エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第7回 [バックナンバー]
ゆらゆら帝国、OGRE YOU ASSHOLE、SCOOBIE DOらを手がける中村宗一郎の仕事術(前編)
僕はバンドの中で機材が一番わかる人という立ち位置
2019年11月15日 16:00 36
レコーディングって意外と面白いと最近気付いた
──宗一郎さんにはギタリストが手持ちのエフェクターを駆使するイメージがありました。でもこうしてスタジオにお邪魔してみると、意外にレコーディング用の機材がたくさんあるなと驚いているんですが……。
実は去年ミキサーが壊れたんですよ。煙がボワーンって出て、もう直らないと言われて慌てて買いそろえただけなんです。仕方なく導入したという。そしたらね、ミキサーが直っちゃったんですよ。なのでまた元に戻そうかとも思っています(笑)。でも、今までミキサーのヘッドアンプしか使ってなかったんですけど、こういうのを使い始めたら物欲がグッと湧いてきちゃって。「みんなこうやってレコーディングしてるのか」ということがわかって、レコーディングって意外と面白いんだなって最近になって思い始めてるんですよ。
──ギター用のエフェクターを大量に所有していると噂に聞きますが。
上の階の倉庫に置いてあります。ファズはいっぱいありますけど、集めるだけですね。買えば納得するというか。集める基準が音ではなくて、大きさとか形とかなんですよ。買ってから1回も鳴らしてないものもあります。しばらく忘れていて、「何が入ってるのかなこれ?」って箱を開けてみて、自分でびっくりすることもありますね。でも僕の欲しいようなものは、ビンテージ好きでも知ってる人がほとんどいなくて、「ついに手に入った!」って言っても喜んでくれる人が数人しかいないんですよ(笑)。
──そのようなマニアックなギターのエフェクターを大量に駆使して、出音から変えていくレコーディングのやり方を想像しているのですが、実際はどうなんでしょうか?
だいたいのバンドは予算も時間もないので、実験している場合じゃないんですね。ババッと仕上げなきゃいけないので。「これどう?」って提案するより、自分たちが持ってるエフェクターでやってもらったほうが早いし、そうやらざるを得ない。エフェクターをいろいろ試しながらやったのは、石原洋(The Stars)、
──なるほど。
ビンテージものはいざ使おうと思うと壊れてたりするので、メンテナンスが大変ですよね。100台とか200台とか直している間に、1個目がまた壊れてるみたいな。あと、アナログものって、そのときはいい音がしたと思っても、次に使うと違う音だったりするじゃないですか。毎回同じ音とは限らない。釣りみたいなもんですよね。同じポイントで竿を同じようにセッティングしてるけど、今日は釣れないなみたいな。
100万も200万もする機材は買えない
──レコーディング用のビンテージ機材にはまったく興味はないんでしょうか? いくつかスタジオにも置いてありますが。
これはあるミュージシャンが貸してくれてる私物なんですよ。このALTEC 1567A(※マイクプリ / ミキサー)とかいい音がするんですよね。ドーンって音がしてすごいなと思うけど、だから何にでもいいわけでもないというか、それが曲に合うかどうかはまた別。あと高いですよね。10万でレコーディングをやってくれと言われてるのに、100万も200万もする機材なんか買ってられないって話で。
──確かにコンデンサーマイクがNEUMANN U87とSONY C-38B、ダイナミックマイクがSHURE SM57と58など、ほかの機材はベーシックなものばかりですね。それでPEACE MUSICサウンドとでも言うべきあの音ができるのが不思議です。
真空管マイクはもう大変だし、いらないかなって。前に「NEUMANN U67のいいやつがあるから買わない?」って薦められたんですけど、値段を聞いたら100万って言われて、イヤイヤイヤイヤって(笑)。何年か前に韓国のスタジオに手伝いに行ったとき、TELEFUNKEN ELA M251があると言うから使ってみたんだけど、ものすごく音像がでかくてなんか違うなあと思って、結局SM58で録ってもらいました。58はいいですね。何に使ってもバッチリですね。
──SM58の中でも、こちらに置いてあるのはすべてMade In U.S.A.の頃のビンテージですよね。今はプレミアがついて、1本3、4万はすると思います。
え、そうなの? じゃあ売ろうかな(笑)。
中村宗一郎
ゆらゆら帝国、坂本慎太郎、OGRE YOU ASSHOLE、SCOOBIE DO、ギターウルフ、Boris、柴山“菊”俊之(サンハウス)、LAUGHIN’ NOSE、川本真琴、中原昌也、つしまみれ、空気公団、山本精一、チャン・ギハと顔たち、キノコホテル、シャムキャッツ、GEZAN、THE NOVEMBERS、キイチビール&ザ・ホーリーティッツ、カネコアヤノ、Homecomings、Wienners、ヒトリエなどの録音またはマスタリングを担当。またSHEENA & THE ROKKETS、村八分、山口冨士夫、YBO2、ムーンライダーズら無数のアーティストのアーカイブ作品を手がけるエンジニア。東京・多摩地区に自身のスタジオPEACE MUSICを構える。
中村公輔
1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMille Plateauxよりデビュー。自身のソロプロジェクト・KangarooPawのアルバム制作をきっかけに宅録をするようになる。2013年にはthe HIATUSのツアーにマニピュレーターとして参加。エンジニアとして携わったアーティストは入江陽、折坂悠太、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、本日休演、ルルルルズなど。音楽ライターとしても活動しており、著作に「名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書」がある。
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『動物宣言』マスタリングをお願いした中村さん。
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