アーティストの音楽履歴書 第12回 [バックナンバー]

奥田民生のルーツをたどる

音楽好きの母親がきっかけで始まった長いロックンロール人生

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高校時代に思い描いたミュージシャンの道

たぶん、その頃ぐらいですかね。漠然とミュージシャンになれればいいなと考えるようになったのは。といっても、具体的なビジョンがあったわけじゃなくて。高校生になるといろんなコンサートやライブハウスに行くようになるじゃないですか。その楽屋口に積まれた機材を見て、ふと「そうか、この人たちは車に楽器を積んで旅してるんだ」と思ったりして。自分もそういう生活ができたらいいなって。まだぼんやり憧れていた程度です。

結局、大学には進みませんでした。大学サークルでバンドをやってる人がたくさんいるのは知ってたんですが、ライブハウスに通ってると、そういう学生バンドがお互い、ノルマっぽい感じでチケットを買い合ったりしてたんですね。それが面倒くさそうでね。でも、とりあえず焦って就職したりせず、バンドを続けてみたいという気持ちもあったので、専門学校に行かせてもらった。それが54歳になっても、まだバンドをやってるなんてね(笑)。その頃は想像もしなかった。

ユニコーン加入時に影響を受けた安全地帯とThe Police

ドラムの川西(幸一)さんに誘われてユニコーンに加入したのは、1986年。21歳のときです。専門学校時代はREADYっていうバンドを組んでたんですけど、そのときも先輩に声をかけられて、僕が一番歳下だった。なんつーか僕の人生、自分では何も決めてない気がしますね(笑)。

READYからユニコーンに移行するこの時期、個人的に影響を受けた気がするのは、安全地帯とThe Policeかな。妙な取り合わせですよね。ほかにもあったんだろうけどパッと浮かばない(笑)。安全地帯は曲を聴いて「へえ、カッコいいコード進行だな」と思った。READYはそれこそEARTHSHAKERっぽいポップめのハードロックがメインだったんですけど、それとはまったく違うメロウな感覚が身体の中に入ってきた。当時、すでにけっこう曲も書いていましたので、ソングライティング的にも影響は大きかったと思います。

The Policeは完全に後追いですね。「Synchronicity」という最後のアルバムが出たのが高校の終わりぐらいで。僕が最初に触れたのはそのライブを収めた「Synchronicity Concert」というビデオ作品でした。それまで聴いてきたハードロックやヘヴィメタルとは真逆の、隙間の多い音楽で。高度なコードを駆使したヒネリのある楽曲を3人という最小人数でやっているのが新鮮だった。アンディ・サマーズのギターがまた独特でね。背伸びしてコピーするのもまた楽しかったです。

加入時から変わってないユニコーンの方向性

ユニコーンで本格的に活動を始めた当初、特にコンセプトみたいなものはありませんでした。まあ事実上、川西さんとテッシー(手島いさむ)が作ったバンドなので。「楽曲はわりとポップに、でも演奏はドカンと派手に」みたいな思いはあったでしょうけど。特に“ナニナニ風”とかはなかった。

デビュー当時のユニコーン。

デビュー当時のユニコーン。

誘われて一度は断ったんですよ。でも最終的にやってみようと思ったのは、コンセプトよりやっぱり人ですよね。川西さんは僕らが高校時代から地元で憧れていたバンドのドラマーで、プレイもよく知っていましたし。彼と一緒にやれるならいいんじゃないかなと。バンドのベースにあるのは、どこまでいっても演奏ですからね。どんな奇抜なコンセプトを考えても、演奏に説得力がないと何も始まらない。ユニコーンはまずメンバーの演奏ありき。最初からガチガチに方向性を固めることもなく、わりあい自由な雰囲気で音楽と向き合えた気がします。

井上陽水さんのセンスは絶対誰にも真似できない

ずっとミュージシャンとして生きてきて、たくさん曲も書いてきましたけど、歌詞には常に苦労しますね。メロディはわりあいスラッと浮かぶんだけど、そのグルーヴにぴったりハマる言葉がなかなか見付からなくて。宿題みたいに溜まっていく(笑)。でもまあ、僕は日本語しかしゃべれないし。それで歌うしかないから、こればっかりはどうしようもない。

もちろん、尊敬する日本語の先輩ソングライターはたくさんいますし。いろんな人からいろんなものを受け取っているとは思うんですけど。そこはやっぱり、自分で考えなきゃいけない部分だと思ってやっていたりもするので誰の影響を受けたのか自分ではよくわからないんです。

ただ、言葉の使い方で心からすごいと思ったミュージシャンを1人だけ挙げるとすると、やっぱり井上陽水さん。あのセンスは絶対誰にも真似できないから、影響の受けようもないんですけど(笑)。井上陽水奥田民生のユニットで一緒に2枚アルバムを作らせていただいた経験は、僕にとってはすごく大きかった。楽曲の作り方、特に言葉との向き合い方で思うところが多々ありました。でもまあ、あの境地を自分で目指そうとは思わないですけどね。もうちょっと僕は、普通の人間ですもん(笑)。

好きなギタリストは40代後半くらいの自分

音楽履歴書ということでいろんなバンドやミュージシャンの話をしてきましたけど、「この時期はこの人に影響を受けた」みたいな話ってなかなか難しいですよね(笑)。今だってそうです。毎日音楽をやって、いろんなミュージシャンに会って。その都度影響や刺激を受け、自分も変わっていく。むしろ言葉では説明しにくい、曖昧で漠然とした部分が大きい気がするんですね。

ミュージシャンはみんな“誰か”じゃなくて“自分”のグルーヴを求めているわけで。逆に言うと、その人が求めてるグルーヴの気持ちよさみたいなものは、本人にしか出せない。なので、それが多少なりともうまくいったときの自分が、一番好きなミュージシャンであるはずだと思うんですね。本来であれば。

それでいうと僕は、ちょっと前の自分のギターはわりと好きでしたよ。40代後半くらいかな。ライブやレコーディングを通してあの時期の自分は世に出せているので、それは満足かなと思ったりします。

幼少期からロックンロールに憧れ続けて

今、1枚だけ無人島に持っていくレコードを選ぶとしたら? うーん、何ですかね。The Beatlesの「White Album」みたいにさんざん聴いたアルバムはもういいかな。なので、チャック・ベリーのアンソロジーっぽいCDを持っていきます。同じ曲の別テイクがたくさん収録されているやつ。まだ全部聴けてないので、無人島でも「このテイクは知らなかった」と楽しめる(笑)。

たぶんロックンロールって、シンプルだけに容れ物として大きいんでしょうね。子供の頃に好きだった「スモーキン・ブギ」は、今聴いてもやっぱりいいと思いますし。その後、自分なりに経験も重ねてきて。オリジナルの持つすごみも実感できるようになった。その意味では捉え方が広く、深くなってきた実感があります。

僕自身、小さい頃にロックンロールに惹かれて自分でもそういう曲をたくさん演奏してきました。でも、例えばチャック・ベリーとかThe Rolling Stonesみたいな先人が生み出してきたグルーヴにはいまだに近付けないし、真似すらできてない。どんなにがんばっても、自分の身体にそのノリを入れることはできないと思うんです。でも、それとはまた別に、自分がやりたいロックンロールのグルーヴというのは、今は今でちゃんと最新のバージョンがある。そういう意味でも懐が深い音楽なんですよね。いくら追求しても奥が見えないし、飽きることもない。ロックンロール。つくづく偉大なジャンルだと思います。

奥田民生

奥田民生

奥田民生

1965年広島生まれ。1987年にユニコーンでメジャーデビューする。1994年にシングル「愛のために」でソロ活動を本格的にスタートさせ、「イージュー★ライダー」「さすらい」などヒットを飛ばす。また井上陽水とコラボ作品を発表したり、PUFFYや木村カエラのプロデュースを手がけたりと幅広く活躍。弾き語りスタイルによるライブ「ひとり股旅」や、レコーディングライブ「ひとりカンタビレ」を行うなど活動形態も多岐にわたる。さらに世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダンらが参加するThe Verbs、岸田繁(くるり)と伊藤大地と共に結成したサンフジンズのメンバー、同世代ミュージシャンと結成したカーリングシトーンズの一員としても活躍している。2015年に50歳を迎え、レーベル・ラーメンカレーミュージックレコード(RCMR)を立ち上げた。2017年9月に約4年ぶりとなるオリジナルフルアルバム「サボテンミュージアム」を発表。2019年にソロ活動25周年を迎えた。

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