライブに何を求めているのか、コロナ以降そのことについてひたすら考えているんだけど、結論は出ないままなんです。「果たしてこれが続いたときにどう感じるようになるのかな?」なんて思いますし。
佐々木 たぶん今なんちゃんが言ったことは、チケットを買って武道館までハロコンを観に来たファンの人たちが持ってる“無意識”みたいなものに触れてるよね。その人たちも3時間にわたってじっと座って、黙ってライブを観ていたわけで、推しメンが出てくるのを今か今かと待ちながらも、なんちゃんと同じように「俺は今、いったい何を観てるんだろう?」って存在論的な不安に駆られていたんじゃないかな。
南波 そういう人がいてもおかしくはないですよね。
佐々木 そのとき、たぶん自問自答するよね。「いつものハロコンと全然違うよな」「俺はこの公演を本当に楽しんでるのかな?」「今後もずっとこういう感じだったらどうしよう……」とか。でも多くのハロヲタは、それでもきっとまた足を運ぶんじゃないかなと思う。コロナ禍を経て、今後アイドルファンも第2形態、第3形態に進化していくような気がする。アイドルに対するアプローチにすごいレンジが生まれたよね。
南波 本当にそうですよね。オンラインライブのあり方も刻々と変わってきているし、入場者数を絞りつつ従来の形に限りなく近いライブをやるパターンもある。いつかすべてが元に戻るというより、佐々木さんの言うようにレンジが広がっていくんだろうなと思います。
佐々木 ハロプロは今後どうなっていくんだろうね。Juice=Juiceに元
南波 人前に出られなかったから。
佐々木 れいれいも加わった形でなかなかパフォーマンスしなかった、というかコロナでできなかったから、俺はその状態を“サブリミナル加入”だと呼んでた。
南波 サブリミナル加入(笑)。
佐々木 絵面としては加入してないようで、でも実は加入してるみたいな。その結果、入れ替わりで卒業するはずだった宮本佳林さんとれいれいがグループ内で共存してるっていう。これはアンジュルムでも起きることですけど。
南波 本来であればありえない未来になっている。
佐々木 ファンの間でも「時間軸が混乱してる」とか言われてるんでしょ? 「こんな世界線があると思わなかった」みたいな(笑)。でも、今後もどうなるかわかんないわけじゃん。これは別にハロプロに限った話じゃなくて、みんな早く元の状態に戻ってほしいと思うのは当たり前だし、その欲望は今後ますます強まっていくだろうと思う。でも、神様がその願いを叶えてくれるとは限らない。だからこそ問われるよね、やる側も観る側も。俺がアイドルに興味を持った途端、こんな状況になっちゃって。2021年にはどうなっちゃってるんだろう……っていうか、わかんなくない?
南波 全然わかんないです(笑)。
佐々木 我ながらすごいタイミングでアイドルにハマったなと思うよ(笑)。
佐々木敦
1964年生まれの作家 / 音楽レーベルHEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」編集長。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月には78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)が刊行された。
南波一海
1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル「PENGUIN DISC」主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行ない、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「
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吉田光雄 @WORLDJAPAN
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