ミュージックビデオをはじめとした、音楽と関連する映像の制作に携わるクリエイターたちにスポットを当てるこの連載。今回登場するのは、
多摩美術大学を卒業したのち、映像制作やグラフィックデザインなどを手がけるDRAWING AND MANUALに入社し、映像のみならずインスタレーションやプロジェクションマッピングといったさまざまなクリエイションに関わっている林。まだ20代の若さで彼がMV監督として引く手あまたな存在になったのはなぜなのか。その類稀なるセンスの源泉を探るべく、彼に話を聞いた。
取材・
1から10まで考えるタイプではないので、MVは自分に合っている
僕は映像を撮りたかったわけでも音楽関係の仕事をしたかったわけでもなかったんですが、もともと物を作るのは大好きだったんです。だから「空間でもプロダクトでもいいから、何かしら作りたい」と思って多摩美術大学に入りました。当時は、知人や先輩にメディアアーティストみたいな人たちがけっこういたので、そういう道に進むのもいいなと思ってました。MVを作るようになったのは、「ピアノを弾くと鍵盤と連動して演奏者の上にホログラムの模様が浮かび上がる」という作品を卒業制作で作ったことがきっかけです。これを誰かに演奏してもらいたくて、友人の知り合いにRyu(Ryu Matsuyama)くんを紹介してもらったんです。
それから今の会社に入って、CGを描く仕事とかをしていたら、あるときソニーの「NEX-FS700」っていうスーパースロー撮影ができるカメラが会社に導入されて。それ、卒業制作を作ってるときに僕がすごく欲しかったカメラだったんですよ。「あのカメラがここにある!」と思ったら、それで何かを撮ってみたくなって。卒業制作の恩返しみたいな感じで、RyuくんのMVを1本作らせてもらうことにしたんです。そのMVは学生ノリで作ったものではあったんですけど、完成した映像をいろんな人が観て反応してくれるのが新鮮で。今まで何か作品を作ったときとはちょっと感覚が違ったんですよ。YouTubeだと再生数が表示されるから、「へー、1000回も再生されたんだ」っていうのが見てわかるし。いろんなものを作って発表したいという欲はあるけど、ほかのアート作品と違って映像だと発表する場がたくさんあるなって気付いて、ちょっと興味が出てきました。
今の会社は新卒で入って6年目なんですけど、もともとは大河ドラマでVFXで桜の花びらを舞わせたりする仕事が多くて、僕も社長のディレクションのもとでCGメインでお仕事をさせてもらっていました。でも僕がRyuくんのMVを何本か撮ったことで会社自体の印象も変わったのか、実写映像の案件も任されるようになり、メーカーの展示会で流す映像制作の依頼でTHE BED ROOM TAPE「くじら feat.
でも僕自身は音楽に詳しいほうではなくて。「音楽に関わる仕事をしたい」と思ったことは特になかったんですが、父親が音楽家で昔からジャズやクラシックなど家で常に音楽が流れていたので、その影響は大きかったのかなと思っています。
僕は物を作るときに自発的に1から10まで考えるタイプではないので、その点でMVは自分に合っていると思っています。MV制作には「すでにある曲名、歌詞、メロディ、音色とかいろいろな要素から何をチョイスしてどう料理するか」が求められるので、やっていて面白いですね。映像の役割は「コンテンツを発射させること」だと思っているんですけど、コンテンツの“発射台”の中で今一番飛距離が出るのが映像だと思っています。だから僕は音楽に限らず、コンテンツの魅力をさらに引き出すために映像を使って演出することを、今後もやっていきたいと思っています。もちろん、例えば映画とかをオリジナルの脚本で1から作るみたいなことも、いつかやってみたいですけど。
フェルメール、レンブラント、アンドリュー・ワイエス
映画といえば、昨年公開したMr.Childrenの3曲のMVはショートムービー的な内容なんですが、あれはうちの会社のプランナーの唐津宏治が脚本を書いてくれて、僕はその脚本を自分なりに言語化して映像に落とし込んで作ったので、とても楽しかったです。子供の頃から聴いていたアーティストだから、監督させてもらったってことだけで最高だったんですけど、YouTubeのコメント欄を見ると、僕が作りながら考えていたことをファンの皆さんが察知してくれていたようでうれしかったです。「そうそう、そういうこと!」みたいな。やっぱりMV監督はファン目線であるべきだと思うし、自分もそうなれたのかなという気がします。
以前までは「面白いものを作ればいいだろう」としか考えていなかったんですが、最近「なんで今この映像を作るのか」ということを深く考えるようになりました。例えば「バンドにとってこのMVはどういう位置付けの作品になるのか」「このタイミングで出す理由はなんなのか」とか。意識の持ち方が、より監督的になってきたのかもしれないです。そして、それを教えてくれたのが去年公開したミスチルの一連のMVでした。3本あるうちの、どの作品をどのタイミングで出すかがしっかりマーケティングされていたんです。それ以来、自分が作るMVのマーケット的な意義を気にするようになって、アーティストと「そもそもなんで今このMVを作るんだっけ?」という話をするようになりました。「今このアーティストにとって、どういう打ち出し方が必要なのか」みたいなことを、監督が意識するのとしないのとだと作品の印象は違ってくるんですよ。
そうやってデザインマインドでMVを作っているつもりなので、自分には“作家”っていう感覚は全然ないんです。もともと広告代理店とかに就職するつもりだったし、僕はクリエイティブディレクター的な立ち位置で物事を考えたいと思っています。だから、たまに「林さんの好きに作ってください」って言ってくれるアーティストさんもいるんですけど、「いやいや、ちゃうやん」って思っちゃうんですよね。もちろん「作りたいものを好きに考えてください」というつもりで、よかれと思って言ってくれてるのは重々承知してるので気持ちはありがたいんですけど、MVの主役は音楽なので、僕は企画書を出したら、それを基にアーティストさんと一緒にブレストして企画を進めるようにしています。
源さんの「Pop Virus」を撮ったのは、あいみょんの「愛を伝えたいだとか」を観た方に声をかけていただのがきっかけだったそうです。で、さらにその源さんのMVを観てオファーしてくださる方がいたりして、この数年はそんな感じでどんどん仕事がつながっているのでありがたいです。「愛を伝えたいだとか」の撮影はけっこう思い出深いですね。今や激売れしてるあいみょんですけど、この撮影中はまだそこまで世間に知られてない時期で、制作時間が少なくて撮影の準備もままならなかったんですよ。だから勢いで一気に作り上げたんですが、今もすごくたくさんの人に観てもらえてるみたいでよかったです。
作ってるときは自覚してなかったんでしたが、あいみょんや源さんのMVでやったことは自分の中で定番の手法の1つだなって、あとで気付きました。ワンカットで撮影して、光で変化を付けていくという。SHISHAMOの「私の夜明け」もそうですね。
映像を撮るうえで、光は大事だとは思ってます。照明の田上直人さんと打ち合わせをするときに、よく画家の名前を挙げて「今回はこんな感じで」って話してるんです。フェルメールとかレンブラントとか、アンドリュー・ワイエスとか。これから撮るシーンのライティングのイメージについて、画像を検索して「絵画だったらこういう感じ」って伝えたり、自分でエスキースして見てもらったりしてます。ただ、機材とかについては僕はよくわからないので、そのへんのやり方は田上さんに全部お任せしてるんです。だから照明について僕から具体的なお願いをすることはあんまりないんですよ。田上さんは僕がどういう撮り方をするかを知ってくれているので、ほかの人に照明を頼もうと思ったことはないですね。
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- KYOTARO HAYASHI
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