會田茂一

渋谷系を掘り下げる Vol.5 [バックナンバー]

“裏番”會田茂一が語るアナザーストーリー

「それぞれが自分たちの価値観でカッコいい音楽を模索していた」

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“渋谷系の裏番”として快進撃

──「THE WORST UNIVERSAL JET SET」は、渋谷系の層にもアピールしたアルバムだったと思いますが、ジャケットからしていわゆる渋谷系とは違う気配が……?

ジャケットは自分たちでもまったくピンとこなくて。男2人組でもフリッパーズ・ギターとは似ても似つかない、自分がリスナーだったら笑っちゃうような感じにしたいと言ってた気がするんですけどね(笑)。ジャケットのインナーにもバスタブとかベッドで遊んでいる写真が載ってたり、ワケわかんないですよね。

EL-MALO「THE WORST UNIVERSAL JET SET」(画像提供:TOY'S FACTORY)

EL-MALO「THE WORST UNIVERSAL JET SET」(画像提供:TOY'S FACTORY)

──小山田さんを含めて、“ロックごっこ”をやっている感がありましたね。それがEL-MALOに付けられた“渋谷系の裏番”“裏渋谷系”というキャッチフレーズにつながっていった?

自分たちで名乗ったわけじゃないからいつどこで付けられたかはわからなかったんですけど、2008年にEL-MALOでひさしぶりにアルバムをリリースしたときに、ラジオ番組で吉田豪さんと対談させていただく機会があって、その中で豪さんが「裏番と付けたのは僕だったかもしれない」って言ったんですよ。どこかの雑誌で取材して書いたみたいで。

──それは新事実ですね! 

EL-MALOはスペイン語のワルという意味で、身内の流行言葉だったんです。「アイツ、超エルマロじゃん!」みたいな。“裏番”はそこからのイメージかもしれないし、僕もあの時期は髭に長髪で、ハーレーに乗っていると思われていましたからね(笑)。

──ただ、EL-MALOは、音楽的にもアチチュードとしても、新しい解釈と手法でロックを取り戻そうとしたところがありましたね。

そうですね。小山田くんもロックの文脈でやることに共鳴してくれた部分はあったし、Corneliusの2ndアルバム「69/96」(1995年)もそうだったんじゃないかと。僕、当時はものすごく邦楽への違和感があったんですよ。日本のバンドやアーティストでシンパシーを覚える人がホントにいなくて、それは渋谷系と呼ばれたアーティストにも少なからず感じていて、あのスノッブな雰囲気にはなじめなかった。それより僕はパンク由来のどこか破綻している音楽や人に惹かれていたんです。あと、電気グルーヴの影響もすごくあったと思います。

──會田さんは電気グルーヴの「富士山」や「N.O」にギタリストとして参加、EL-MALOとしても「虹」のリミックスを手がけるなど、親交が深かった。

そうなんですよ。当時は同じ事務所に田中フミヤくんや音楽雑誌「ele-king」の人たちもいたので、付き合う仲間も自然とそっちに変わっていって、渋谷系を意識することはなかった、というか元からなかったんですけど、いわゆるクラブ系でもなく、かといって邦楽ロックでもない……まあ、どこにも属さず好きにやってましたね。

──3rd アルバム「III」(1995年)になると、ツインドラムを採用するなどますます骨太のロックになっていきましたね。

自分たちなりのロック観を体現したかったんですよ。ツインドラムにしても「今どきこういうバンドっていないよな」という発想だったし、とにかくほかの人がやっていないことをやることに燃えていましたね。その頃、デビューしたばかりのGREAT3、PLAGUES、EL-MALOの3組でライブをしたんですが、その中にいても何か違う気がしたんですよね。うまくは言えないんだけど。

會田茂一

會田茂一

オルタナ化していった渋谷系

──渋谷系以降のバンドが次々出てきたのもこの頃でした。

そうですね。サニーデイ・サービスやGREAT3は同じように洋楽を聴いてきたバンドだなと感じたし、あの頃はみんなレコードやCDをめちゃくちゃ買いまくっていたじゃないですか? そうやっていろんな音楽を貪欲に吸収しながら、それぞれが自分たちの価値観でカッコいいと思える音楽を模索していたんだと思うんですよ。僕らの場合は、その集大成が「SUPER HEART GNOME」(1997年)だったんですけど、さすがに2枚組はレコード会社に猛反対されて。

──でしょうね(笑)。

アルバム1枚を作る予算で2枚作れるならいいと言われたんですが、結局のところ予算ガン無視(笑)。CDを食材で作れないかとか、CDにアナログの溝を削れないかとか、ジャケットをヒロ・ヤマガタかクリスチャン・ラッセンに頼みたいとか、そんなことばっかり言ってました(笑)。

──冗談とも本気ともつかないムチャぶりは“裏番”らしい(笑)。

そういう豪快な遊びをやってこそEL-MALOだ、なんてうそぶいて。レコード会社も最初は「EL-MALOが売れたら面白いじゃん」みたいなところがあったし、余裕があったんですよね。たぶん当時すごく売れていたバンドのお金が僕らにも回ってきたんですよ(笑)。

「SUPER HEART GNOME」ボックスセット(會田茂一私物)

「SUPER HEART GNOME」ボックスセット(會田茂一私物)

──EL-MALOが“裏番”なら、“デス渋谷系”と呼ばれた人たちも現れ、ますます渋谷系のオルタナティブ化が進んでいきますが、96年に開催された「NATURAL HIGH!!!」という野外イベントは、まさにその象徴だったような印象があります。

そうでしたね。ライブアクトが僕ら、HOODRUM、フィッシュマンズ、Cornelius、トリが絶好調のBOREDOMSでしたからね。そうかと思えば、ヒックスヴィルやかせきさいだぁも出ていたし、DJは、石野卓球、KEN ISHII、中原昌也……。

──今思えば、豪華で面白いラインナップでしたね。

ACROBAT BUNCHの頃、山塚EYEさんの別ユニット、コンクリート・オクトパスと大阪で対バンしたこともあるんですけど、EYEちゃんの「自分はニューウェイヴだから、プラスチックを食べていた」という冗談かホントかわからない話を雑誌か何かで読んだりして(笑)、ホンモノにはとてもじゃないけど敵わないと思ったのを覚えてます。BOREDOMSの90年代半ばからの快進撃は痛快でした。

──「NATURAL HIGH!!!」の翌年に「FUJI ROCK FESTIVAL」が始まったことも時代の必然を感じますね。

たぶん、あの頃が僕らもシーンもちょうど切り替わる時期だったんですよね。EL-MALOはその時期から活動の流れが止まったんですけど、ユニットみたいな形態で音楽を作ることに飽きたというのはありました。その後、僕がbloodthirsty butchersやeastern youthに惹かれていったのも、もともとバンドマンだということも大きいんだけど、EL-MALOで突っ走ってきて、少し冷静になったとき、ようやく本来の自分が見えてきたからだと思うんです。EL-MALOで過ごした90年代の数年間は、ものすごく濃かったけれど、僕にとってはある意味、イレギュラーな活動だったとも言えるんですよ。

會田茂一

會田茂一

90年代以降の會田茂一は、FOELOSALIOS、ATHENS、DUBFORCEなど複数のバンドで精力的に活動を続けながら、木村カエラをはじめ多くのアーティストへの楽曲提供やプロデュースを手がけている。また今回のインタビューに登場したミュージシャンたちの活躍ぶりも枚挙にいとまがない。ACROBAT BUNCH時代からの盟友、堀江博久は、The Cornelius Groupを筆頭に、高橋幸宏からHi-STANDARDまで多くのミュージシャンに信頼される鍵盤奏者として名を馳せ、かつて會田と同じくネオGSシーン界隈にいた片寄明人は、Chocolat & Akitoでの活動に加え、近年ではDAOKOのプロデュースでも注目を集め、片寄と共にGREAT3に在籍していた高桑圭は、Curly Giraffeで7枚のアルバムを発表、ハナレグミ、藤原さくらの楽曲プロデュースや佐野元春&ザ・コヨーテバンドでの活動も知られている。90年代の渋谷系とその周辺で揉まれながら、世紀をまたいでストーリーを紡いでいった彼らは、今のシーンに欠かせないアーティストとなっている。

會田茂一

1968年生まれ。大学在学中にギタリストとしての活動をスタートする。現在はFOE、LOSALIOS、ATHENS、DUBFORCEなど、さまざまなバンドで活躍。また映画 / CM音楽の制作や、木村カエラをはじめとする数多くのアーティストへの楽曲提供やプロデュースを手がけており幅広い音楽活動を展開している。

バックナンバー

佐野郷子

ライター / エディター。1980年代から雑誌を中心によろず執筆 / 編集。98年からは編集プロダクションDo The Monkeyに所属。

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