エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第16回 [バックナンバー]
Cornelius、くるり、スピッツ、indigo la End、sumikaらを手がける高山徹の仕事術(後編)
面倒臭いことを、せっせとやるしかない
2020年5月19日 17:00 41
誰よりもアーティストの近くで音と向き合い、アーティストの表現したいことを理解し、それを実現しているサウンドエンジニア。そんな音のプロフェッショナルに同業者の中村公輔が話を聞くこの連載。高山徹の前編ではフリッパーズ・ギター、Cornelius、METAFIVE、
取材・
くるりのレコーディングでオフマイクの重要性を意識
──くるりは作品によってどんどん作風が変わっていきますが、間近に一緒に仕事をして岸田さんはどういう方ですか?
あの人はド変態ですね(笑)。
──ははは(笑)。具体的に教えてください。
いやー言えないなあ(笑)。でも、「ばらの花」(2001年1月リリース)のときはものすごくグルーヴを追求していて、「岸田くんはどこのポイントを求めているんだろう?」というのを全員で悩んでる時期でしたね。淡々と同じことを繰り返しながらもエモい感じにしたかったみたいで。最初みんなで「せーの」でドラムも一緒に録ったんですけど、「より機械的な、よりスクエアなグルーヴを出したい」という話になって、Pro ToolsのBeat Detective(※1音ごとに切り刻んで、正確なタイミングに合わせる機能)で1回全部バチッとそろえたんですよ。完全にスクエアになるように。でも、それもちょっと違うっていう話になって。それで、岸田くんのギターのグルーヴがいい場所を見つけてループさせて、それに合わせてドラムとかベースとかを全部1拍1拍マニュアルで調整して。丸1日編集して機械的な要素とも人力の要素ともいかないような不思議な感じを作ったんです。僕が組んだものを聴いてもらったときに、岸田くんのジャッジの精度がものすごく細かくて、「すごいところまで聴いてるんだな、この人」って思いました……っていう変態の話だったら許されますかね(笑)。
──問題ないと思います(笑)。グルーヴ以外のこだわりもすごそうですよね。
和声の積み方がやっぱり変態で。普通の積み方にプラスしてどこか必ず濁すんですよ。「え、ここで入れるの?」っていうのをあえてやる。彼は音楽理論をちゃんと勉強したうえでやっていて、それが聴いたことない感じのサウンドを生んでますね。録ってるときは「外れてるな」って思うんだけど、「かすかに混ぜて」って言われてやってみると、「こうなるんだ」ってあとでわかるんですよ。
──sumikaの「エンドロール」(2020年3月リリースの「Harmonize e.p」に収録)を聴いて、距離感が近い音色なのに全体がなじんでる感じがして。リバーブで合わせてるわけでも歪みで合わせてるわけでもないのに、各楽器が違和感ない聞こえ方をしているなと。どのようにすれば、こういう音が作れるんでしょうか?
基本的にすべての楽器のオンマイクとオフマイクを毎回録っていて、ミックスでその混ぜ具合を考えます。それで足りなかったものに対してリバーブを乗せる感じで。あえて遠くにしたいときはやっぱりオフマイク多めにして、オンマイクを下げたりとか。くるりの「アンテナ」(2004年3月リリース)のときに、一切デジタルを使わないで録るという縛りでやったことがあったんですよ。そうするとリバーブを使いたくても使えないので、そこでオフマイクの重要さを意識するようになりました。オフマイクは無指向性で、部屋全体を録る感じにしていますね。リボンマイクでギターを録っていいなと思うのは、実は反対側の音をけっこう拾ってるからなんじゃないかなって。でも、リボンマイクだと混ざり具合を調整できないので、無指向のオフマイクと、SHURE SM57とか指向性のあるやつとで録って、後からコントロールするやり方にしてます。
デジタルの進化で無理なく聴かせられるようになった
──indigo la Endの「チューリップ」(2020年2月リリース)は普通にバンドっぽい構成で、言うなればロック的というか、The Beatles要素のある曲ですよね。それなのに音像的にはCorneliusっぽさを感じたんですが。
特に意識はしてなかったですね。アバコという大きなスタジオでレコーディングしたんですけど、あえて大きいところを使わずに、ブースの中に入ってもらって録りました。音像としてドラムはペタペタにミュートして極端に残響がない音にして、空いた空間にギターを乗せたので、Corneliusと近い形になっているのかもしれないですね。
──なるほど。特にエディットやミックスであの方向に持って行ったわけではなく?
そうですね。ギターはちょっとエディットしてますけど、ドラムとかベーシックはそんなに。Indigoはすごい上手な皆さんなので機械でグルーヴを作る形ではなく、演奏者のグルーヴです。
──そういうタイトな感じの音像とは真逆で、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「リライト」(2016年11月リリースの「ソルファ」再レコーディング盤収録)は、また全然別な方向の音作りになってますね。ギターがすごいローまで出ていて、空間を録ってる感じの音作りになっていて。そのあたりは全然違う意識で録音してるんでしょうか?
アジカンのギターの音に関しては、録りのエンジニアの中村研一さんとギターテックさん(※ギターやアンプ周りの機材をそろえたり、調整したりする職人)のこだわりですね。SM57とかAudio-Technicaとか何種類かのマイクを、位相がずれないようにピッチリ同じ距離に置いて録って。僕はミックスだけだったので、それほど加工してるわけではないです。ただオリジナルの「リライト」を録ったメンバーでもう1回録り直すという企画だったので、よりどっしりした大人な感じにしようという意識はあったかもしれないです。
──その大人な感じというのは、具体的にどういう作業の違いがありましたか?
テクニカルなところで言うと、やっぱりデジタルの進化ですよね。昔はエフェクターの細かい設定ができなかったですから。それこそFAIRCHILDのでかいツマミが3つしかなかったのが、今はものすごく細かい設定ができるようになってきてるので。Oasisのようにギターをいっぱい重ねてドラムもある曲だと、かなり無理してパコンパコンに潰して聴かせる手法しか当時はなかったんですが、今はパラレルコンプ(※未処理の音にコンプレッサーで潰した音を混ぜて、自然な雰囲気のまま潰した雰囲気も出す手法)を作ったり、ローカットしてキーイン(※オーディオ信号をエフェクト動作のトリガーにする手法)させたり簡単にできるので、たくさん重ねても無理なく聴かせられるのが大きな違いですね。
スピッツは録音前から相当作り込んでいる
江口亮 @RYO_EGC
https://t.co/OdzOClBhhc