映像で音楽を奏でる人々 第9回 [バックナンバー]
Ghetto Hollywoodが狙うのは“日本における「ワイルド・スタイル」”
多くのラッパーが信頼を寄せる、謎多き映像クリエイターの正体
2019年2月25日 20:55 36
自分の作風をひと言で表すと「薄めないクロスオーバー」
去年作った
「タイムマシーンにのって」の作業中は、作画スタッフが鬼神の勢いでがんばってくれてて、現代版のトキワ荘にいるみたいな感覚がありました。特に最後の3日はみんなクリエイターズハイ状態で、ほとんど睡眠も取らずに作業してましたね。大変ではあったけど至福の時間でした。
それと同じような感覚は
このMVはヤンキー同士の抗争を描いていますが、最後はラップで本音をぶつけ合って、敵対してた2人が抱き合って終わります。これはたまたまじゃなくて、俺は昔から“アンチ暴力”を一貫して裏テーマにしてるんです。BRON-Kの「PAPER,PAPER…(MxAxD)」や
自分の作風をひと言で表すと「薄めないクロスオーバー」かなと思います。EPMDが1992年にリリースした「Crossover」って曲は「クロスオーバーするな。ヒップホップにR&Bを混ぜるんじゃねえ」という、ある意味保守的なリリックなんですが、今振り返ると90年代に狂い咲いたヤバい音楽って、ジャンルをクロスオーバーしてるものが多いと思うんですよ。例えば、映画「ジャッジメント・ナイト」のサントラは全曲、メタルやオルタナのバンドとヒップホップグループのコラボ曲で構成されてるんですけど、あれこそが90年代を象徴する1枚だと思います。今聴いても全然いけてる。クロスオーバーを嫌う人は、混ぜると薄まると思い込んでるんです。でも本当は、1つの作品の中にいろんなものをぶち込んでいけばラーメンのスープみたくどんどん濃くなっていきますよね。もし薄まってるとしたら、それは元の素材が薄っぺらいか、誰かがビビって世に出す前に薄めてるだけだと思います。俺は自分が好きなものをクロスオーバーさせていくことに躊躇はまったくないですね。例えばヒップホップに少女マンガを混ぜても、児童文学や絵本を混ぜても、「こんなのヒップホップじゃねえ」とは絶対に言わせない自信があります。
日本における「ワイルド・スタイル」は絶対に俺にしか撮れない
こんな連載に出ておいて本当に申し訳ないんですが、正直なことを言うと最近はもうMV制作にはほとんど興味がなくなってしまっていて。以前は暇さえあればYouTubeを観てたけど、最近はそれすらあんまりしなくなってます。今興味があるのは断然ドラマと映画ですね。この10年間、MVを撮りながら、これがいつか映画やドラマにつながったらいいなと漠然と思ってたんですが、業界も違うし、そういう展開にはならなくて。Webドラマを作るのは可能だったけど、「フリースタイルダンジョン」の一般層への浸透ぶりを目の当たりにすると、探さないとたどり着けないWeb上のコンテンツじゃなくて、どうしても民放の深夜ドラマ枠がやりたいんです。ここ2年くらい、何度か民放の企画会議に案を出してみたんですが、やっぱりなかなか難しくて。
構想中のドラマは「少年イン・ザ・フッド」っていう題名で、30分×12話分のプロットと簡単な企画書を書いてあります。どうせやるなら世界観も作り込みたいから、監督は無理でも脚本だけじゃなくて、キャスティングと全体の監修もやりたいんですよ。企画会議に出す前にプロットをPUNPEEとMACCHO(
なので最近は発想を変えて、ドラマの原作になるようなマンガを作っちゃおうという方向に切り替えました。まだ詳しくは言えないんですが、夏頃からとある週刊誌で「少年イン・ザ・フッド」のマンガ連載を始める話を進めてます。そっちに集中するためにMVは今受けてるぶんで休業します。次に映像をやるときは、ドラマか映画がいいですね。ドキュメンタリーも撮りたいです。
俺は「CONCRETE GREEN」(
最近はフリースタイルやラップをテーマにしたマンガもいくつかあるけど、結局フリースタイルバトルが流行っただけで、ちゃんとヒップホップを扱えてる作品はほとんど作られていないと思います。だから俺は、日本のヒップホップのマスターピースと呼ばれるような、初めての映画を撮りたいってずっと思ってて。井上三太さんの「TOKYO GRAFFITI」と「TOKYO TRIBE」シリーズが昔からあんまり好きじゃないんですが、園子温監督が「TOKYO TRIBE」を監督するって知ったときに、演じるメンツも豪華だったし「やべえ、これは先を越されたか……」って焦ったんですよ。で、けっこうドキドキしながらMr.麿くんと映画館に行ったら、出てるラッパーは最高の人選なのに、演出が絶望的にダサくて、つまんないけど安堵もしました(笑)。今度は俺の敬愛するマンガ家、高橋ツトム先生がプロデュースして
音楽について勉強していて詳しい人は日本にもいるけど、グラフティやブレイキンのことはほとんどの人が何も知らないんですよ。4大要素とかすぐに言うわりに、ぼんやりしたイメージで、スタイルのよし悪しとか、タグの読み方すら全然わかってない。だから日本における「ワイルド・スタイル」みたいな映画は、絶対に俺にしか撮れないはずだっていう自負があります。ラッパーが普段どうやって歌詞を書いてるかとか、ドラッグ描写のディテールとか、今まで見てきたものや経験のすべてが注ぎ込める。最後に、俺の誕生日は“ヒップホップの誕生日”と言われている8月11日なんですが、そこらへんに合わせていろいろ仕込むので、よかったらなんとなく覚えといてください。
Ghetto Hollywoodが影響を受けたMV
Saian Supa Crew「y'a」(1999年)
当時のラップフランセのドリームチームで結成された、“フランス版Jurassic 5”みたいなグループです。このMVは曲もいいので一時期繰り返し観てましたね。街中でただひたすらサッカーをしてるだけの内容だけど、編集も曲調にあってるし、レンズにゴミが付いてたりもするけど、なんか雰囲気が好きなんですよね。ライティングなくても「これでOKなんだ」という自分の中の基準の1つになってる気がします。
Justice「Stress」(2008年)
最初はこれが本当の出来事なのかどうかわからずに、ただただ興奮して観てました。繰り返し観てるうちに構成とか狙いがわかってきて、最終的には本当にうまくできてるなと感心しました。遠くからズームで撮るカメラワークの心理的な効果とか、緊張感とリアリティがある描写はかなりイケてますよね。殴られてる人たちは絶対に仕込みだけど、部分部分に挿入される、離れたところで嫌な顔をしてるギャラリーはたぶん本物の観光客だと思います。とにかく演出のテンポと内臓を抉られるような嫌な感じが最高ですね。
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