方向性や意図を一貫させることの重要性
ほかには、
「odolの『four eyes』はピカソのイメージ」と考えていたのと同じように、例えば
Polarisの「とどく」は個人的に気に入っていて、これは「手だけを撮影してどれだけお話を作れるか」ということと「映像でシズル感を表現する」というのをテーマにしました。
フレデリックの「たりないeye」は、2人の女の子の物語をずっと俯瞰のカメラで撮影するという内容です。「フレデリックのMVといえば女の子」というイメージがあったので、それに沿いつつちょっと違う方向性にしてみました。フレデリックって、曲調がカット編集っぽいんですよね。「細かく切ったほうが曲に合う」みたいな。ほかではやらないくらいめっちゃ編集したので、作ってて楽しかったです。
ミスチルのMVを編集していて気付かされた、一番大事なこと
MVを作るうえで一番重要なのは、やっぱり音楽を聴かせることでしょうね。これについて僕の中ですごく印象に残ってる出来事があるんです。
一旦静かになったあとで音楽がガッと始まったら、観てる人が男の子に感情移入できるんじゃないかと思って。完成直前までそのつもりで進めてたんですが、ギターの田原健一さんから「音楽は止めたくないかも」という連絡があったんですよ。それを聞いて「あ、そっか! そうだよね」と思って、すぐにそのシーンを縮めたんです。映像を作ってると、それが音楽を聴かせるためのものだって大事なことを忘れがちになるので、自分も気を付けないといけないって痛感しました。MVには曲の印象を変えてしまう力があると思うんです。「映像がカッコいいから音楽もカッコよく聴こえる」というのも然り、逆もまた然りで。だからこそ、そこまで素材の印象を変えることなく、音楽をどう聴かせるかに神経を注ぐのがMVを作る上で一番大事なんじゃないかなと思ってます。
今こうやってインタビューをしてもらってるのもMVを撮ってきたおかげなので、今後も映像を捨てることはたぶんないんですけど、本当はもっとインスタレーションをやりたいです。あと写真も撮りたいし。そのときやりたいことにどんどん取り組めるようになったらいいなって思います。
映像に関して言えば、作ってみたいのは会話劇ですね。会話劇って本当に難しいんだろうなと思ってて、今までほとんどやったことがないんですよ。僕は木村拓哉さん主演のドラマ「HERO」を会話劇の神だと思ってるんです。あんなスピード感で面白い会話をする映像を、僕も1回撮ってみたいんですよね。「HERO」って映像に絵力があるんですよ。ポートレート的に撮った人物の口だけが動いて、会話のテンポに合わせてパッパッパッパッと場面が切り替わって、ドーンと引き絵になった次の瞬間にみんなで事務所に入っていく、みたいな。観ててすごく気持ちいい映像なんですよ。似たところで、三谷幸喜さんの映画「ラジオの時間」の冒頭のシーンもすごいですよね。これまでMVでやってきたこととは毛色が全然違うんですけど、いつかああいうことをやってみたいです。もちろん今までの経験は自分の糧になってると思うんですが、別に僕はそれを武器にして進んでいきたいとは思ってなくて、ほかに面白そうなことがあったら躊躇せずそっちに移る気がします。
林響太朗が影響を受けた映像作品
Jamiroquai「Virtual Insanity」(1996年)
今観てもやっぱり最高ですね。曲を聴いたら誰もがあの動く床を思い浮かべると思うんですけど、それってすごくないですか? シンプルな仕掛けなのに遊び心いっぱいだし。ジョナサン・グレイザーが監督したMVを観るといつも「はー……」ってなりますね。
映画「シングルマン」(2009年)
トム・フォードの初監督作です。彼がこの次に監督した「ノクターナル・アニマルズ」もそうなんですけど、絵力がすごく強いんですよ。編集もカットもアングルの切り方も、独特なくらいものすごく丁寧できれい。例えば2人の女の人が死んでいるシーンで、その2人は道端に捨てられた赤いソファの上に倒れてるんですけど、その赤がすごく鮮烈な色をしてるんです。絵力が強い映画は大好きですね。ほかには「Mommy/マミー」とか「わたしはロランス」「たかが世界の終わり」を撮ってるグザヴィエ・ドランも好きで。あの、寄りのカットを多用した画作りはミスチルのMVを作るときに参考にしました。
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ちゅーに◎ちくわと消しゴム @wimpartrad
林響太朗は絵画の持つ美しさを光で表現する | 映像で音楽を奏でる人々 第10回 - 音楽ナタリー https://t.co/ZWAUCvxBa7