映像で音楽を奏でる人々 第12回 [バックナンバー]
好きなものを全部拾い集めていたらMV監督になっていたかとうみさと
Official髭男dismや[ALEXANDROS]を手がけた女性クリエイターの次なる挑戦
2019年10月30日 19:00 17
ミュージックビデオの監督など、あらゆる形で音楽に関わる映像作家たちに注目するこの連載。今回は
2016年に初めてMVを監督して以来、[ALEXANDROS]や
取材・
マンガ家に憧れた幼少期を経たことでプランナーという存在を意識
小さい頃から絵を描くのが好きだったんです。お父さんが昔マンガ家のアシスタントをしていたらしくてすごく絵が上手で。「週刊少年ジャンプ」のイラスト大賞みたいなのに自分の絵が載ってるのをよく見せられたんです。それで「いいなあ、お父さんみたいにマンガ家になりたい」と思って、小・中学生のときはお父さんが買ってくるマンガを読みながらイラストを描いてました。その頃はちょうどみんながインターネットで交流し始めた時代で、pixivの前身みたいなお絵かき掲示板が流行ってたんです。私もホームページを作って自分で描いた絵を載せてたんですけど、だんだん絵がうまい人とそうじゃない人の差がハッキリ開いてくるんですよね。それで中学生の段階で「私の絵じゃマンガ家は無理だな」って思っちゃって。
私の出身は仙台なんですけど、高校3年生のときに、東北に1つだけ美大があることを知って、隣県の山形にある東北芸術工科大学というところを志望したんです。通ってた高校が大学の付属校だったからそのままエスカレーター式で入学する予定だったんですけど、親に「お願いだから受験させてほしい」って言って。家が厳しくて一人暮らしはダメと言われたので、往復4時間かけて大学に通ってました。私が入ったのは脚本家の小山薫堂さんが学科長をされている企画構想学科という、マーケティングやブランディングを学ぶところです。絵を描いていたときの挫折感もあったのかもしれないけど、当時「自分は何かを生み出せる人にはなれない。そういうのは一握りの人にしかできないこと」という思いがあって、「だったらデザインのコンセプトを作るプランナー的な存在になりたい」と考えていたんです。
入学してすぐに、映像学科の授業に来ていた株式会社TYOのプロデューサーと仲良くなって、そこでアルバイトを始めました。そして大学3年生くらいのときにA4Aという制作プロダクションで働き始めたんです。私は
大学を出てから1年間デジタルハリウッドでCGの勉強をしていたので、A4Aでは
1本撮ってみたら、やっぱりすごく楽しかったんですよね。本当に自分に監督ができるのかを試すために撮ったところもあったけど、自分的にもしっくりきたし、周りからも好評だったので、「やってもいいんだな」と思って。それ以来、実写を撮るのが仕事のメインになりました。
アンダーグラウンドな作品は絶対に作りたくない
私はMVを撮るとき、できるだけ“気味の悪さ”を盛り込むようにしてるんです。Official髭男dismの「ノーダウト」もそうですね。髭男って、聴いた人を幸せにする音楽を作る人たちだと思うんです。でもMVも同じアプローチでいくと、映像の印象に残らずフワッと流れていっちゃいそうで。だから“牢獄”をモチーフにしつつ、でも負のイメージが出すぎないようにポップにアウトプットする、というのをMVのテーマにしました。
私はあくまでポップでいたいというか、わかりやすいものを作りたいんですよ。独りよがりな主張が見えてるアンダーグラウンドな作品は絶対に作りたくない。誰もがいいなって思えるわかりやすさの中に、自分の思想とか裏テーマを適度に混ぜた作品が理想です。
それと、ワンシーンをキャプチャーしたときに、どこを切り取っても絵になるような映像を作ろうというのを常に意識していて。「ノーダウト」はそれもうまくいったなと思ってます。絵を見るだけで、「牢獄のビデオだよね」ってひと言で説明できるわかりやすさがあるし。
「気味の悪さを盛り込もう」と意識し始めたきっかけは、2016年に撮った[ALEXANDROS]の「Feel like」ですね。このときは「毒々しくてちょっとエロい感じにしたいな」と思って撮ったんですけど、作り終えて、やりたいことがうまく表現できたなっていう手応えがありました。
「Feel like」では川上洋平(Vo, G)さんから「ダンサーを入れたMVが作りたい」って提案されたんです。このときはダンサーのスタイリングも、衣装とかカツラとかを買ってきて自分でやりました。CGも全部自分で作ってますね。
MVで曲が持っている世界観を広げられたなって一番感じているのは、前に映画館限定で上映された
また近頃はアートディレクターの仕事も増えてきていて、Eveのライブツアーにおける会場空間美術のトータルディレクション、SILENT SIREN「GIRLS POWER」や
私が作るMVは傾向が大きく2つに分かれてて、1つは今言ったような「色彩がビビッドで毒のある映像」で、もう1つは
「Before sunny morning」で描いた、「友情や恋愛感情を持っていつも一緒にいる2人が、これからもずっと一緒にいられると思ってたのに、お互い夢のために、例えばどっちかが東京行って離れ離れになってしまう」というシチュエーションが、私は本当に大好きなんですよね(笑)。
人が生きてる時間って短いから、その間にあと何ができるんだろうって
私の場合、ビジュアルを作るのが好きで、音楽が好きで、映像が好きで、人を撮りたくて、という好きな要素を全部拾っていったらMVを作る仕事に行き着いたところがあるんですけど、女性でMV監督をやってる人って少ないですよね。やっぱり体力的な問題というのはあるのかな。いろんなところに登ったりするし、暑いことも寒いこともしょっちゅうだし、朝も晩もなく26時間くらい撮影し続けて「あれ? 朝に集合したのにまた朝じゃん」みたいなことも全然あるし。私は体力が付いてきたと思うんですけど、体育会系じゃないと無理な仕事かもですね。
例えばエログロ表現については、私がやったほうが男の人よりもキレイにできるんじゃないかなというのは感じてます。やっぱり、男の人がそれをやるといやらしくなりすぎてしまいがちなんですけど、自分だったら同じものを撮っても、もうちょっとファッション的にできるかなと思うんですよ。例えばカメラマンが女の人だったら、女性キャストをものすごく近い距離でも撮れるし、馬乗りでも撮ってもいやらしくならない。だから私はできるだけスタッフを女の人にお願いするようにしてるんです。カメラマンも照明も全員女、みたいなことはけっこうあります。
映像って人の感情まで撮るものだから、それを作る自分もずっと仕事モードでいるんじゃなくて、好きな人がいたり好きなものがあったりして、それに熱を注いでなきゃダメだなって去年くらいから思うようになったんです。だから最近は、仕事として好きなことがやれるように、できるだけ公私混同するようにしてます。例えば、ななせぐみ(バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI)ちゃんとすごく仲がいいので、去年一緒に作品展を開いたんですよ。日常的にずっと一緒にいていろんな部分を見ている人の作品を作るのと、そうじゃない人の作品を作るのとではやっぱり気持ちの入り方が違うから、今はなるべく友達の作品を撮りたいなって思っています。
あと今、芋如来メイちゃんと2人で「90's Violetta」という音楽ユニットをやってて、私はアートディレクターをしながらベースやキーボードを弾いてるんです。MV監督をやるんだったら、せっかくだから音楽のことをもっと知りたいって思って。メイちゃんとは音楽の趣味がすごく近いので、2人の共通の知り合いにどんどん曲提供をお願いしていて、このあいだケンモチヒデフミ(
自分が興味を持ってやれる仕事がもっともっと増えればいいなと思ってます。今やってることをより追求することもしていきたいし、クライアントは今の私が得意としていることを求めてくれるんだけど、でもいろんなことに挑戦したいんですよね。人が生きてる時間って短いから、その間にあと何ができるんだろうって考えちゃうんですよ。
かとうみさとが影響を受けたMV
Foster The People「Best Friend」(2014年)
「モデルの主人公が女を食って吸収しながら姿を変えてのし上がっていく」というコンセプトや、CGの色合い、テンポ感、合間に入ってくるアニメーションなど、さまざまな要素のセンスが抜群によくて大好きな作品です。
‘Here, my Life’ A short film supported by LifeCard(2014年)
MVというか、ライフカードの「Here, my Life」というスペシャルサイトのために関根光才さんが制作した8分間のCMなのですが、「思い出」「今」「時間」といった生きていく上でのテーマを擬人化してエモーショナルに表現していて、いつ観ても胸が締め付けられます。私もいつか、観た人が自分の人生に置き換えられるようなドラマが描けたらいいなと、この作品を観るたびに思います。
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