「アクターズ・ショート・フィルム」監督座談会|ライバルではなく同志 監督に挑戦した俳優5人が語る映画作りの魅力

編集マンが脳みそに入ろうとしてくれる感覚(津田健次郎)

──今回、監督として編集にも参加されたかと思います。

森山 監督として映画を作ると明らかに違ったのは、やっぱりポスプロ(※編集部注:ポストプロダクション。映像作品の制作過程において、撮影後に行われる作業の総称)でした。現場で撮ったものを、どう編集していくか。ここはけっこう監督の醍醐味だと思います。皆さんがどう思ってるか聞きたい。

津田健次郎
「in-side-out」メイキング写真

津田 わかります。監督のやりたいことのために、編集マンが一生懸命になってくれる。僕の脳みそに入ろうとしてくれる感覚です。どうしてもうまくいかないところでも、とにかく必死に探ると、ストンとハマる瞬間がある。そういった瞬間は本当に面白いです。すごく気持ちいい。編集には作業としてのカタルシスがありましたね。効果音を入れていただくのも、これまたスリリング。こんなに臨場感が出るのかと驚きました。

柄本 音によって画面は支えられてるんだなってすげえ思いますよね。僕、自主映画を撮るときとは自分で編集したりするんです。だから逆に今回みたいに編集マンに素材を渡して編集してもらうのが初めてでした。でも上がってきたものを観たら、わりと最初からストンと腑に落ちました。

森山 「in-side-out」は部屋と森のカットをどう混ぜ合わせていくかが重要で。現場ではなんとなく頭の中にイメージはあるけど、厳密にここがこうつながると決めて撮っていたわけじゃないんです。だから編集に入る前に「直感でつないでください」と頼みました。最初の編集が上がってきたとき、ポジティブな意味で自分の想像とはまったく違うつながりになっている部分もあった。編集段階においても、みんなの力によって作品がどんどん分厚くなっていく瞬間がある。わかりやすく興奮しましたね。

白石 僕はもうほとんど自分で編集しちゃって……。とはいえ僕1人でしたものではなくて、その過程でも、編集の方やプロデューサーが出してくれる意見でよりブラッシュアップされていった感覚がありました。

柄本 ご自宅でやられた?

白石 はい、そうですね。

柄本 へー、すごい。

磯村 僕も編集は本当に楽しかったです。最後は達成感で編集マンとハイタッチしました。プロデューサーの方から「編集はマジックだから」と言われてたんですけど、その意味がわかりました。ときに現場で感じたものとは真逆のものにも変えることができるのが編集のすごさ。いかようにも変化を付けられる。デモ隊のシーンは10人ぐらいで撮ってたんですけど、それを合成していただいたら一気に30人ぐらいに増えていて。観たときにもう大興奮しましたね(笑)。

津田 合成だったんだ。観てるときは、こんな人数呼べたんだ、すごいなと思ってたから(笑)。

磯村 よく観ると同じ人がちらほらいるんです(笑)。

津田 企画段階から関わると、脚本、準備、撮影、編集と段階ごとに何かが決まっていく。決まることに安心して次にいけるんですけど、後戻りできなくなる怖さもあって。特に編集だとプロデューサーが「これでいいですか? 映像をロックしますよ」と。この言葉が超怖い。もう尺を変えられないってことですか?と思って、もう1回観て「これで大丈夫です……」みたいに恐る恐る進めました(笑)。

0から1を作る作業が好きだと気付いた(磯村勇斗)

──最後に「アクターズ・ショート・フィルム」を通して実感した監督することの楽しさ、面白さがあれば教えてください。

磯村勇斗

磯村 普段、俳優として仕事をしていると、その世界でその役でしか生きられない。でも監督は自分が頭の中で考えてること、感じてることを具現化できるし、世界を生み出すことができる。0から1を作る作業が、自分はけっこう好きなんだと気付きました。

柄本 最近「夜明け」を1カ月半ぶりに観直したんです。そこで以前より、ちょっと視野を広くして楽しく観ることができた。俺はこんな音を入れてたんだとか新たな発見もある。まさか自分の作品を楽しく観られるとは思ってなかった。監督として本当にいろいろ勉強させていただけた。これから俳優の仕事を続けていくうえでも、とてもいい経験になったと思っています。

白石 僕が勝手に思ったのは……小学生のときに郵便ポストを作る授業があったんですね。友達とすごくリアルな郵便ポストを作ってやろう!と思い立って、外へ採寸に行って、色もいい感じに仕上げた。遠くから見たら本物に見えるぐらいのポストを作ったんです。みんなで一緒に面白いものを作る。今回、監督していて、あのときのすごい楽しい感覚を思い出しました(笑)。

一同 (笑)

「GET SET GO」メイキング写真

津田 工程ごとにそれぞれドラマチックな瞬間がありますよね。現場は現場で面白いんですが、あまりに撮影が押して、一瞬、折れかけたときがあったんです。自分の撮りたいものとは違うけど、動きやカット割りを変えて時間を短縮しようと。それで自分を納得させたときに、主演の竜星(涼)さんと大東(駿介)さんから「時間の制限ももちろんわかるんですが、初志貫徹するのもいいのではないでしょうか……」とご提案いただいて。それに自分も「ですよね!」と。そこで本当に救われた。すごく愛と熱量を持って現場にいてくださって、本当に感謝しています。

森山 フレームでどこを切り取るか最終的な決断は監督のもの。でも撮影や照明、すべての部署の選択やセンスによって、僕が切り取るというより、現場が切り取られていく。その作業はすごく楽しくて、もちろんヒリヒリするもの。監督の視点はありつつも、やはり映画は全員で作っていくんだという感覚を改めて強く持ちました。本当に楽しかったです。

前列左から磯村勇斗、白石隼也、森山未來。後列左から柄本佑、津田健次郎。

2021年1月29日更新