日々創作と向き合い、音楽を生み出し、世の中に感動やムーブメントをもたらすアーティストたち。この企画はそんなアーティストたちに、自身の創作や生き方に影響を与え、心を揺さぶった本について紹介してもらうものだ。
今回は
01. 「BLUE GIANT」(小学館)
著者:石塚真一
「これが好きだ」という気持ちの透明度と新鮮さを取り戻せる
主人公・大は素直で、ひたむきで、努力家で、ジャズを愛する青年。そんな彼が世界一のサックスプレイヤーを目指す物語である。雨の日も雪の日も河原でサックスの練習をし続け、どんなことにも挫けず、まっすぐ前を向いて進み続ける姿には美しさすら感じる。
「BLUE GIANT」を読むたびに自分に問いかける。限りある時間の中で、どれだけ自分は好きなことに熱中できているだろうか。「これが好きだ」と確信を得たとき、初期衝動は頂点に達し、それ以外のことが考えられないほどに熱を帯びる。時を忘れて没頭し、気付いたら夜が更けているような体験をする。では、人生が経過していく中で、ラムネに入ったビー玉のように透き通った、純度の高い気持ちをいつまで持ち続けられるか。
気持ちには鮮度があると僕は思っていて、それは周囲の環境に影響されやすく、非常に移ろいやすいものであると感じる。日々生活していく中で、自分の気持ちに少しでも濁りを感じたときには、読み返すことで再び透明度と新鮮さを取り戻し、スティックを握りしめドラムを叩きまくるのだ。
02. 「G戦場ヘヴンズドア」(小学館)
著者:日本橋ヨヲコ
感情のもっとも深い部分に刺さる“抽象的な表現”の台詞
日本橋ヨヲコ先生の作品は昔から大好きで、その中でも特に繰り返し読み続けているのが「G戦場ヘヴンズドア」。漫画家を目指す2人と、その仲間たちが葛藤を繰り返しながら成長していく青春群像劇である。
日本橋ヨヲコ先生の紡ぎ出す台詞の数々は、感情のもっとも深い部分に刺さる。抽象的な表現であるが故に、その時々の自分のシチュエーションによく当てはまる。読んでいて厳しく感じる場面も多々あるが、自分の原点、本当に向かいたいと思っている矛先を、眼前までグイグイと引っ張り出してくれるのだ。
この漫画との出会いは大学生の頃で、兄からオススメされて読んだのを覚えている。当時、僕は仲間に「俺はいつか武道館に出るんだ」と宣言をしてまわりながら、我武者羅に音楽にまみれた生活をしていた。その中で、とある大きな挫折を経験し、どん底まで気持ちが落ち込み、放心状態の時期が続いた。そんなとき、この漫画が僕を泥沼から引っ張り上げてくれた。自分が理想とする自分の姿を思いだし、立ち上がる活力をもらったのである。
03. 「からくりサーカス」(小学館)
著者:藤田和日郎
勇気を持って一歩踏み出せ、その先には新しい世界が待ち受けている
藤田和日郎先生の作品の中で、初めて読んだのが「からくりサーカス」である。登場するキャラクターのほとんどが、 息遣いを感じるほどに人間くさい。それぞれの登場人物に愛着があるが、その中でも、少年・才賀勝の成長はすさまじい。壮絶な過去を抱え、挫けそうになりながらも、そのすベてを乗り越えていく。
「自分はこういう人間だから、これができない」そう言った理由付けのある逃避、すなわち「やりたいのにできない」をすべて拭い去り、自分で自分を変える勇気を手に入れていく。
彼にその力を与えたのは、この物語の主要人物の1人、才賀勝と対をなす加藤鳴海の存在である。鳴海は、柔と剛を兼ね備えた熱血漢である。勝は絶望的な状況に立ったとき、「鳴海兄ちゃんならば」という発想をもって、苦難を笑顔で乗り越えていく。
僕にとっては、「からくりサーカス」という漫画自体が加藤鳴海のような存在なのである。どんな分野の話にでも共通するが、未開の地に一歩を踏み出す勇気はなかなか出づらいものだ。しかし、踏み出したその先に待ち受けている、新しい世界・視野に触れることが僕は好きだ。物怖じせず、理由を付けて逃げ出さず、自分のやりたいことに挑戦していく、そんな姿勢を「からくりサーカス」から学んだのである。
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