自分の変化を楽しんでるような感じもある
ハロプロは単に曲がいいとか歌がいいとかだけじゃなくて、やっぱりそこにドラマがあるんだよね。もともとモーニング娘。というグループは「ASAYAN」という番組から生まれた。「ASAYAN」は、オーディション番組であり、かつドキュメンタリー番組だったわけじゃない?
──ドラマがありましたもんね。
ちなみに、YouTubeでついつい何度も観ちゃうのが、メンバー加入時の動画なんだけど、あれってサプライズが多いでしょ? 本人は何も知らされず、いきなりメンバーになることが発表される。それでメンバーに決まった子が驚きと喜びで思わず泣き崩れたり。ああいうのを観ると普通に感動しちゃうんだよね。アイドルグループがある一定の時間存在してると、その中にいろんなドラマがある。本当にあった大小さまざまな出来事がドキュメント的にYouTubeに上がっていることによって、時間的には錯綜してるんだけど、俺みたいなアイドル初心者でも、関連動画をたどってるだけで一連の物語を知ることができる。その物語には、大人の事情だってもちろん絡んでるんだろうけど、大人の事情でさえアイドル本人たちにとって自分の人生の問題であるわけで、現実に生きている人の現実の出来事の集積であると同時に、やっぱり1つの物語でもあるというか。俺の感覚だと、それって演劇を観ることにも似ている。
──なるほど。
ある種のフィクションって、作りものだから面白いわけじゃなくて、作りものなのに現実と不可分に絡まってるから、こちらの心にグッと迫ってくるんだよね。で、気付けばハロプロ全体にハマっていたと。それぞれのグループがどういう状況にあるとか、気になるメンバーの動向とか、連日チェックするようになって(笑)。気付いたら同じ動画を何回も観てるんだよね。
──繰り返し観てますか(笑)。本当にすごい。
同じ動画を何度も再生すると、どんどん認識が深まっていく(笑)。俺はなんであれ、興味を持ったことは集中して自己学習するタイプなんだけど、仕事の合間とか朝起きてすぐとか、うっかりすると2時間ぐらいYouTubeを観ちゃう感じになってる。去年くらいから少し仕事を減らそうと思い立って、実際に意識して量を減らしていたのに、空いた時間はずっとアイドルの動画をチェックしてるっていう(笑)。
──結果的に時間がなくなっている(笑)。
自分でもどうしてこんなになってるのかわからないんだけど、そんな自分の変化を楽しんでるような感じもある。だからこのインタビューもすごく楽しみにしていて、最近の中ではもっとも心待ちにしていたんだよね(笑)。
メンバー加入動画は、ある種の実験の記録
──当時の「SWITCH」での
そうですね。
──それが20年経った今、スタンダードになってるという。
僕はテレビを観るのを完全にやめちゃったんだけど、その代わりにYouTubeがあったというか。「ASAYAN」みたいな番組をやってるわけじゃないんだけど、それみたいなものって膨大にYouTubeにある。時間も空間もごちゃごちゃになった状態でクラウドに上がってる動画を偶然性とAIの導きによってたどっていって、かつてのオーディション番組みたいなものを自分の脳内で勝手に編集してるような感覚というか。かつてと全然違うのは、そこだよね。前はあくまでも楽曲、そしてそれがどれくらいリアライズできてるかっていう、歌唱のクオリティとか、そういう部分はやっぱり音楽の人だから気にはなるし、まあ多少下手でもいいんだけど、音楽をなおざりにしてる感じがすると自分には関係ないなという気持ちになっていた。でも、自分に関係なくはないアイドルが、こんなにたくさんいるんだということにようやく気付いた。
──大きな気付きがあったわけですね。
俺はハロプロの人たちが、あんなにも歌って踊れるなんて思ってなかったんだよね。ナメてたわけ。でも今はとんでもなく努力しなければ、あのレベルには到達できないということもわかる。なんでわかるかというと、YouTubeで過去をさかのぼって観られるからだよね。最初からうまい子もいるけど、全然できなかった子が、数年間の間に見違えるようになっている。それを現在の姿から逆再生で確認できる。ハロプロには研修生制度があるから、研修生でずっとがんばってきて、同期や後輩にどんどん追い抜かれて、でもある日突然、デビューが決まったと告げられる。モーニング娘。の加賀楓とか、解散しちゃったけど
──すごくグッとくる泣き方をするんですよね。
彼女が「誰かが喜んでる姿を見ると泣いちゃう」と言いながら泣いてる動画があるんだけど(笑)、僕にはその気持ちがすごくわかる。“悲しい”の涙ではなく、“うれしい”の涙のほうが尊い。デビューやユニット加入が決まったとき、多くの子が「人生がかかっていたので本当にうれしい」と言って泣くんだけど、あれってアイドルになる“これからの人生”って意味ももちろんあるけど、アイドルになるために死ぬほど努力してきた“これまでの人生”のことでもあると思うんだよ。大人は「たかだか10数年しか生きてないのに、何が人生だよ」とか思うのかもだけど、自分がその年齢だったときのことを思い出してみれば、そんなこと言えないと思う。第1回でも話したけど、ティーンの子にとっての数年間って、生きてきた時間の3分の1以上だったりするわけで、それが重要でないはずがない。で、だからこそハロプロって10代のうちに辞めちゃう子が多いんだと思うわけ。卒業の連続にはファンからの批判や失望もあるだろうけど、僕はそれこそがいいところだと思ってる。つまり、人生の何年かを賭けて全力でアイドルをやったからこそ、次の夢、人生の次のステップに向かえるんだと思うんだよ。とまあ、このような経緯で、いつの間にか僕はアイドルに開眼していたと。ようやく現在までたどり着いた(笑)。
佐々木敦
1964年生まれの作家 / 音楽レーベルHEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊される文学ムック「ことばと」編集長。2020年3月に「新潮 4月号」にて初の小説「半睡」を発表した。
南波一海
1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル「PENGUIN DISC」主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行ない、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「
吉田光雄 @WORLDJAPAN
モーニング娘。'20との邂逅 | 佐々木敦、アイドルにハマる 第2回 https://t.co/29UvoECMAu