Spikey John

映像で音楽を奏でる人々 第15回 [バックナンバー]

あれこれ決めずにノリで撮りたいSpikey John

舐達麻、Mall Boyz、JP THE WAVYら気鋭のラッパーたちのリアルを映し出す若手映像作家

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柔軟さや即興力が武器

撮り始めの頃は企画書も作らず、何も考えずにストリートで撮影して、途中で「今回どういうビデオになるんですか?」って聞かれたら、その場で考えて適当に説明するみたいなことをずっとしてたんですよね。企画書を書くようになったのは、日高くん(SKY-HI)と出会ってからかな。打ち合わせで企画書を求められたので、文字が3行しか書いてないようなものをエクセルで作って出したんですよ。普通だったら怒るところを「いいじゃん、お前」って可愛がってくれて。まあ日高くんだから許されたんですよね。それからは企画書も作るようにしてるんですけど、今思えば何も考えずに撮っていた頃の経験で、現場のノリを生かすための柔軟さや即興力が磨かれたんじゃないかなと思います。

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秋葉原で撮影したkZmの「Wolves feat. 5lack(Prod. Chaki Zulu)」も即興を生かした作品です。せっかく秋葉原なのでオタクの人に出てもらいたかったんですけど、ツテもないので、たまたま見かけたおそろいのバッグを持った3人組に声をかけたり、撮影の帰りに見かけた派手なデコレーション車にも出てもらったりしたんですよ。このMVはチャキ(Chaki Zulu)さんの提案で秋葉原で撮ることになりました。もともと渋谷で撮ろうと思ってたんですけど「5lackがアニメのキャラの前にいるのとか絶対面白いじゃん。逆のことやろうぜ」って。これに限らずチャキさんはいろいろ提案してくれることが多くて、けっこう影響を受けたかもしれないです。

Awichさんの「NEBUTA feat. kZm(Prod. Sam Tiba)」は事前にいろいろ考えてたんですけど、ロケ地が青森ということもあって、全然思い通りにいかなかったんですよね。10時間かけて青森に着いたら、ロケハンしようと思ってた場所まで3時間かかることがわかって。結局フリースタイルで全部やっちゃって当初の予定とはまったく違うものになったんですけど、前日に青森でライブをしていたAwichさんが声をかけてくれた現地の人たちが出演したり、協力してくれたこともあって、いい作品になりました。

頭に浮かんだことを共有したい

最初の頃は大学の友達を連れて撮ってたんですけど、今はSeiya(Uehara)とか、りるはにとか、LIL SPOOKY BOYS とか、合計7人くらいのチームでやってます。カメラマンのSeiyaは、レンくんと会う前に1年くらいつるんでいたラッパーのAmaterasから紹介されて。その後、半年くらいSeiyaが俺の家に住んでいたので、同棲して一緒に編集したり、写真を撮ったり、カメラ店に行ったりみたいな生活をしてました。りるはにはマネジメントとかをやってくれてる子で、もともとモデルだから演者もできるんですよ。映像がちょっと寂しいなと思ったら出てもらったり、モブを集めてもらったりもしてます。LIL SPOOKY BOYSはエフェクトを任せている大学の後輩です。技術は俺より全然あるんですけど、学生だからやりすぎちゃう部分があるので、教えながら仕事を振ってます。

自分に課題があるとしたら、頭の中で思い描いたことをチームにちゃんと伝えることですね。俺だけしかわかってないようなことがけっこうあって。Answer to Remember「RUN feat. KID FRESINO」のMVは、曲を聴いてあの通りの映像が頭の中に浮かんだんですけど、企画書に落とし込めないし、うまく説明ができなかったんです。でもSeiyaだけは「わかるわかる!」って言ってくれて。彼に撮ってきてもらった素材を編集して作っていきました。このビデオはうまくできたなと思うんですけど、もうちょっとしっかりイメージを共有できるようにしていきたいと思っています。


最近MVを撮らせてもらったシンガーの藤井風は、「RUN」のMVを観て声をかけてくれたらしいです。俺の1個下で同じ岡山出身なんですけど「やばいがな」みたいな岡山弁で褒めてくれて。最初の打ち合わせでは俺の企画を「あー、違う!」って否定するし、ちょっと戸惑ったんですけどね。でも打ち合わせを進めていくうちに彼の人としてのヤバさ、素晴らしさがわかってきて。彼の考え方や歌詞のイメージをしっかり聞いて企画を作り直しました。

このMVは後半で電車が走ってくるのと同時に朝日が顔を出すシーンがあって。現場でイメージを伝えたら、みんな「どう撮るんだよ」って困ってたんですけど、10回以上撮り直して奇跡的なタイミングが切り取れたなと思います。あと彼が着ているジャケットは、現場で決まったんですよね。もともと違う衣装が用意されてたのに、打ち合わせで俺が着ていたジャケットを見て彼とマネージャーが「これだよ!」って盛り上がって。藤井風も俺と同じで目の前で起きたことを拾いたいタイプだと思いました。最初はうるさいアーティストだなと思ったんですけど、もう今は普通に彼のファンですね。イケメンだし。

振り返ってみると、将来のことをじっくり考えたことって今までなかったですね。親に言われてちょっと焦ったりもしたけど、MVの撮影を始めて流れができたら、あとは目の前のことやるのに必死すぎて何も考える余裕もなく……気付いたら数年経ってた感じです。まあ無駄なことはしなかったなと思います。

ただ俺は別に映像作家を目指して生きてきたわけでもないんですよね。今はたまたま映像が自分を表現する手段になってるけど、音楽でもいいし。今の俺から映像を取ったら普通の人間なんですけど、人間としての価値をもっと高めて、肩書きにとらわれずに仕事をしていきたいと思ってます。

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Spikey Johnが影響を受けた映像作品

パラサイト 半地下の家族

俺はほとんど映画を観ないんですけど、たまたま観て衝撃を受けました。無駄なカットが全然ないなと思って。もっとすごい映画を知らないだけかもしれないんですけど、映画に興味が湧きました。

ナルコス

この作品の影響で「麻薬王になりたい」って言ってた時期があります。子供が仮面ライダーに憧れるノリで。「麻薬で稼いだ金で機材買おう」とか言ってましたね。

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