SNSの普及により、アーティストが自分の言葉でファンにメッセージを送る機会が増えている。新型コロナウイルスの影響による外出自粛要請はその流れを加速させ、さらに
取材・
音楽マーケティングとは
──SNSを活用して商品やサービスの認知およびブランディングを行う「SNSマーケティング」の重要性が企業に浸透してきていますが、音楽業界に置き換えたときにSNSをどう活用すべきかあまり語られていない印象があります。
宮本浩志 そうですね。それは僕もレコード会社にいたときに感じていました。
──なのでまず初めに、音楽業界におけるSNSマーケティング、つまり「音楽マーケティング」を定義したいと思うのですが、どのような説明になるでしょうか?
宮本 マーケティングの世界では「顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達するための活動」みたいな小難しい定義があるんですけど、音楽に関して言えば「ファンや世の中が欲しいものをつくる、届ける、愛される仕組みを作ってファンを増やす」という行為になると思います。プロモーションというと何かを仕掛けることに意識が行きがちですけど、そうじゃなくてアーティストとファンの関係が永続的に自走する仕組み作りのほうがイメージが近いですね。
松島功 宮本さんは「仕組み作り」と表現されていますけど、僕も思っていることは一緒で。今の時代、何百万円かけた広告よりもアーティスト自身の発信力が一番影響力があるんですね。アーティスト本人が「自分の曲を聴いてください」って言うのが一番パワフルで、そのアーティストの熱量を周りのスタッフの人たちが広げていくのが最適解になっていると思います。
宮本 リスナーの広告嫌いみたいなものも背景にありますよね。本人の言葉や楽曲、コンテンツで自然流入してもらうのが仕組み作りで、そういう状況をいかにデザインするかだと思います。
──音楽業界で働いている方たちは、実際どの程度そういうマーケティング的な視点を意識されているんでしょうか?
宮本 僕もキングレコードでずっとアーティストと向き合ってやってきましたけど、みんな必要性を感じているし勉強もしていると思います。ただ、言語化する機会があまりないというか、「言わなくてもわかるよね」という雰囲気はありました。なので若手からするときちんと学ぶ機会はあまりなくて、理解するまでに時間がかかるんじゃないかな。僕もすごく時間がかかったので。それもあって、noteにこれまで自分が勉強してきた音楽マーケティングに関する知識をまとめてみることにしたんです。でも今は、それこそ松島さんもnoteでいろいろ記事を投稿していますし、これまであまりアクセシビリティのなかった情報の民主化が進んでいますよね。それによって新しい発想が生まれて、どんどんチャレンジも起きていると思うんです。ここ1年くらいで状況が変わってきた感じはします。
──松島さんもここ1年ほどの音楽業界の変化は感じていますか?
松島 なんと言っても、ストリーミングサービスで曲を聴いてもらったり、YouTubeで動画を再生してもらったりする方向に完全にシフトしていますよね。わざわざどこかへ足を運ばなくてもクリック1つでできるので、結局デジタルマーケティング、SNSをしっかりやっている人のほうがどうしても自分たちの音楽を聴いてもらう確度が上がるというのはあると思います。
お手本のようなOfficial髭男dism
──では、実際にSNSを上手に使っているアーティストというと誰がいますか?
宮本
松島 ヒゲダンすごいですよね。SNSがキッチリしているし、メンバーで言うと小笹大輔さんはさりげなく曲を聴いてもらえるような投稿をするんですよ。自分の楽器のことに触れつつ、YouTubeの動画に遷移させるような投稿をしていて。意識しているかどうかはわからないですけど、本当に上手だと思います。
宮本 TBSの「CDTVライブ!ライブ!」に出演したあとにバンドのアカウントで「パチパチ」って拍手する絵文字だけのツイートをしていたんです。そのあとに同じように拍手の絵文字のリプライがブワーッと並んでいて、あれほどエンゲージメントが高いのはすごいと思うし、「いいね」も3.4万とか付いてるんですよ。YouTubeでも、ちょうどブレイクし始めた頃に過去の曲を聴ける動画を上げるなど、全体的にとても考えられていて。やっぱり売れるアーティストには理由がきっちりありますね。
松島 デジタルプロモーションを大事にしているかどうかは、そのアーティストのYouTubeチャンネルとTwitterを見たらわかりますからね。
──具体的に教えていただけますか?
松島 もちろんGoogleでアーティストを検索することもありますけど、今はYouTubeで検索する人がとても多くて、最初の入り口になっているんですね。ヒゲダンのYouTubeはちゃんと全部わかりやすくなっています。これまでの曲のMVやライブ映像などセクションごとにまとまっていて、コミュニティ投稿や概要欄もきっちりしている。それぞれの動画ごとのコメント欄の説明もしっかり書いてあるんですよ。各ストリーミングサービスへの導線があって、フィジカルに飛ぶリンクもあって、各SNSのURLも載せてある。すごくよくできていますね。
宮本 基本的なことなんですけど、それをやらなきゃいけなくて。数字がどんどん変わってくるんですよ、本当に。
松島 ヒゲダンはTwitterとInstagramのフォロワーの合計よりYouTubeのチャンネル登録者数のほうが多かったはず。(調べて)Twitterが37.5万人、Instagramが47.2万人、YouTubeが211万人(※数字は取材時点)。
──本当ですね。
松島 SNSのプラットフォームとしてYouTubeが最強になっているんです。もちろんエンゲージメント率は別ですけど。
宮本 松島さん、ワンオクが4月から6月にかけてYouTubeでライブ映像を公開してチャンネル登録者数を30万人増やしたっていう記事を書かれてましたよね(参考:ONE OK ROCK、コロナ禍に30万人YouTubeチャンネル登録者数増加 コンテンツを通して作り出した“ファンとの繋がり)。
今は細かい設計が大切
──その記事で言及されていましたが、やはり映像を一度に投稿するのではなくて、こまめに出すことが大事ですか?
松島 絶対にそうですね。
宮本 これまでの音楽プロモーションがそうだったんですけど、山を作っちゃうとそれを過ぎたら一気に下るんですよ。今は、新曲のプロモーションで考えると発売日に向けて告知日から積み上げていくという考えは同じなんですけど、発売日以降にピークから下落する角度をいかに緩やかにしていくかが大事なんですよね。さらに言うと、ストリーミングで長く聴かれる時代なので、リリース後に新規リスナーを獲得して上向きにすることも可能なんです。細かい設計が大事になってきたというのは大きな変化だと思います。
──ストリーミングは時間軸を超えやすい、つまり過去の作品も聴かれやすいのが特徴だという話もありますよね。
松島 今レコード会社さんはストリーミングで儲けなきゃいけないという問題に直面していて、過去のカタログをいかに聴いてもらうかが重要なミッションになっています。逆に言うと、過去カタログってすでにあるものでお金を生み出せるので宝の山なんです。どのアーティストさんもプレイリストを作ったりキャンペーンをやったりしてがんばっていると思います。例えば
──確かにストリーミングサービスで1曲だけ聴いて止めることって少ないですね。
松島 ですよね。それって新曲のタイミングで過去の曲を聴いてるということなので、すごく可能性のある話ですよね。
“告知”ではなく“メッセージ”を
Official髭男dismのほかの記事
リンク
fax-kun @okadapaisenn
松島功&宮本浩志が教える、デジタルプロモーションで押さえておくべきポイント | 令和のアーティストとSNS 第1回 https://t.co/qkslITg0lC