西寺郷太が日本のポピュラーミュージックの名曲を毎回1曲選び、アーティスト目線でソングライティングやアレンジについて解説するこの連載。
第9回では
文
ヒット曲を連発する先輩、大旋風を巻き起こす後輩
2020年の今、嵐が日本を代表するアイドルグループであることを否定する人はいないでしょう。ただ、嵐が彼ら自身の物語を振り返る際、デビューしてしばらくの間、順風満帆というわけではなかったことが必ず語られます。その理由は明白で、“嵐の時代”は、ジャニーズ事務所に所属するデビュー組の数がそれまで前例のないレベルで、嵐より上の世代も下の世代も百花繚乱、充実していたからではないでしょうか。
これはジャニーズに限らない世界的な話ですが、それまでのいわゆる複数の少年たちが組んだアイドルグループ、ボーイバンドのスタイルで一世を風靡したユニットは20代前半までを人気の頂点とし、ファンが年齢を重ねると共に解散の道を選ぶのが普通でした。もちろんテレビから本格的ミュージカルに活躍の軸足を移した
それだけでなく、「8時だJ」で人気を博し、「ジャニーズJr.黄金期」などとも呼ばれた嵐と同世代の仲間たちや後輩の台頭も続きました。
ノーナのラジオで猛プッシュ
1999年11月にリリースされた嵐のデビューシングル「A・RA・SHI」が発売当初からとにかく好きで。当時、僕のバンド、NONA REEVESが文化放送でMCを担当していたラジオ番組「LIPS PARTY 21.jp」で猛プッシュしてかけまくっていたことを思い出します。まだ、ミュージシャンがジャニーズソングを好きだと公言するのが珍しい時代でした。僕はもともとジャニーズのグループのデビュー曲を研究するのが大好きなんですが、それまでの先輩グループのデビュー曲とはまったく違う「A・RA・SHI」の曲調に衝撃を受けたんです。いくつかの曲を切り貼りしてコラージュしたような複雑な作りが面白くて、舞台のために作るメドレーの発想に近いというか。僕がそのとき何度もアピールしたのは「この曲は
3つ以上のテンポが混在するトリッキーさ
デビュー曲「A・RA・SHI」には、異なる3つのテンポが混在しています。僕の感覚で言えば、世の中で愛されている98%くらいの楽曲はイントロからエンディングまでのテンポは一定。あるとしても最初はバラードで、元気になってテンポアップしてスタートというアレンジが多いんです。
大野智をマネしなさい
「A・RA・SHI」で何よりも特徴的だったのは、やはりこの楽曲のエンディングと2度の転調大サビ(「Step by step~」)で展開される大野さんのソロパートでした。「こんなに歌のうまい人はいない」というのが大野さんに対する最初の印象で……。僕がそれまで特に好きだったジャニーズのシンガーは
僕はNetflixで配信されている嵐のドキュメンタリー「ARASHI's Diary-Voyage-」を毎回観ているんですが、その中で印象的だったのが、櫻井翔さんが合宿所時代のレッスンで「彼(大野)の後ろで踊ってマネしなさい」と言われたエピソード。カルガモが最初に見た動くものを親と認識する習性と一緒で、ほかの4人の基準は大野さんなんじゃないかな、と改めて思ったんですよね。だからこそ「彼のマネをしなさい」とアドバイスされた。その話を改めて櫻井さんが話されたことからも、「歌と踊りは大野智を信じよう」というのがメンバー間での総意だったんじゃないかなと。僕は、嵐が国民的なボーカルグループになった理由は、魅力的な4人が少なくとも音楽面に関しては大野さんを軸に置き、年長でもある彼をリスペクトし、いい意味でマネをしながら成長したということに尽きるんじゃないかと思ってるんです。
最初のシングルで摩訶不思議コラージュポップ、急激なテンポチェンジを経てバラードで終わる構成は、その後のNEWSのデビュー曲「NEWSニッポン」も同じ。ジャニー社長も「このパターンはいける!」と思われたんでしょうか。錦織一清さんの話によると、事務所の伝統的に「2番のAメロ、Bメロ」が戻ってくる展開は嫌われて「同じパートがもう1回くるのはなんで? パッパッと切ってつなげちゃおう」みたいなことを舞台演出の際によく言われた、と。その意味で「A・RA・SHI」のようにラップありバラードあり、聴いていて飽きさせないジェットコースターのような作りは、独特の感覚だと思います。ちなみに作詞を手がけているJ&Tはシンガーソングライターの菊池常利さん、Sexy Zoneの
嵐の曲が愛される理由
今にして思うと「なぜ嵐5人のボーカルがこれほどまでに愛され続けるのか」という謎に対する答えは、先ほど指摘した「大野智を中心にした圧倒的ユニゾンのふくよかさ、彼ら全員の信頼関係」に尽きるのではないかと思います。メンバーが互いの才能を信じている、同じ方向を向いている。特にすごい魅力を持つパーソナリティが集まり栄華を極めたグループであればあるほど難しい“協力”を彼らはここまで続けられた。もちろん、近年の「Reborn」シリーズでのトライは現状のシーンに対応したまったく別のベクトルなので、それについてはまた次回に触れたいですが。
僕は2001年に少年隊の舞台「MUSICAL PLAYZONE 2001 “新世紀" EMOTION」のテーマ曲「プリマヴェラ~灼熱の女神~」を作詞させてもらったんですけど、そのステージに若者役としてトリプルキャストで
西寺郷太(ニシデラゴウタ)
1973年生まれ、NONA REEVESのボーカリストとして活躍する一方、他アーティストのプロデュースや楽曲提供も多数行っている。7月22日には2ndソロアルバム「Funkvision」をリリースする。文筆家としても活躍し、著書は「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「伝わるノートマジック」「始めるノートメソッド」など。近年では1980年代音楽の伝承者としてテレビやラジオ番組などさまざまなメディアに出演している。
しまおまほ
1978年東京生まれの作家、イラストレーター。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ「女子高生ゴリコ」で作家デビューを果たす。以降「タビリオン」「ぼんやり小町」「
※記事初出時より、一部変更を表現しました。
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西寺郷太 @Gota_NonaReeves
7月9日。偉大なるジャニー喜多川さんに敬意を込めて書かせて頂きました。 / 嵐「A・RA・SHI」 | 西寺郷太のPOP FOCUS 第9回 https://t.co/gZrn48ipYq