映画ナタリー Power Push - 「闇金ウシジマくん Part3」「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」
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山田孝之は“役者馬鹿”
──山田孝之さんと同じ役でずっと共演されてきたわけですけど、丑嶋を6年間演じた彼にはどんな変化がありました?
孝之と最初に共演したのは「クローズZERO」だったんですけど、そのときは“役者馬鹿”だと思っていたんですよ。普通のサラリーマンにはなれない、役者の仕事がなければ生きていけないタイプというか。ところが、孝之はクリエイティブな発想が素晴らしくてね。俺が孝之から聞いた話では、「クローズZERO」までは芝居が楽しいと思ったことはなかったらしいんですけど、あの作品で出会った三池崇史監督に「これ、どうすればいいんですか?」って聞いたときに言われた、「自分が演じるんだから、自分で考えればいいんだよ」という言葉がデカかったみたいで。そこで「あっ、自分で考えて作っていいんだ。自分の意見を言っていいんだ」って気付いてから、孝之はどんどん評価されていきましたよね。30歳で初めて舞台に挑戦し、CMで面白いことをやり、本も書いて、出版記念の握手会では本にするサインの代わりにハンコを押すという大胆な行動に出て。でも孝之のファンはサインよりハンコを押してほしいと思うわけだから、そう思わせる彼は自分自身をちゃんとプロデュースできている。それでいて、芝居のクオリティもどんどん上がっているので、どこまでが彼のフェイクで、どこからが本来の山田孝之なのかわからない面白さがあると思うんです。
──ドラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」を観て、山田さんが赤羽在住だと思ったファンも多いですものね。
あのときも、山下敦弘監督はそこまで求めていなかったのに、孝之が「実際に住みましょう。そこまでやったほうがいいですよ!」って言ったみたいで。でも、彼が何よりもすごいのは声のトーンを役によって変えるところ。孝之が役者としていちばん素晴らしいのはそこなんですよね。
──声のトーンを変えるんですか?
衣装を着て現場に入ると、例えば丑嶋のセリフを「駄目だー。駄目だ。駄目だ待てない。駄目だ!」って発声練習のように、常に声に出して確認していました。そのあとも自分で決めたルーティーンの作業があって、最後に丑嶋の眼鏡を着ける。それを徹底してるんです。
孝之に「この人、変わってる」って思われたらしい(笑)
──普段の山田さんはどんな方ですか?
アイツとメシを食いに行ったり、酒を飲みに行ったりすることはあるんですけど、芝居の話は一切しない。役者同士で集まって「これやりたい」「あれやりたい」って言っても、アイツは「やればいいじゃん」の一言だけ(笑)。「できない環境だってあるじゃん!」って訴えても、「変えればいいじゃん」って、もう正論しか出てこないから相談したほうが傷付くという(笑)。そうやって、彼は自分の周りから変えるんです。
──では役者・山田孝之はどんな俳優でしょうか。
孝之は自分の癖を芝居では出さない。普段の彼はノッてくると、身振り手振りで話しますが、そういう癖や普段使っている言葉は芝居にふと出るものなんですよ。でも、例えば「それ取って」というセリフがあるとすると、孝之はカメラが回る前に声のトーンを変えたり、人差し指で“それ”を指してから言ってみたりする。そうやって、自分の癖を一切出さずに演じるキャラクターに新たな癖を与えていくんです。多くの俳優はどこかで普段の癖が出てしまうから、その人にしか見えないけれど、山田孝之はそうやって丑嶋馨になるんです。その証拠に、丑嶋を見て誰も「山田孝之」とは言わない。
──誰でもできることではないですね。
この作業はなかなかできないですよ。何十日間という撮影期間中ずっと、その精度を切らさずに芝居をするのはほぼ無理です。でも、彼はそれができる。“役者馬鹿”で、自分を客観視できるプロデュース能力も彼の中に生まれたからそれができるんです。だから、まだまだ計り知れない。アイツは「絶対にやらない」って言ってますけど、俺は山田孝之が大河ドラマで主役をやるのを見たいんですよ。アイツが1年間、同じ役をやり続けられるのか見てみたいんです(笑)。
──それは興味深いですね。
「クローズZERO II」で綾野剛と初めて会ったときに、俺はアイツに「井上雄彦さんのコミック『バガボンド』の佐々木小次郎にそっくりだね」って言って(笑)。そこに孝之もいたから、「オマエら2人がNHKで宮本武蔵と佐々木小次郎をやる時代が来たら、それは観たいね」っていう話をしたら、孝之に「『そこに自分も出たい』とは言わないんですね」って笑われて。「この人、変わってる」って思ったらしいです(笑)。
「ヤクザくん編」もいつかやれたらいいですね
──山田さんは「『闇金ウシジマくん』はこれで最後」と言われてましたが、やべさんの思いも同じですか?
この「闇金ウシジマくん」はこれで完結ですよ。柄崎に関しても、自分の中で消化できているのかどうかのギリギリのところで演じきったので、やり残したことはない。それに、「ザ・ファイナル」のクライマックスでは丑嶋のセリフがいつもと変わっているんです。これまで、ああいう場面では柄崎に「行け!」って言っていた。6年間ずっとそうです。ところが、今回は「行け!」じゃなくて、「行こう!」になっていて。その一瞬だけ、社長と部下の関係ではなく、同級生の昔の仲間になれたので、俺も「終われたな」と思えたんです。
──なるほど。
ただ、俺は「ヤクザくん編」と「沖縄編」を含めた、原作のコミックが今描いているエピソードは、「ヤクザくん編」がスタートした当初からやりたいと思っていて。だから、撮影現場にビッグコミックスピリッツを持ち込んで、孝之に「これ、スゲーぜ!」って見せたりもしたんだけど。これは俺の勝手な妄想ですけど、孝之にはメロドラマや胸がキュンキュンするような作品をしばらくやり続けてもらって、フラストレーションが溜まったところで、それを一気に吐き出すような形でやってもらいたい。丑嶋は世の中の流れの中で、必要悪として存在したんだと思うんです。そういう意味では、東京オリンピックが開幕し、世間がうわーっと浮かれるときにはお金の価値も変わるだろうし、犯罪や事件もいっぱい起こると思うので、そのアンチテーゼとしての「ヤクザくん編」はあってもいいと思っていて。個人的に好きなエピソードなので、いつかやれたらいいですね。
「闇金ウシジマくん Part3」2017年3月10日(金)配信開始
「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」2017年3月10日(金)配信開始
©2016真鍋昌平・小学館/「闇金ウシジマくん3」製作委員会・MBS
©2016真鍋昌平・小学館/映画「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」製作委員会
やべきょうすけ
1973年11月12日生まれ。大阪府出身。2007年公開「クローズZERO」では片桐拳を演じ、第17回日本映画批評家大賞助演男優賞に輝く。主な出演映画に「工業哀歌バレーボーイズ THE MOVIE」「TAJOMARU」「夢売るふたり」「天空の蜂」「HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス」「任侠野郎」など。俳優活動のほか、本名の矢部享祏名義で演出やプロデュースを担当することも。BSスカパー!のバラエティ番組「BAZOOKA!!!」にMCとして出演中。