大石規湖

映像で音楽を奏でる人々 第3回 [バックナンバー]

ただ現象だけを伝えたい大石規湖

多様な手法で音楽を伝える分類不能の映像ディレクター

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トクマルシューゴやDeerhoofなどのミュージックビデオを手がける映像作家、大石規湖。彼女は生々しく“現象”を切り取った“ドキュメンタリスト”としての側面も感じさせるライブ映像にも大きな注目が集まっており、2017年には音楽レーベルLess Than TVのドキュメタリー映画「MOTHER FUCKER」を完成させるなど活躍の幅を広げている。そんな大石に、これまでのキャリアと映像制作へのこだわり、そして映画制作に至るまでの筋道、影響を受けたミュージックビデオを聞いた。2回に分けて掲載する。

取材・/ 高木“JET”晋一郎 撮影 / 梅原渉 編集・構成 / 土館弘英

大石規湖

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映像を撮り始めたキッカケとずっと根っこにあるもの

まさか、こういう企画の初めのほうに呼んでもらえるとは思ってなかったです。もし呼んでもらえるとしても、早くて6、7人目だと思うんですよ。それでも早いかな……私、「映像作家100人」みたいな企画に無視され続けてるんで(笑)。

──大石さんの評価を高めるためにも、今回はしっかり語り下ろしていただければと思います(笑)。まず大石さんが映像を撮り始めたキッカケから教えてください。

もともと音楽が大好きで、大学生の頃は軽音楽部に入っていたんですね。それで卒業後には、音楽に関わる、音楽のためになるような仕事に就きたいって考えてて。それで就職活動のときに、「映像制作はどうだろう」と思ったんですよね。

──それまでに映像は撮った経験はあったんですか?

全然(笑)。田舎の出身だったんで、大学進学で東京に出るまでは、音楽情報の吸収源が洋服屋さんで流れているミュージックビデオとかだったんですよ。服を選んでるフリして、ずっとMVを観ていたりして。そんな体験があったんでMVには興味があって、それで就職先に映像制作会社を選んだんです。そういう会社に入れば、MVだったりライブだったり、音楽に関わる仕事ができるかなって。だけど最初に配属された先がフジテレビの報道部で、「全然違うじゃん!」って(笑)。

──そこではどんな仕事を?

基本的には報道番組のADですね。そこで映像の撮り方はもちろん、人に密着したり、生の情報を扱ったり、インタビューをしたりっていう、撮影や取材の基礎を学べたのは大きかったです。“人と関わる映像の作り方の基礎”“人を撮ることの繊細さ”を教わったと思います。そこで1年半ぐらい働いたんですが、やっぱりどうしても音楽に関わる仕事がしたくて、その会社を辞めて、スペースシャワーTVに派遣してもらいました。

大石規湖

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──大石さんの作品は、自分の中にあるビジュアルイメージをMVを通して具現化するというアプローチよりも、ドキュメント性やライブ感など、“アーティストその人の性格”や“その場で起こっている現象”との接着面積の大きい作品作りが特徴的ですが、その経歴を聞いて納得しました。

根本的に“自分がアーティストである”っていう意識がまったくないんですよ。だから「映像作品を作ってやるぞ」っていう気持ちよりも、「こんなに素敵なアーティストや音楽があるんですよ!」っていうことを伝えるための手段の1つが、私にとっては映像作品作りなんですよね。だから、MV、ドキュメンタリー、ライブ、バラエティ番組……って、いろんなパターンで映像作りをするのは、撮るアーティストの魅力を引き出すのに、一番ふさわしいパターンを選択するからなんですよね。映像は撮ってるけど決まった手法が無いので、何を撮ってる人かが分類しづらい。だから「映像作家100人」とかに選ばれないのかも知れない(笑)。それに、性格的にもジャンルや手法を決められちゃったり、固定して捉えられるのが苦手なんです。そうやって役割を決められてしまうことや、そういう世の中自体が好きじゃない。やっぱり根がパンクやハードコアなんで(笑)。

──大石さんの映像は、基本的に状況や現象を具象的に捉えた作品作りが基本になっていると思いますが、一方でトクマルシューゴさんの「Vektor feat. 明和電機」や、踊ってばかりの国の「アタマカラダ」のような、MVの構成として、抽象性やイメージ性の強い作品もありますね。

でも、それらも具象的なんですよ。「アタマカラダ」は、ボーカリストの下津光史さんに初めてのお子さんが産まれたときで、その子に向けて作った曲だったから、その状況とリンクした映像にしたいと思って。それでパートナーの方の腹部エコーを下津さんの家でスクリーンに投影した映像になったんです。だからその状況をもっと直接的に表現したら、ドキュメンタリーになっていたと思う。「Vektor」も、トクマルさんから「この曲の何秒にどんな楽器、何分にこういう楽器が使われてる」っていう細かい表をもらって、そこにその楽器の映像と演奏を当てはめて、撮影して、カット割りしていったんです。だからあれも具象的な内容になってると思います。

演者の思い付きに全力で乗っかった「ナンダコーレ」

──古い例えですが、「Vektor」の音と映像がリンクする構成は、イーボマンの「Donuts with Buddah」や、Coldcut「more beats and pieces」と近い感触も覚えました。それはスペシャのショートコーナー「ナンダコーレ」で大石さんが制作された、鎮座DOPENESSを擁するヒップホップグループ・KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'Sが出演した「働くMUSICIANの一日」にも通じて行くと思いますが、スペシャに入られてからの動きは?

「モンスターロック」や特番のADをしていました。ただ音楽不況と重なって……仕方がないことだとは思うんだけど、スペシャ自体の番組の自由度がそこまで高くなくなっていったんですよね。動画配信用にも制作されたDAXとかヒップホップ番組の「Black File」ぐらいしか、自由なことができなくなっていって。その中で、「3分でいいから何か面白い自由なことができるプログラムを作ろう」って高根(順次。スペシャのプロデューサー)さんと串田(匠。スペシャのプロデューサー)さんと私で、企画を会社に提案して。それでスタートしたのが「ナンダコーレ」だったんですよね。

──大石さんのディレクション作品としては、曽我部恵一BANDやシャムキャッツが登場した「新春バンドマン綱引き合戦」、L-VOKALが登場した「L-VOKALのスカイダイビングラップ」などがありました。

もう「よく分からないことをやろう」と思ったんですよね。トークとかライブとかバラエティとかそういう枠組みを決めないで、何にも当てはまらない番組をやりたかったんです。音楽もアーティストも、1つの枠にはめられないものばかりじゃないですか。最初の放送回は私がディレクターでその回はTURTLE ISLANDVampilliaのドラマーの竜巻太郎さんに登場していただいたんですが、出会った瞬間に「言ってくれれば海に飛び込みますけど、どうします?」って。それで番組の方向性が決まったと思います(笑)。

──先ほど話にも出た「働くMUSICIANの一日」は、映像も音楽とリンクしていましたが、同時に彼らの生活ともリンクした内容になっていますね。

ラップ特有の“生活が歌詞にそのまま反映されていく様”みたいなものに興味があって、それを映像で表現したかったんです。その話をKOCHITOLA側としたら、メンバーのSABOさんから、当時働いていた工場を、休業日なら使わせてもらえるっていう話になって。それで休業日にみんなで集まって、そこでオケトラックを流したり、工場の機器を使ってビートを打って、それに合わせてフリースタイルしてもらったりして。

──企画そのものがフリースタイル、まさに即興性や偶然性の産物とも言えますね。

アーティストさんの思い付きを映像に収めてそれを編集で構成していくのが、「ナンダコーレ」での私の監督作品のテーマではあったと思います。

──「ナンダコーレ」は大石さんのディレクション作品以外でも、RAU DEFとZeebraのラッパー同士のビーフにBiSが勝手に乗っかった、トラックがSchtein&Longerということにもおどろく「DEAR BEEF」や、餓鬼レンジャーが復活の狼煙を上げた、内容が下品すぎる「COFFEE SHOP『GAKI』」、今や映像制作チームとして確固たる地位を確立しているスタジオ石による「stillichimiya presents stillokinawa」など、3分間の中で、テーマが音楽やミュージシャンであればなんでもありというかなりアナーキーなコンテンツでしたね。

私自身もそこでstillichimiyaと仲良くなったりと、いろんな広がりができました。その時期にはそれと並行して、個人としてGELLERSのMVを撮り始めたりしてました。

とにかくライブが好き

──その後、スペシャを退職されてフリーの映像ディレクターとして活動されます。

フリーランスになってから、「撮影の千本ノックだ!」と思っていろんなバンドのライブを撮りに行くようになったんです。とにかく音楽から離れたくなかったし、音楽にどうすれば関わっていられるか、そして1人でカメラを持って映像を撮りに行くこと武器にするとしたらって考えたら、ライブを撮りに行くことが自分にできることかなって。それで「やるしかない!」っていろんなツテを使って、とにかくライブを撮りに行かせてもらって。私、とにかくライブが好きなんですよね。ライブはアーティストが一番輝く瞬間だと思うし。そうやっていろんなバンドのライブを撮ってたときに、bloodthirsty butchersの吉村秀樹(Vo, G)さんが「あいつ何やってんだ?」って気にかけてくれて、当時ブッチャーズのドキュメント映画「kocorono」を監督された川口潤さんとつなげていたいて、私も映画を手伝わせてもらうようになって。そこで勝手に勉強させてもらったんです。

大石規湖

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──今のお話にあったように、YouTubeにアップされている大石さんの作品はとにかくライブを撮影したものが多いですね。

ライブを撮りに行くのはライフワークですね。やっぱり面白いんですよ。例えばLightning Boltが「TAICOCLUB'14」に出演したときのライブ映像で言うと、最後にずっとドラマーがタオルを投げようとしてるんだけど、それはオーディエンスに投げようとしてるんじゃなくて、汗だくになってバンドを守ってる警備員に渡そうとしてるんですよ。それを撮りながら「めっちゃいいヤツじゃん!」とも思ったし、そういうライブってドキュメントとしても捉えることができる映像だと思うんです。

──しかも大石さんのライブ映像はアーティストとの距離が近く、とにかく生々しさが強いです。

私の撮り方は音楽を消化して映像作品にするって言うより、“その人の中に入って、そこから出てきて映像にする”っていうイメージなんですよね。

──憑依型と言うか。

だからライブの撮影のときも憑依してるときが多いです。撮りながら泣いてたりとかしますし。

──例えばBiS階段のライブ映像は破壊的にも思えたのですが、ステージ上で破壊的なパフォーマンスが繰り広げられていたからこそ、ご自身も破壊的な気持ちになってしまった?

そうなんですよね。場合によっては暴力的な気持ちになっちゃったりするんで、それは気を付けないとな……と。それに近くで録りたい人がいたら、信頼関係が一番大事だと思っているので、礼儀とかリスペクトみたいな部分は大事にしてます。

──人間の基本的な部分と言うか。ライブ撮影のこだわりはありますか?

例えば爆音のアーティストだったら、音圧が直接表現されるようにわざと手ぶれ補正が効かないカメラを使ったり、ハードコアなバンドだったらその場の臨場感を出すためにブレても面白い画になるようなレンズを使ったり。逆に美しく撮りたかったら三脚を立てて、映像の抜けがいいレンズにしたり。画質や画像の感触で音の感触が伝わることも多いと思うので、そのニュアンスを撮れるように、“体感した音”や“ドキドキする気持ち”を映像に反映できるように考えてます。でも荒っぽい現場が多いから、ハードな映像専門って思われてるフシがあるんです。先日STRUGGLE FOR PRIDEの今里さんのドキュメンタリー「-CHANGE THE MOOD- STRUGGLE FOR PRIDE」をキレイな感じで撮ったら「意外だ」と言われましたし。荒っぽいのしか撮れないわけじゃないですから! それだけは言っておきます(笑)。

<つづく>

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大石規湖

静岡県出身。フリーランスの映像作家として、スペースシャワーTVやVICE japan、MTVなどの音楽番組に携わる。またトクマルシューゴ、 Deerhoof、BiS階段、奇妙礼太郎をはじめ国内外問わず数多くのアーティストのライブ映像やミュージックビデオを制作するなど、音楽に関わる作品を作り続けている。2017年には初映画監督作品「MOTHER FUCKER」を公開した。現在同作品のDVDが発売中。

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