レディー・ガガとブラッドリー・クーパーの、あの雰囲気はヤバかった
──「タイタニック」以外で、アカデミー賞作品賞に輝いた映画で松也さんが好きなものは?
「タイタニック」より前の作品が多いですね。「フォレスト・ガンプ/一期一会」や「ロッキー」「ゴッドファーザー」といった映画は大好きで何度も観ています。これらの年の授賞式はもちろん観ていないので、そこは残念ですが……。
──授賞式の演出も楽しみの1つでは?
毎回毎回、演出には驚かされます。「なんで、こんなアイデアが出せるのだろう?」と、日本では観たことのない舞台装置や演出に出会えますから。
──では歴代の授賞式のパフォーマンスで、松也さんが印象に残ったものを挙げてください。
「アリー/ スター誕生」の歌曲賞のパフォーマンス(第91回 / 2019年)で、レディー・ガガとブラッドリー・クーパーの、あの雰囲気はヤバかったですね。仕事でのステージとはいえ、それぞれの私生活のパートナーが嫉妬したはずですよ(笑)。本当に素敵で、忘れがたいシーンです。司会者では、ヒュー・ジャックマンが、かっこよかったです(第81回 / 2009年)。ユーモアもある司会ぶりで、歌えるし踊れる。最高のエンタテイナーでした。究極の“芸”というものを見せつけられた感覚です。
今まで観たスピーチの中でも、もっとも心を動かされた
──受賞スピーチはどうですか? 何か思い出深いものは?
「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」の受賞スピーチには感動しました。脚本賞を受賞したベン・アフレックとマット・デイモンが、当時はまだ“超新人”で、あの受賞で広く認められたわけです。しかも2人で一緒に脚本を書いたんですよね。あのときは、「若い兄ちゃんたちが、夢をつかむために一生懸命、脚本に取り組んで、アカデミー賞にたどりついたんだな」と、僕も子供ながらに感動しました。とにかく純粋に喜びがあふれ出ていて、今まで観たスピーチの中で、もっとも心を動かされました。初々しくて爽快で、のちの彼らの活躍を考えると、あれがスタートな訳で、そう思うと本当に感慨深いです。
──彼らの受賞も「タイタニック」と同じ第70回ですね。確かに、そこにもアカデミー賞の“歴史”を感じられます。では今年のアカデミー賞では、どの作品に期待していますか?
作品賞候補の10本のうち、現時点で観ている作品は「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」です。やはり僕はディカプリオが好きみたいです(笑)。この作品で、彼もジャック・ニコルソンの域に近付いてきたのではないでしょうか。「哀れなるものたち」はエマ・ストーンが素晴らしいみたいなので期待しています。それから、僕はブラッドリー・クーパーが好きなので「マエストロ:その音楽と愛と」は応援したいです。
──クーパーを好きになったきっかけは?
「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」です。あの映画が最高すぎたので、同じことをやってみたくて、友人の結婚式の前夜、みんなで彼を連れて飲みに行きました。そうしたら花婿は翌日の式に3時間遅刻してしまって……。まさに“ハングオーバー”状態に……あのときは申し訳ないことをしてしまいました。そんな思い出を作ったほど、クーパーが好きです(笑)。でも彼は、その後、「アリー/ スター誕生」で監督を務め、ガガを説得して、あれだけの作品を撮ってしまうところがかっこいいです。僕自身も昨年、舞台で初めて主演と演出を兼ねましたので、俳優が監督をする大変さを肌身で感じました。
描きたいことや、訴えたいことにブレのない作品が選ばれてほしい
──アカデミー賞ウォッチャーとして、今後はどんな作品が栄誉に輝いてほしいと感じていますか?
ジェンダーや人種など世の中が多様性を認めることは、もちろん重要です。映画の場合、そのうえで作品としてしっかり成立しているかどうかで評価されるべきだと思います。本来描きたいことや、訴えたいことにブレのない作品が選ばれてほしいと思います。俳優で言えば、あくまでもパフォーマンスを基準に正当に評価され、後世に伝わるべきものに栄誉が贈られてほしい。アカデミー賞の投票に向けて映画会社のさまざまなキャンペーンが行われますが、投票者の方々には、できるだけ純粋な目で作品や演技を評価してほしいです。作品数も多いので、なかなか難しいとは思いますが……。
──ちなみに今年はアカデミー賞授賞式をライブで観られそうですか? WOWOWの番組は朝7時にスタートして、式が終わるのは、だいたいお昼くらいになりますが……。
では、3月11日の仕事は午後からということで、スケジュールを空けてもらうようにします(笑)。どのようになるかわかりませんが。とりあえず今年はクーパー推しということで、その結果を楽しみにしたいと思います。
──最後に、1人の俳優としてアカデミー賞のような「賞」の意義をどう考えているか聞かせてください。そして松也さんも、いつかアカデミー賞のステージに立ちたいと思ったりは?
何かの作品を作り上げるとき、「賞を狙って」という意図はないでしょう。ですが先ほどもお話ししたように、僕らの仕事は数値として評価されるわけではないので、賞が1つの(目に見える)成果になります。その結果、同業者全体の底上げになると信じています。僕自身のことを言えば、確かに一時期、仕事を歌舞伎に限定せず、アメリカで俳優になることにも憧れを抱きましたが、アカデミー賞に関しては、今は観る側として日本で楽しむ。そういう立場でいることにします。
プロフィール
尾上松也(オノエマツヤ)
1985年1月30日生まれ、東京都出身。歌舞伎俳優。六代目尾上松助を父に持つ。1990年に「伽羅先代萩」の鶴千代役で初舞台を踏んだ。歌舞伎以外にも舞台やミュージカル、映像作品で活動し、2017年にはドラマ「さぼリーマン甘太朗」で主演。そのほか、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、映画「すくってごらん」「ミステリと言う勿れ」などに参加した。現在はテレビ朝日系のドラマ「グレイトギフト」に出演中。
2024年3月7日更新