数あるアイドルの中でも群を抜いて女性人気が高いハロー!プロジェクト所属のアイドル。ことあるごとにハロプロファンであることを公言している指原莉乃を筆頭に、ハロプロのアイドルは同業のアイドルやタレントから圧倒的な支持を集めている。またミュージシャンや作家といった表現者からの人気が高いのもハロプロの大きな特徴といえる。今回登場してもらった女優の蒼井優と菊池亜希子も、自他共に認める熱狂的なハロプロファンだ。彼女たちも忙しい日々の合間を縫って、頻繁にライブに足を運び、動画を随時チェックするなどして、ハロプロの動向を常に追いかけているという。ハロプロの何が女性をそこまで熱狂させるのか? 音楽ナタリーでは、蒼井と菊池の証言を交えながら、「なぜ女子はハロプロにドハマリするのか?」というアイドル界最大の謎を紐解いていく。
取材・
各界の著名人もハマるハロプロ
ハロー!プロジェクトは、女性ファンの比率が非常に高いことで知られている。著者が知る限りでも、タレントの指原莉乃(ex. HKT48)や柏木由紀(AKB48)、ミュージシャンの大森靖子やしばたありぼぼ(ヤバイTシャツ屋さん)、女優の松岡茉優、モデルで歌手の三戸なつめ、お笑い芸人の柳原可奈子、作家の柚木麻子、エッセイストの犬山紙子……など熱狂的なハロプロファンは枚挙にいとまがない。コンサート会場に出向くと観客の男女比がほぼ半々で、黄色い歓声のほうが目立つということもしばしば。アイドル全般で“女子ヲタ”と呼ばれるファンが増えてきたとはいえ、ハロプロの女性支持率がズバ抜けていることは間違いない。ところが「では、なぜ女子はハロプロにハマるのか?」という素朴な疑問には、アイドルマスコミや音楽ライターも明確な答えを出せないでいるのだ。
例えばモーニング娘。に関していうと、ショートカットでボーイッシュな魅力を持つ工藤遥が2017年にグループを卒業した。この際、女性人気の低下も懸念されたのだが、実際はそれ以降も高い人気をキープしているという経緯がある。パフォーマンスの完成度や、宝塚的あるいは名門女子高的な集団性に女性が惹かれる要素があるとする向きもあるものの、これも決定的な理由とは言い難いだろう。
そこで音楽ナタリーは、この“アイドル界最大の謎”を女優の蒼井優と菊池亜希子にぶつけてみた。2人はハロプロ好きが高じて、アンジュルム初のアーティストブック「アンジュルムック」を編集長の立場で制作したばかり。これは単なる名義貸しでは決してなく、企画のテーマ出し、ラフ作成、衣装セレクト(私物提供も含む)、撮影ディレクション、原稿チェックなど、すべてを2人が統括した超力作となっている。女子のカリスマでもある蒼井と菊池なら、ハロプロの女性人気も冷静に分析できるのでは? すると菊池は「そもそもハロプロは、ほかのアイドルと比べてどうこうという存在ではないんです」と語り始めた。
ハロプロ=大相撲説
「ハロプロは国技なんですよ。大相撲と一緒。アイドルというよりは、1つの伝統芸能みたいに私は捉えているんです。最初からほかのアイドルと比較しても意味がないというか、それ自体が独立した枠だということ。実際、ハロコン(※ハロー!プロジェクトの合同コンサート)を観終わって中野サンプラザを出るときは妙に厳かな気分になりますから。彼女たちが歴史や伝統を守ってくれることに対する信頼感、感謝の気持ち……改めてハロプロは比類ない存在だと思います」(菊池)
まるで突拍子がないようにも感じる“ハロプロ=大相撲説”だが、これを語る菊池の顔は真剣そのもの。隣で聞いていた蒼井も「そういえば私も相撲は好きだな。どこかでつながっているのかも」と神妙に頷く。1500年続く日本国技の相撲は、その成り立ちからしてほかの立ち技系格闘技とは意を異にする。それと同様に、21年の歴史を持つハロプロは単純に女性アイドルの枠ではくくることができないということだろう。そして最近になって菊池は、自分の周囲でハロプロにハマる大人女子に1つの共通点があることを発見したという。
「少しどんくさいけど、決して憎めない人。個人的には“鞘師(里保)タイプ”と呼んでいるんですけどね(笑)。そういう人こそ、ハロプロにハマりやすいと思うんです。日々がんばって生きている人。自分と真剣に向き合っている人。大人になったからといって、そこそこな感じの予定調和で生きるのではなく、真剣に走っている人。私、そういうタイプって人間的に信用できるんですよ。だからハロプロ好きは全員がいい人だって思うのかもしれない」(菊池)
鞘師里保はモーニング娘。に革命をもたらした少女だ。加入は2011年。それまでのモーニング娘。は高橋愛リーダー体制のもと、新加入を行わず固定メンバーでステージングのクオリティを地道に高める方向にしばし邁進していた。いわゆる“プラチナ期”と呼ばれる時代である。ところが鞘師ら9期メンバー4人の加入と、約半年後の10期4人の加入によって、グループは一気に若返りに成功。中でも瞬く間にエースに上り詰めた鞘師は、キレキレながらも滑らかなダンスと、ストイックで切迫するような歌声でファンを魅了する。プロデューサーのつんく♂もその才能に大いに触発され、アイドルの文脈ではあまり見られなかったEDM色の強いサウンドやフォーメーションダンスといった新機軸を打ち出し世間にアピールしたのだった。
文系女子にアピールするつんく♂の詞世界
一方、歌詞世界が女性の心に刺さる大きな要因ではないかと仮説を立てるのは蒼井。つんく♂の書く歌詞はアイドルソングとしてもJ-POPとしても特異である。有名なところだと「宇宙のどこにも見当たらないような約束の口づけを原宿でしよう」(『Do it! Now』モーニング娘。)や「お母さんだって夢中で誰か愛した事あるでしょう」(『好きよ、純情反抗期。』スマイレージ)といったところが挙げられよう。「フードコード」「選挙」「自転車」「アーケード」といった非常に日常的・普遍的な風景と「宇宙」「地球」「人類」「大自然」といった壮大なスケールのフレーズが混在するところが、つんく♂が手がける歌詞の最大の特徴といえる。さらに男性目線ではなく、女性の気持ちに寄り添った角度で物語が描かれていることも昔から指摘されている。
「だから学生時代に熱心に本を読んでいた人もハマる傾向があると思うんです。ハロプロの場合、歌詞でやられるというパターンは本当に多いですからね。それがある程度まで進むと、文章をいちいち深読みしてしまう癖が出る。メンバーのブログとかも行間を勝手に深く読み込んで、“これはどういう意味だろう?”って考え込んでみたり(笑)」(蒼井)
2人がハロプロ沼にハマったきっかけ
ここで少し視点を変えてみよう。そこまで深く没頭する菊池と蒼井自身は、どのようにしてハロプロ沼にハマっていったのか? そこには育った時代背景も多分に影響していると2人は述懐する。菊池の場合、モーニング娘。のインディーズデビューシングル「愛の種」が発表された1997年当時、すでにモデルの仕事を始めていた。
「こういう言い方をすると語弊があるかもしれませんが、90年代の後半というのは、音楽が今よりもおしゃれな存在だった気がするんです。ファッション的な聴かれ方をされていたと言ったらいいのかな。渋谷系だったり洗練されたバンドも出てきて、私の周りにいたモデルやファッション業界の人たちはクラブに行ったりもしていて。そういうところと対極にあったのが、当時のモーニング娘。だったんです。だから当時はモーニング娘。や、ハロプロが好きだという気持ちを公言することには若干の抵抗が正直ありました。それでもやっぱり『まぶしすぎる!』という興奮には抗えなかったですね。私自身、“かわいさ”という部分をあえて避けてきた斜に構えた思春期だったからこそ、思いっきりかわいさを前面に打ち出していた彼女たちに対する憧れがあったのかもしれない」(菊池)
一方、松浦亜弥より1歳年上にあたる蒼井も最初期からハロプロを見続けてきた。菊池と比べたら自分はライト層だと謙遜するものの、「『ASAYAN』(※モーニング娘。らを輩出したテレビ東京のバラエティ番組)の観覧は普通に行っていた。太陽とシスコムーンが最高だった」「メンバーが卒業するたびに大号泣」「松浦亜弥のかわいさを研究するため、カラオケボックスで本人映像を延々と流していた」などと口から出るエピソードは極めてディープ。そんな蒼井だが、宝塚に夢中になったこともあって一時期はアイドルから距離を置くようになる。
「そんなとき、亜希子ちゃんから薦められたんです。『優ちゃん、今のハロプロ絶対好きになるはずだからさ』と言われて」(蒼井)
菊池は蒼井が再びハロプロにハマると確信していた。「好きになったものに対する思いが過剰」であり、「思春期の暑苦しさが大人になっても抜けていない」蒼井の一面を見抜いていたからである。蒼井は菊池からのLINEテロを浴び続けた。モーニング娘。、カントリー・ガールズ、Berryz工房、℃-ute、こぶしファクトリー、Juice=Juice……LINEには菊池のお気に入り動画URLが貼り付けてあった。気が付けば蒼井のYouTubeは、「次の動画」欄がすべてハロプロで埋まる始末。底なし沼にハマっていく中、たどり着いたのが
「『君の声聞かせて』というむろ(室田瑞希)の歌い出しを耳にした瞬間、『何、この声……!? でも、私を幸せにする……』って凍っちゃって。あの曲自体、“かわいい”の洪水状態なんですよ。こっちもどう受け止めていいのかわからずにオロオロしているうちに、画面の中のあやちょ(和田彩花)が『カクゴして!』って言いながらウインクしてきたんですよ! 『……うっ!』と撃ち抜かれましたね。家のソファでうずくまってしまいました」(蒼井)
一体、アンジュルムの何が蒼井をそこまで夢中にさせたのか? 最初に驚いたのは、ステージ上で“ふり”をしていないところだった。どこまでもありのままでいることが稀有な存在に映ったのだという。
「表現をする人って、舞台に立つと一種の演技をするものなんです。一生懸命の“ふり”、ほほえんでいる“ふり”、仲がいい“ふり”……。私自身、女優をやるうえで“ふり”をしているわけですしね。なのに、アンジュルムは全部が剥き出しの状態。なぜこの子たちは、こうも自分を解放できるのだろう? そこが私にとっては衝撃だったんです」(蒼井)
ハロプロ特有の“ガチンコ感”
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