1995年1月19日に撮影されたJR新長田駅前の様子。(写真提供:神戸市)

時代を映し出すプロテストソングの変遷 第2回 [バックナンバー]

チェルノブイリ原発事故や阪神・淡路大震災が与えた影響

パンク、ロックに続き登場したヒップホップ

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「プロテストソング」と言えば、あなたはどんな曲を思い浮かべるだろうか。反戦、政治批判、差別問題、反原発、いじめ、貧困……あらゆる政治的抗議のメッセージを含む歌がプロテストソングと呼ばれるものだ。

新型コロナウイルスのパンデミックにより世界中が外出自粛を余儀なくされる状況の中、杏による加川良の「教訓I」の弾き語りカバーが話題を集めたり、安倍晋三首相が星野源が発表した「うちで踊ろう」と共に優雅に自宅で過ごす姿を公開したことで「音楽の政治利用である」という批判が多く寄せられたりと、改めて“音楽と政治”が注目される今。時代と共に歌われるメッセージも音楽性も異なるプロテストソングは、日本においてどんなきっかけ生まれ、広がってきたのか。小野島大によるこの連載では、フォークソング、ポップス、ロック、ヒップホップなどさまざまなジャンルにおけるプロテストソングの歴史を、時事問題を交えながら計3回にわたって紹介している。第2回では1980年代から90年代にかけてのプロテストソングをフィーチャーする。

なお記事の最後には、小野島大が制作したSpotifyプレイリスト「プロテストソングの歴史」も公開する。

/ 小野島大 ヘッダ写真提供 / 神戸市

アナーキーやTHE STALINが80年代に踏み込んだタブー

フォークからニューミュージックへと時代のトレンドが変わり、1970年代以降の日本のポップミュージックからは抗議や抵抗、つまりはカウンターカルチャーとしての匂いは消えていく。そんな中、唐突に現れたのが旧来のロックへの牙を剥き出しにしたパンクロックのムーブメントだった。The Clashの「White Riot(邦題:白い暴動)」(77年発表)をはじめ海外ではプロテストソングの名曲を数多く生んだパンクロックだが、日本においてはさほどでもなかった。頭脳警察のような存在を例外として、グループサウンズ以降の日本のロックは不良の音楽としての“反抗”はあっても、政治性や思想性をはらんだプロテストとは無縁だったのである。

その中で、まず挙げられるプロテストソングは、アナーキーの「東京イズバーニング」(80年発表)とTHE STALINの「サル」(81年発表)。どちらも日本最大のタブーである天皇制に切り込んだ曲だが、天皇(この場合は昭和天皇)の戦争責任などには深入りしていない。後者は遠藤ミチロウの屈折した政治性がよく表れているが直接的なプロテストではない。また環境問題について言及したリザードの「SA・KA・NA」(80年発表)、かなりブラックなユーモアで戦争の恐怖とマスコミの理不尽を批判したスネークマンショーの「愛の戦場」(81年発表)もある。底辺の者の立場から階級格差を歌ったJAGATARAの「もうがまんできない」(87年発表)やその盟友だったTHE FOOLSのド直球の反戦歌「戦争反対」(91年発表)も聴き逃せない。一方メジャーフィールドでは、男性優位社会への抗議とフェミニズムへの共感を込めた中島みゆきの「ファイト!」(83年発表)という名曲も生まれたが、それは政治的無関心が支配していた当時において数少ない例外だったと言えるだろう。

チェルノブイリ原発事故後にTHE BLUE HEARTSやRCサクセションが生み出した反原発ソング

そんなある意味でぬるま湯的な状況だった日本のポップミュージックに大きな衝撃を与えたのが、86年に起きたチェルノブイリ原発事故である。世界で唯一の被爆国でありながら、有数の原発大国である日本に住む我々も、明日にも起こりうるメルトダウンの恐怖に直面した。それ以前の84年から「音楽を通じて反核・脱原発を訴えていく」をテーマにした「アトミック・カフェ・フェスティバル」が開催され、尾崎豊、BOOWY、THE BLUE HEARTSなどが出演していたが、チェルノブイリ事故によってより危機感を強めたロックミュージシャンたちが一斉に反原発ソングを発表し始めたのだ。

チェルノブイリ原子力発電所事故の現場となったチェルノブイリ原子力発電所4号炉周辺写真。(写真提供:Getty Images)

チェルノブイリ原子力発電所事故の現場となったチェルノブイリ原子力発電所4号炉周辺写真。(写真提供:Getty Images)



作者の真島昌利らしい気取りのない率直な口調で、原発の“いやな感じ”を歌うTHE BLUE HEARTSの「チェルノブイリ」(88年発表)、忌野清志郎らしく簡潔で強い、どこかユーモアを含んだRCサクセションの「サマータイム・ブルース」「ラヴ・ミー・テンダー」(88年発表)、いつもは文学的で比喩的な表現が多い佐野元春にしては珍しく直接的なメッセージを発した「警告どおり 計画どおり」(88年発表)、そして日本のダンスホールレゲエの第一人者ランキン・タクシーの「誰にも見えない、匂いもない」(89年発表)といった反原発ソングの数々が、この時期次々と登場した。


しかしにわかに盛り上がったこのムーブメントは、たちまち社会の壁にぶち当たった。THE BLUE HEARTSの曲は所属レーベルのメルダックからリリースできず、彼らの所属事務所が設立したインディレーベルから発表された。メルダックの親会社が原発企業の三菱電機だったため、発売許可が下りなかったとのちに元所属事務所の社長が明らかにしている。そしてその直前にはRCの「サマータイム・ブルース」「ラヴ・ミー・テンダー」などを収録したカバーアルバム「COVERS」が「素晴らしすぎて発売できません」という新聞広告と共に突然発売中止になる騒ぎとなった。発売元だった東芝EMIの親会社がやはり原発企業の東芝で、発売許可が下りなかったのである(東芝は連載第1回記事の通り、ザ・フォーク・クルセダーズの「イムジン河」を同様に発売中止にした前科がある)。原発事故という出来事をきっかけに、新たなタブーが可視化してアーティストの目の前に立ちはだかったのだ。

忌野清志郎の気骨とTHE TIMERS結成

しかし、忌野清志郎の反骨精神はこれで収まらない。「COVERS」発表と同年の88年に覆面バンド、THE TIMERSを結成。全編ほとんどプロテストソングからなるアルバム「THE TIMERS」を89年に発表する。さらに盟友THE TEARDROPSに提供した楽曲「谷間のうた -素敵な泉-」が某FM局で放送禁止となったことに抗議し、テレビの生番組で放送禁止用語を連発するなど大暴れ。その後も日本を代表するレベルロッカーとして、ユーモアを交えた大らかな批判精神が失われることはなかった。なおRCの「COVERS」は、のちに古巣のキティレコードから発売されている。



一方THE BLUE HEARTSは、「チェルノブイリ」以降、直接的なプロテストソングや社会性を帯びた歌を歌うことはなくなった。だが、その後甲本ヒロトと真島昌利が結成したザ・クロマニヨンズは“戦争を待ち望む人々”を揶揄するような「むしむし軍歌」(2007年発表)で、その批判精神が健在であることを示した。またランキン・タクシーの「誰にも見えない、匂いもない」は、2011年の福島原発事故以降の反原発運動の中で再評価され、歌詞を書き加えて再録音されるなど今もプロテストソングとしてのアクチュアリティを失っていない。


80年代には日本でもヒップホップカルチャーが生まれたが、その時代の代表的なプロテストソング(今ではコンシャスラップあるいはポリティカルラップと言われる)は、近田春夫率いるPresident BPMの「Hoo!Ei!Ho!」(86年発表)だろう。84年に改定された風営法によるクラブへの警察の取り締まりが顕在化し始めた時期に作られた曲で「Hoo!Ei!Ho!は今世紀 最後の 禁酒法ってことさ」「ドアだけしめときゃ バレないさ バレないさ」というフレーズがキャッチーなパーティラップだ。風営法の規制とクラブの対峙はその後もアクティブな問題であり続けているが、コロナ危機でダンスクラブの存続が危機に瀕している今、この曲の意味も大きく変わってくるかもしれない。この2年前の85年にはThe Hardcore Boysの「俺ら東京さ行ぐだ(ほうら いわんこっちゃねえ MIX)」が出ている。現代社会および文明批判を、戦争経験者である“じっちゃん”と東京に行きたがる若者の対比でコミカルに描いている。ラップはそもそもその特性上、プロテストに向いている、ということが言えるかもしれない。

1990年代を代表する「満月の夕」「傷痍軍人の唄」

90年代に入ると、空前のバンドブームに沸く音楽シーンとは裏腹に、再びプロテストソングは沈静化していく。その中で重要なのはソウル・フラワー・ユニオンの「満月の夕」(95年発表)と、朴保の「傷痍軍人の唄」(95年発表)だろう。

95年に起きた阪神・淡路大震災の直後から被災地を回り演奏する慰問活動をしていたソウル・フラワー・ユニオン(ソウル・フラワー・モノノケ・サミット)が、被災地の情景やそこに住む人々の思いを歌った名曲「満月の夕」。この曲自体は強いプロテストを含む内容ではないが、「人災としての阪神・淡路大震災」と規定するなど社会派ロックバンドと言われ、反原発、反レイシズムなど政治的・社会的発言や運動への参加を厭わず、東ティモール、パレスチナ、辺野古などの現場で歌い、ロック、ソウルやファンクのほかに世界中の民俗音楽や民謡、大衆歌謡などをミクスチャーした独自の音楽性を追求してきたソウル・フラワー・ユニオンの集大成とも言える作品で、彼ら自身も含むさまざまなアーティストが歌い継ぐスタンダードとして定着している。バンドはその後もチリのシンガーソングライターのビクトル・ハラの反戦歌「平和に生きる権利」を日本語でカバーしたり、2004年にはオリジナルの反戦歌「極東戦線異状なし!?」を発表したり、2013年には理不尽な状況を前に受動的ではなく主体性を取り戻せと歌う「踊れ!踊らされる前に」を発表するなど、精力的に活動を続けている。



また在日韓国人二世のシンガーソングライター朴保&切狂言が歌う「傷痍軍人の歌」も90年代の日本を代表するプロテストソングと言えるだろう。「傷痍軍人 従軍慰安婦 松代大本営 誰のために死んだのか 戦争は本当に終わったのか」という問いかけで、戦争という国家犯罪を容赦なく弾劾していく朴保の叫びはあまりに衝撃的だ。さらに90年代以降を代表するグループMr.Childrenは「everybody goes~秩序のない現代にドロップキック~」(94年発表)、「マシンガンをぶっ放せ」(96年発表)といった、病んだ現代社会へのシニカルな風刺的視点の強い楽曲をヒットさせている。

ラップシーンおいてプロテストソングを歌い続けたECD

一方、ラップシーンではECDのデビューが90年代の大きな出来事だった。デビューシングル「PICO CURIE」(90年発表)は反原発ソングだし、93年には反レイシズムの主張を込めた「レイシスト」をリリース。97年には援助交際をテーマにした「ECDのロンリーガール feat. K-DUB SHINE」をリリースしている。そして2000年代以降は反原発、反戦、反安保法制、反秘密保護法、反グローバリズム、反レイシズムなどさまざまな社会運動にコミットするようになり、サウンドデモや首相官邸前抗議にも積極的に参加するなど、一連のアクションは「行動するラッパー」としての面目躍如だった。「反戦! 反弾圧! 反石原! 言うこと聞くよな奴らじゃないぞ!」と歌う「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」(2003年発表)をはじめ、「東京を戦場に」(2004年発表)や「職質やめて!」(2009年発表)、「Recording Report 反原発REMIX」(2011年発表)、「The Bridge 反レイシズムRemix ECDILLREME」(2013年発表)など、その鋭いメッセージだけでなく、ドープでヒプノティックなサウンド面でも注目された。「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」は3.11以降「言うこと聞かせる番だ俺たちが」と主体的に変化および進化し、さまざまなデモのシュプレヒコールとして連呼されるようになった。



現在のラップシーンに直結するという意味でキングギドラ(現KGDR)のデビューも見逃せないだろう。デビューアルバム「空からの力」(95年発表)は後進に大きな影響を与えた名作だが、収録曲の「星の死阻止」は環境破壊問題に言及した曲だし、翌96年には反戦・反核を歌った「地獄絵図」もリリースしている。またMICROPHONE PAGERの「病む街」(95年発表)も重要だろう。阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件をモチーフに、荒廃した街の風景を描写し、「お偉方の頭はいつもいる(=イル)」「過去繰り返すね 同じ(=ネオナチ)」と政治批判と右傾化批判を唱え、「数多くの死者に手を合わせては 生き抜こう地球丸いうちは」と歌った。

近日公開の第3回では、「アメリカ同時多発テロ事件から東日本大震災、そしてこれから」をテーマに2000年代から現在にかけてのプロテストソングについて記す。
<つづく>

※「BOOWY」の2つ目の「O」はストローク記号付きが正式表記。

※記事初出時、リード文に一部誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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小野島大

音楽評論家。9年間のサラリーマン生活、音楽ミニコミ編集を経てフリーに。「MUSIC MAGAZINE」「ROCKIN'ON」「週刊SPA」などのほか、新聞やWebなどさまざまな媒体で執筆活動を行っている。著作も多数。

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