2018年初頭にUSENが日本全国の高校生1000人を対象に行った「好きなアーティスト」アンケートの結果、上位20位の中に
K-POPのみならず、コスメやファッションを含む韓国文化全般に対する関心が高まっている現在は“第3次韓流ブーム”の真っ只中にあるとされる。ブームを支えるのは十代だ。Instagramで「韓国人になりたい」というハッシュタグを検索すると、その数は12月現在で実に1万8000件を超える。投稿の多くにはオルチャンメイクを施しての自撮りやK-POPスターの写真と共に、韓国文化への憧れが綴られている。
現在のように十代の間で韓国文化が爆発的に支持されるようになったのは、第2次韓流ブームが巻き起こった2010年以降のことだ。2000年代中盤にはテレビドラマ「冬のソナタ」の大ヒットを契機とする第1次韓流ブームが起こったが、当時は中高年の女性を中心とするものであり、世代を超えたブームにまで達することはなかった。だが2010年以降、少女時代やKARA、東方神起といったK-POPグループがブームを牽引。彼らの楽曲は日本のメディアでも盛んにオンエアされたため、広い世代にアピールするに至った。
そうした第2次韓流ブームの時期から一般化し、現在ではダンスが1つの潮流になりつつある。それがK-POPの人気曲に合わせて踊るカバーダンスの文化だ。今回はその文化を追いながら、現在のK-POPがなぜ日本の十代を踊らせているのか、背景について考えてみたい。
取材・
憧れのK-POPスターと同化する喜び
2011年4月、“日本初のK-POP専門ダンススクール”を謳うDance Studio Cieloが東京都目黒区にオープンした。主宰の町田真吾さんと、マネージャー / ダンサー / コレオグラファーのSACHIさんによると、K-POPのカバーダンスが盛り上がりを見せ始めたのはオープンの前年にあたる2010年の冬辺りからだったそうだ。
「その頃から“自分たちの好きなK-POPに合わせて、みんなで楽しく踊る”というカバーダンスのサークルが目立ち始めました。2011年初頭ぐらいからほかのカバーダンスのイベントが始まるなど、盛り上がりが広がっていったんです」(町田)
「もちろん、それ以前から趣味で踊っていた人たちはいたと思うんですよ。ただ2010年から11年にかけてはKARAや少女時代が日本のテレビに出始めた頃で、そうした時期とリンクしていた部分はあると思いますね」(SACHI)
K-POPのカバーダンスがブームになったきっかけとして、SACHIさんは各事務所やレコード会社がアーティスト本人によるダンスの練習動画をYouTubeにアップしたことを挙げ、「お手本になる動画が公開されていたことはすごく大きい。私の場合はそこから興味を持つようになりました」と続ける。同時期からK-POPグループが日本のメディアでも頻繁に取り上げられ、K-POPへの関心が一気に高まったことが最大の要因ではあるものの、ダンスという点に関しては、練習動画が公開されることによりK-POPのダンスをカバーする際のハードルがグッと下がったことも重要だったのだ。そして2011年9月にはDance Studio Cieloが協力するK-POPカバーダンスイベント「KP SHOW!」がスタート。新宿のClub axxcisやFACE、渋谷のWOMBといった大型クラブで場所を変えながら開催されてきた。
「通常のダンススクールの発表会だと先生が衣装を決めることが多いんですけど、『KP SHOW!』の場合はアーティストたちが着ている衣装の中から自分たちで決めるんですね。例えばビデオクリップの衣装を自分たちで作って、完全にコピーする。それぞれのグループのファンの方も来るので、本物のような衣装を着て踊っている生徒さんたちのダンスでものすごい歓声が上がります。生徒さんたちも気持ちいいと思いますね」(SACHI)
「衣装や振り付けの再現性もすごいんですよ。それを知っているファンの方からはものすごい歓声が上がるんです」(町田)
そこにあるのは、誰かに認められたいという承認欲求以上に、憧れのK-POPスターと同化する喜びだ。カバーダンス特有のカタルシスも多分に含まれている。町田さんによると、こうしたK-POPのカバーダンスはタイやベトナムなどアジア圏のみならず、ロシアやウクライナでも流行しており、独自のカルチャーが構築されているのだという。
自分たちでも真似のできる、ちょうどいい外国の文化
少女時代やKARAのヒットを契機とする第2次韓流ブームを経て、2014年頃からの一時期、日韓の関係悪化やK-POPグループの相次ぐ活動休止などから、ブームはいくらか沈静化したと言われている。町田さんはDance Studio Cieloも「確かに2014年ぐらいに一度落ち着いたんですよ」と言う。2016年からの第3次韓流ブームの火付け役となったのは、やはりTWICE。彼女たちのブレイクにより、Dance Studio Cieloでも十代の入会が一気に増加した。
「特に小学生がすごく増えました。今の子供たちからすると、USのダンスは激しすぎるんだと思います。アジア人とアメリカ人は身体つきが違うし、セクシーすぎる。でも韓国人は私たちと身体つきが同じだし、自分たちでも真似のできる、ちょうどいい外国の文化なんだと思います」(SACHI)
TWICEのダンスの特徴として、つい真似したくなるような覚えやすいフリがよく挙げられる。象徴的なのが、顔文字「(ToT)」を表したプリクラや写真撮影の定番ポーズ“TTポーズ”を採り入れた楽曲“TT”だ。
「TWICEのダンスって簡単そうに見えてけっこうハードなんですよ。あと、メンバーのダンスもしっかりしてる。その激しいダンスの中で、TTポーズはポーズをしただけで可愛いので人気があるのではないでしょうか。写真に撮って可愛い、という」(SACHI)
「TWICEが韓国本国でリリースする曲はクラブミュージック色が強いんですが、日本のオリジナルソングの場合は小さい子供たちにもアピールできるような、よりポップなものが多いんです。ただ、同じ格好をして友達と一緒に踊りたくなるような、真似をしたくなるダンスという点では共通して意識されている気がしますね」(町田)
TWICEに3人の日本人メンバーが在籍するように、K-POPも今まで以上に多国籍化が進んでいる。K-POPのカバーダンスに端を発するボーカルユニット・ガラガラ蛇で活動し、熱狂的なK-POPファンでもあった高田健太は、韓国Mnetの人気番組「PRODUCE 101」に出演したことをきっかけに6人組ボーイズグループ・JBJに参加。夢の韓国デビューを勝ち取った。
高田のようにK-POPグループでのデビューを目指す十代は増加傾向にあり、それを受けて東京スクールオブミュージック&ダンス専門学校では4月にK-POPコースを新設。韓国デビューをサポートしている。またDance Studio Cieloにも韓国の各事務所から問い合わせがあるようで、非公開のオーディションを行ったり、志望者を推薦することもある。
最先端のダンスカルチャーでありながら、(SACHIさんの言葉を借りるならば)「自分たちでも真似のできる、ちょうどいい外国の文化」であるK-POP。ここ最近、BTSを取り巻くさまざまな騒動が巻き起こっているが、大人たちの喧騒などつゆ知らず、十代は今日も最新のK-POPヒットをチェックし、ダンスに汗を流しているのだ。本文中で触れた「KP SHOW!」は次回、2月11日に東京・新宿FACEで開催される。
KP SHOW! Vol. 20
2019年2月11日(月・祝)東京都 新宿FACE
バックナンバー
- 大石始
-
世界各地の音楽・地域文化を追いかけるライター。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。主な著書・編著書に「奥東京人に会いに行く」「ニッポンのマツリズム」「ニッポン大音頭時代」「大韓ロック探訪記」「GLOCAL BEATS」など。最新刊は2020年末に刊行された「盆踊りの戦後史」(筑摩選書)。サイゾーで「マツリ・フューチャリズム」連載中。
TWICEのほかの記事
リンク
- K-POPダンスの祭典 KP SHOW! 参加型K-POPダンスイベント
※記事公開から5年以上経過しているため、セキュリティ考慮の上、リンクをオフにしています。
音楽ナタリー @natalie_mu
【大石始・高岡謙太郎リレー連載】小学生にまで広がるK-POPのカバーダンス|第3次韓流ブームの音楽的背景
https://t.co/bdenH7vEAn
#十代とダンス #TWICE #BTS #SHINee