小沢一敬

私と音楽 第8回 [バックナンバー]

小沢一敬が語る甲本ヒロトと真島昌利

ヒロトとマーシーは、俺にとってずっと一番大事な“バンド”

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各界の著名人に“愛してやまないアーティスト”について話を聞くこの連載。8回目はお笑いコンビ・スピードワゴンの小沢一敬が登場。敬愛する甲本ヒロトと真島昌利(ともにザ・クロマニヨンズ)について語ってくれた。

取材・文・撮影 / 阪本勇

枕に顔を埋めて泣いた

中2のときだったと思うんだけど、同級生が「すごいバンドがデビューしたんだ!」って家にカセットテープを持って来てくれたの。それがTHE BLUE HEARTSの1枚目のアルバム「THE BLUE HEARTS」。「へえー」なんて思いながらなんの気なしに聴いたら、1曲目「未来は僕等の手の中」のイントロを聴いた時点で、なんでかわからないけど言葉で表現できないような「うわー!」って気持ちになって、気が付いたら枕に顔を埋めて叫んでて、涙が止まらなくなってた。

そういう衝撃的な経験はきっと誰にでもあって、それが手塚治虫のマンガの人もいれば、イチローのレーザービームの人もいると思うの。俺にとってはそれがブルーハーツの1stアルバム。それからすぐにライブを観に行くようになって。初めて生で観たのは、市民会館みたいなところ。椅子が並べられたところで観たの。まあ誰も座ってなかったんだけど(笑)。

小沢一敬

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マーシーに憧れて

前からお姉ちゃんの影響で尾崎豊とか、先輩がよく聴いていたBOOWY (※「BOOWY」の2つ目のOはストローク符号付きが正式表記)とかも聴いていて「いい音楽っていっぱいあるな」とは思っていたんだけど、ブルーハーツだけは話が違うっていうか、ケタが違ったね。本当に好きになるとこんな気持ちになるんだということを、ブルーハーツで初めて知った。

それからは「マーシーになりたい」「マーシーみたいな生き方をしたい」と思っていて、マーシーの好きな映画とか、マーシーが読んだ本とか、マーシーが聴いてきた音楽をすごく追ってた。ヒロトよりマーシーのルーツに興味があって。今は、ヒロトにもマーシーにもならなくていいんだけど、子供の頃は本気で「なりたい」って思ってたんだよね。

ダウンタウンもそうだけど、圧倒的なスターって「真似したい」「自分にもできるんじゃない?」って少し手が届くように思わせないとダメなんだと思う。「ひょっとしたら、俺もああいうふうになれるんじゃない?」って。あの頃は、ダウンタウンなんて普通にしゃべってるだけに見えていたもん。ふらっと出てきて、パパッと好き勝手にしゃべってるだけだと思ってた。

ブルーハーツも簡単な3コードですぐ弾けちゃうような曲でさ、「これなら俺でもできるかも」と思って。で、中学生のときに実際に友達とバンドを組んで、ブルーハーツの「世界のまん中」とか「キスしてほしい」とかをコピーしたね。本当はダウンタウンもブルーハーツも、めっちゃ難しいんだけど(笑)。

小沢一敬

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カッコつけてねえからカッコいい

ブルーハーツの好きな曲は日によっても違うけど、1位は「未来は僕等の手の中」。これは不動だね。ほかには「チューインガムをかみながら」も好きだし、「手紙」も好き。好きな曲多いなあ……やっぱり決められない(笑)。THE HIGH-LOWSの一番好きな曲は、マーシーが歌ってる「キャサディ・キャサディ」だね。

ザ・クロマニヨンズの好きな曲はたくさんあるよ。まず「恋に落ちたら」っていう片思いの歌。歌詞が「あのね」しかないの。話しかけたいんだけど何を話したらいいかわからなくて、「あのね」しか言えないの。これでタイトルが「恋に落ちたら」って。マーシーって天才だよ。タイトルが「初恋」とかなんかだったらクサいけど、「恋に落ちたら」だからいいんだよ。

あと、「ピート」。これはヒロトが The Whoを聴いたときに「わー!」ってなったっていう曲。“ピート”ってThe Whoのピート・タウンゼント(G)のことなんだけど、歌詞も単純で、ただその衝撃のことだけを歌ってるの。俺もこれを聴いて「わー!」ってなる。ヒロトが「だからいますぐピート」って歌ってるところ、俺にとっては「だからいますぐヒロト」なんだよ。

ヒロトとマーシーの歌はさ、歌詞カードを見なくても何を歌ってるかわかるからいいよね。the pillowsとかandymori……今はALも好きだし、THE BOHEMIANSとか、俺は歌詞がちゃんと入ってくるバンドが好き。深刻ぶっているバンドは嫌い。ヒロトとマーシーはカッコつけてねえからカッコいいじゃん。

地球上のどのバンドと比べても一番激しい

ブルーハーツの解散の話を聞いたときは、別に悲しくはなかったね。その頃、俺は名古屋でお笑いを始めてたのよ。それもあって、感傷的にはならなかったかな。でもハイロウズやクロマニヨンズが始まったときは、シンプルにめちゃくちゃうれしかったね。俺にとってはヒロトとマーシーがずっと一番大事な“バンド”というのは変わらないから。形が変わってても、今この2人がやってることにしか興味がないから、今はクロマニヨンズしか興味ないんだよね。そうすると実は、ブルーハーツについて語ることって何もないのよ。

ブルーハーツ、ハイロウズ、クロマニヨンズでいうと、ヒロトとマーシーはクロマニヨンズになってからが一番若いと思ってる。今、勢いがある日本のバンドや海外のすごいバンド、地球上のどのバンドと比べても一番激しいライブをやってるのはクロマニヨンズだもん。それは間違いない。クロマニヨンズを超えるバンドなんてないんじゃないかな。

「遅いじゃん、すげえいい景色だよ」

ヒロトとマーシーの違いを山登りで例えると、ヒロトは「大丈夫、大丈夫! もうすぐ頂上だよ、一緒に登ろうぜ」って言って横を歩いてくれそう。マーシーはいつのまにか頂上に立って「遅いじゃん、早く来いよ! すげえいい景色だよ」って言ってそう。一緒に飲んだこともないから、あくまで俺のイメージなんだけどね(笑)。

マーシーの言葉で、「ヤバイことなんて1つもない。ヤバイと思うことがヤバイんだよ」っていう言葉があるんだけど、俺も「何が起きても大丈夫」って思ってる。ライブでスベって変な空気になっても別にいい。みんな「ヤバイ、ヤバイ」ってすぐ言うじゃん。「彼女にフラれたから人生終わり」だなんて言ったりするけど、そんなのなんにも終わりじゃないし、まだ途中でしょ。

俺らの仕事って負けがないと思ってて、スベってるって思われても、このスベったことを半年後、「あのときめちゃくちゃスベってね」って笑い話にできたら、もうそれでいいんだから。途中ってそういうこと。「これは次へのフリだからまだ負けてねえもん」って思えるの。

俺、「ブルーハーツは義務教育にすべき」とか「手塚治虫が学校の教科書に載ればいい」ってよく言っているんだけど、本当は「やっぱりそんなことしたらダメなんだろうな」って思っているの。だって自分で見付けるから意味があるんだもん。与えられたら意味ねえよ、それじゃダメなんだって。俺でいう手塚治虫やブルーハーツみたいなものに、みんなも何かのきっかけで出会えたらいいなって思うけど、俺が「ブルーハーツいいから聴いて」なんて言うのはクサいし気持ち悪いよね、そんなの。

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小沢一敬

1973年10月10日生まれ、愛知県知多市出身。1998年12月に井戸田潤とお笑いコンビ・スピードワゴンを結成し、テレビや舞台など多方面で活躍している。2015年に地元愛知県知多市のふるさと観光大使に就任。近著に「夜が小沢をそそのかすスポーツ漫画と芸人の囁き」がある。毎月第1金曜日に東京・ユーロライブでスピードワゴン主催のライブ「東京センターマイク」「話スピードワゴン」などを開催中。

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宮島真希子(Makiko) @hopetrue

ヤバイことなんて一つもない。 https://t.co/zE7m3Dqzb4

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