舞台の演出家が、ドラマや映画などで監督デビューすることは少なくない。劇団□字ック主宰・山田佳奈もその1人だ。2016年にインディーズ映画を撮り始め、今年初めて自身の特集上映を成功させた。脚本家として参加したNetflixオリジナルシリーズ「全裸監督」がこの夏全世界で配信されたほか、満を持しての商業映画初監督作も公開を控えている。
映像の世界でも確実に経験値を積み上げてきた彼女が、このたびミュージックビデオを初めて手がけた。タッグを組んだのは、女性アーティスト・しなの椰惠。ベールに包まれたアーティストの楽曲で5部作のMVを撮り上げ、「相性がよかった」と振り返る山田に話を聞いた。
取材・文 / 金須晶子 撮影 / 西村満
MV5部作、
残りは次のページで紹介!
山田佳奈監督MV「嫌い嫌い、大嫌い」(音楽:しなの椰惠「嫌い嫌い、大嫌い」)
インディーズ映画をちゃんとやってきた
──2016年に初監督作品「夜、逃げる」を発表して以来、コンスタントに映像の仕事に携わっていますね。映画を撮り始めたきっかけについて、以前インタビューで「自分の創作のプラスになると思った」と話していました。
まさに最初は演劇の素養を深めるイメージだったんです。ただ実際現場に入ってみたら、やっぱり映画と演劇では作っていく過程が全然違って。監督ってこんなに怒られるんだ!とショックで、“監督”というものに対する価値観が自分の中で崩壊して……とにかくハゲそうでした。もう二度とやりたくない!って(笑)。
──それでも次の作品に取り組んだのは、自分の中で手応えがあったからですか?
いいのか悪いのかわからないですけど、もう何年も演劇をやっているのに「映画のほうが向いてるよ」と言われることが多かったんです。ありがたいことに「続けたほうがいい」と言ってくれる人たちがいたので、やらなきゃいけないなという感じでした。新入社員って「3年は続けろ」とか言われるじゃないですか? あの感覚に近かったのかも。「今夜新宿で、彼女は、」を撮ったあとは、ようやく「映画楽しいな」と思えました。おかげさまで今年は特集上映もできて。積み上げてきたものの集大成というか、単なるインディーズ映画監督だけど「これだけ映画をちゃんとやってきたんだ」と自信につながりました。
──近年、映画業界において“女性監督”に改めて注目が集まっているように感じます。具体的に作品名を挙げると……。
「21世紀の女の子」ですよね。山戸結希さんの映画好きなので、けっこう観てますよ。刺激を受けるというよりは、うらやましいなと思うんです。10代や20代前半の時期にしか得られない儚さや憂いを、私はすでに消化してしまっているから、あの一過性の感覚はもう持っていないんです。その分、人としての奥行きやまなざしは変化したかもしれないので、そういう意味で“自分の映画”は“自分の映画”でいいんじゃないかという気はしています。
「全裸監督」でのチームライティング
──8月から全世界で配信中のNetflixオリジナルドラマ「全裸監督」に、山田さんは脚本家として参加されました。山田能龍さん、内田英治さん、仁志光佑さんと4人の脚本家チームとして一緒に書き進めたそうですね。
チームライティングという形は日本では珍しいですよね。アメリカや海外だと普通らしいですけど。テレビドラマだと何人かの脚本家が参加することはよくあっても、「第◯話担当」となるんです。今回のように各キャラクターのセットアップ、1話から8話までの流れ、その流れに至る起承転結や伏線を4人で話し合いながら決めていくのは斬新でした。ホワイトボードにバーッとアイデアを書いて、「ここからここまでは誰が書く?」みたいに振り分けて、全員一斉に書き始める。で、それぞれが書いたものをその場でつなげて、「この流れだとここは辻褄合わないですね」とか意見を出し合っては反映して。本当に“全員で”書きました。
──「全裸監督」はAV監督・村西とおるの半生をもとにした作品ということで、AV業界に足を踏み入れる女性たちも登場します。脚本家チーム唯一の女性として、山田さんの視点は不可欠だったのでは。例えるなら、劇中で伊藤沙莉さんが演じた、村西軍団のヘアメイク担当のようなポジションでしょうか?
沙莉ちゃんが演じた順子は、女性の正義をきちんと主張できる人ですよね。彼女がいないと男性目線でどんどん話が進んでしまう。だからとてもバランスがいい人。私は順子よりもう少し男性寄りになってしまったというか、一緒になってワイワイやっていました。でも脚本の中で女性としての違和感が出てきたときは、それは違うと思います!と意見するというのは大事にしていました。自分が一番後輩だったのもあって、戦わなきゃいけないときは戦うぞというポリシーで臨んだのですが、無理に意見を押し殺す必要もなく居心地がよかったです。皆さん、付いて行って大丈夫と思える先輩方でした。
──Netflix製作の日本オリジナル作品ということで注目度も高かったわけですが、さまざまな意見があったかと思います。
私たちはポルノを描きたいわけではなく、その時代に生きている人たちを描きたかった。そして、その人たちに対してリスペクトがありました。AVに出演したことで苦悩されている方もいれば、これが自分の道だと割り切っている方もいるし、一概に“かわいそう”と決め付けてはならないとも思っていました。脚本家チームの男性陣も含めてそういう意識で作ったものなので、さまざまな意見が出るのは当然のことと思います。でも「クリエイティブのために人が傷付くのはしょうがない」という考えは個人的にまったくない。あくまでクリエイティブやエンタテインメントは、人を生かすための文化。そういう願いを持って取り組んでいたのは間違いないです。
5本MVを撮るのは超苦労しました(笑)
──インディーズ映画の監督や「全裸監督」の脚本を経て、このたび女性アーティスト・しなの椰惠さんのミュージックビデオを監督されました。初のMVにして、5曲分を5部作として作るということで苦労されたのでは?
超苦労しましたよ(笑)。ほぼ全部ラブソングという中で、5本すべて違うふうに見せるにはどう撮ろうかなって。「新宿」というテーマを与えられていたので、新宿にいる誰もが経験したことがあるだろう物語を描こうと思いました。出てくる人物は年齢も性別も恋愛模様もバラバラ。でも“必然としてそうなってしまった1日”を通して、5本の物語が交差してつながっている。そうすることで新宿という街が見えてくる気がしました。
次のページ »
山田佳奈インタビュー後編、しなの椰惠のMVも掲載!