左から吉田靖直、川辺素、澤部渡。

2010年代の東京インディーズシーン 第2回 [バックナンバー]

澤部渡(スカート)×川辺素(ミツメ)×吉田靖直(トリプルファイヤー)鼎談

3組が振り返る“東京インディー”の10年間

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変わりゆく東京インディーシーン

──このコラムは2010年代の東京インディーズシーンを振り返る企画なので、ちょっと切ない話もします。2015年に昆虫キッズ森は生きているが解散していますし、シャムキャッツも今年6月に解散をしました。そういう時代の変遷について感じるところはありますか?

澤部 昆虫キッズに関して言えば、逆によく4枚もアルバムを作ったなと思えるくらい奇跡的なバランスで成り立っていたバンドだったし、あんなアルバム(2014年5月発売のラストアルバム「BLUE GHOST」)を作ったらもう解散するしかないだろうな、バンドとしてはこれ以上ないぐらいいい終わり方だな、と思ってました。でも、シャムキャッツの解散は、けっこうきましたね……。なんというか、“バンドをやり続けるバンド”みたいに思ってたところがあったから。

川辺 よっぽどミツメとかトリプルファイヤーのほうが続けていく根性なさそうなのに。昆虫キッズやシャムキャッツはちょっと先にいる先輩って感じのバンドだったから、いなくなるという事実に対しては「そうかー」と思うところはありました。

川辺素

川辺素

澤部 2016年くらいに「東京インディーシーンの離散」みたいな記事を見かけたんですよ。そのときに「あ、“東京インディー”と呼ばれるシーンがあるんだ」ってようやく実感した気がする。あと、逆にいうと「僕らはそこに入ってないんじゃないか?」という気もした。

川辺 ほかのバンドと自分のバンドに共通項があまりない気はしていたし、そういう意味ではシーンからはみ出してる感じは、あるのかな。

吉田 “東京インディー”って言及されるときに、僕らは特に出てこないですから。でも、“東京インディー三銃士”ということでギリギリ引っかかってはいる。逆に「入ってたまるか」みたいな感じはありましたね。

──“東京インディー三銃士”と名乗りながら、“東京インディー”の円の中にはいない意識?

川辺 “東京インディー”って言われると「どうだろうな?」ってなる。でも、“東京インディー三銃士”って言われる分には「まあ、いっか」みたいな(笑)。

澤部 “三銃士”って付けば「OK!」ってなるよね(笑)。少なくとも僕は“東京インディー三銃士”を楽しんでました。でも“東京インディー”という言葉をより強く意識したのは、Yogee New Wavesとかnever young beachが台頭した頃だった気がする。

川辺 あの頃から「ここまでが東京インディーシーンだよ」みたいに括りたがる記事をよく見かけた気がする。

左から澤部渡、吉田靖直、川辺素。

左から澤部渡、吉田靖直、川辺素。

──2015年くらいを分岐点として潮目が変わった感じはありましたね。“シティポップ”というワードも、2010年代後半のほうがより強いものとして扱われるようになったかな。

川辺 音楽の下地がしっかりした人たちも増えた印象がある。技術が説得力のある時代になってきてますよね。それで自然にカッコいいことができてる。僕らはもともと“バンドがやりたい大学生”から出発してるし、「インディーファンクラブ」でもそういう感じの人たちが多かったと思う。そこから見ると、シーンの空気感は2010年代末にかけて変わった気はするかな。今はみんなすごく「がんばっていくぞ」という上昇志向があるけど、俺らはそういうふうながんばり方ができなかった。“俺ら”って言っちゃったけど(笑)。

澤部 自然にカッコいいことができるってすごいよね。僕らはMCでカッコいいこととか言えないですからね(笑)。

左から澤部渡、吉田靖直、川辺素。

左から澤部渡、吉田靖直、川辺素。

──“強気でMCできない問題”はこの世代にはありますよね。吉田くんは大喜利では圧倒的な力を発揮するのにね(吉田は2016年に大喜利の大会「ダイナマイト関西」でベスト16に輝くなど、大喜利イベントで活躍していた)。

吉田 それ、今日の話題と関係ないじゃないですか(笑)。

澤部 まあ、トリプルファイヤーは大喜利でブレイクしたし、スカートは僕がスピッツの口笛でブレイクした(笑)(2016年4月22日にスピッツのバックで「ミュージックステーション」に出演。翌週には“謎の口笛タンバリン男”として特集も放映された)。

川辺 吉田くんなんて「タモリ倶楽部」に出てるからね。しかも番組で実家まで行って。

澤部 まさか友達で「タモリ倶楽部」に出る人がいるなんて!

吉田 やっぱり“東京インディー”に入れていないというコンプレックスからの反動で「じゃあ、俺はこっちでやってやるよ」と。

澤部 それは大いにあるかもしれない! でもそんな中、ミツメがまっすぐに音楽をやっててくれて、改めて心強い存在だと思ってました。

2013年1月14日、東京・鹿鳴館でライブをするトリプルファイヤー。(撮影:二宮ユーキ)

2013年1月14日、東京・鹿鳴館でライブをするトリプルファイヤー。(撮影:二宮ユーキ)

闇鍋的なライブの面白さ

──いろいろ振り返ってもらいましたが、2020年の今、お互いをどう見てますか?

澤部 とにかくトリプルファイヤーがいまだに伸びしろがあるというのがヤバいですね。ライブに行くたびに新しい曲が一番印象に残る。学生時代ならまだしも、そんなバンドがまさか同世代でいるとは。今のトリプルファイヤー、異様なエンジンのかかり方してるんですよ。ミツメも配信でリリースされてる新曲が全部ヤバくて、僕は正直、置いてかれてる感がある。

吉田 澤部くんがメジャー的なところでやってくれてるから、“東京インディー三銃士”がただの嫉妬の表れじゃなくなってるというのはあるかな。

川辺澤部 (笑)。

吉田 メジャーでやってる人がインディーズのよさを熟知してるというのが、いいですよね。

澤部 めちゃくちゃメジャーっぽくないメジャーデビューだったんで、それ以前の活動からの延長でやれてるのはありがたいですね。

──川辺くんはどうですか?

川辺 僕らは、ずっと“純増”というんですかね、ちょっとずついろんなことを積み上げながらずっときてるので、これを続けていきたいなという感じかな。そのときそのときで勉強したり練習したり、作れる作品は変わってくると思うんで、これを続けていけたらなと思ってますね。

左から吉田靖直、澤部渡、川辺素。

左から吉田靖直、澤部渡、川辺素。

──この3者の結びつきって本当に独特で、「出し抜く」とか「負けられない」とかよりも「長く続ける」というのがモチベーションになってる感じがあります。この先“東京インディー”は滅んでも“東京インディー三銃士”は残った、みたいになったりして(笑)。

澤部 出し抜こうなんて思ったことないですからね(笑)。僕らは脇道を歩んでますから。

吉田 それに比べると今のバンドは、あまりダサいことをせず、まっすぐにカッコいいことができるからすごいなと思いますね。今MotionやGOODMANの平日にどんなバンドが出てるのか見てみたいです。平日のライブハウスって、よくない意味で「ヤベえ」みたいな感じがあって、何が出てくるのかわからない楽しみがあったんですよね。「あらびき団」(TBS系で放送されていたネタ番組)的な。その楽しみ方もしてみてほしいですけどね。

川辺 上江洲さんがSHELTERでやってたような、雑な感じが面白いブッキングは今はあまりなくなってるのかもしれないですね。

澤部 闇鍋感は減ったかも。

川辺 闇鍋的に見えてちゃんと楽しめるように整備されているものが増えているのかもしれない。「こういう気持ちが味わえるだろうな」と予想できるイベントをしっかりキュレーションしてくれてる場所にお客さんも集まっているように思う。確かに、お金を3000円とか払って、貴重な夜をよくわからないところで過ごすというのはなかなか体力のいることでもあるし。

吉田 あんまり整ってないものも面白がられたらいいなと思いますけどね。もうちょっと闇鍋を食べようよ、みたいな。

澤部 我々も30歳を過ぎたし、僕らの世代でのオルグにあたるであろう幡ヶ谷Forestlimitとかで今何が起きてるのか見ていないから、今のシーンに対して何かを言えない感じもあります。でも僕は「昔はよかった」というより、今のところは「今が一番いいかな」とは思ってます。

──ちなみに澤部くんに関しては、この10年は順調に体重を増やしてきた10年でもあります。

澤部 僕はそこが“純増”ですから(笑)。

吉田 やっぱ冬とかあんまり寒くない?

澤部 いや、それが寒いんですよ。脂肪って温まりにくいから、1回冷えるともうしばらく寒いんです。

吉田 ああ、水筒みたいな。

澤部 自分の規模感的にはちょっとずつ大きくしてきたんだから、これからもちょっとずつやっていくしかないと思いますよ。

川辺 それ、なんの話? 体重?

澤部 いや、バンドの話(笑)。あー、これがオチになってしまう(笑)。

左から吉田靖直、川辺素、澤部渡。

左から吉田靖直、川辺素、澤部渡。

スカート プロフィール

シンガーソングライター澤部渡によるソロプロジェクト。昭和音楽大学卒業時よりスカート名義での音楽活動を始め、2010年12月に自主制作による1stアルバム「エス・オー・エス」をリリースした。以降もセルフプロデュースによる作品をコンスタントに制作し、2014年12月にはアナログ12inchシングル「シリウス」をカクバリズムより発表。2017年10月にポニーキャニオンよりメジャーデビューアルバム「20/20」、2018年10月に表題曲が映画「高崎グラフィティ。」の主題歌に使用されたメジャー第1弾シングル「遠い春」をリリースする。2020年にはCDデビュー10周年を迎え、3月に両A面シングル「駆ける / 標識の影・鉄塔の影」を発表。澤部はスカートでの活動のほか、ギター、ベース、ドラム、サックス、タンバリンなど多彩な楽器を演奏するマルチプレイヤーとしても活躍しており、yes, mama ok?、川本真琴ほか多数のアーティストのライブでサポートを務める。またトーベヤンソン・ニューヨーク、川本真琴withゴロニャンずには正式メンバーとして所属している。

スカート オフィシャルサイト

ミツメ プロフィール

川辺素(Vo, G)、大竹雅生(G, Syn)、須田洋次郎(Dr)、nakayaan(B)からなる東京発の4人組バンド。2009年に結成され、国内だけでなくインドネシア、中国、台湾、韓国、タイ、アメリカなどでの海外ツアーを行う。オーソドックスなバンド編成ながら、各メンバーが担当のパートにとらわれずに楽曲を制作している。2011年8月に1stアルバム「mitsume」、翌2012年9月に2ndアルバム「eye」を発売。2017年12月にシングル「エスパー」をリリースし話題を集め、2019年4月には「エスパー」を収録した5thアルバム「Ghosts」を発表した。2020年に「睡魔」「ダンス」「ジンクス」「トニック・ラブ」と立て続けに新曲を配信するなど、精力的な活動を続けている。

ミツメ

トリプルファイヤー プロフィール

吉田靖直(Vo)、鳥居真道(G)、山本慶幸(B)、大垣翔(Dr)からなるロックバンド。2006年に早稲田大学の音楽サークルで結成され、2010年に鳥居が加入して現在の編成になる。2012年5月にアルバム「エキサイティングフラッシュ」をリリースし、ソリッドな演奏とシュールな歌詞を組み合わせた今までにない作風で注目を集める。その後、2014年2月に2ndアルバム「スキルアップ」、2015年9月に3rdアルバム「エピタフ」、2017年11月に4thアルバム「FIRE」をリリース。吉田は映画やドラマ、大喜利イベント、テレビ番組へもたびたび出演しており、2017年10月にはテレビ朝日系「タモリ倶楽部」にて全編にわたって吉田が特集された。

トリプルファイヤーweb

※記事初出時、写真のキャプションに一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

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