第94回アカデミー賞で国際長編映画賞に輝いた「ドライブ・マイ・カー」が7月23日にWOWOWでテレビ初、独占放送。これを記念し、主演の西島秀俊や監督を務めた濱口竜介の関連特集も行われる。
映画ナタリーではネット環境があれば視聴可能な番組配信サービス・WOWOWオンデマンドで観られる西島の出演作を6作ピックアップ。特集「アカデミー賞受賞『ドライブ・マイ・カー』放送記念!俳優 西島秀俊」にラインナップされた映画や過去のWOWOWオリジナルドラマで見せた多彩な顔を振り返った。後半ではテレビ放送直前に「ドライブ・マイ・カー」の基本をおさらいする。
文 / 前田かおり(作品紹介)、渡邉ひかる(作品紹介)、奥富敏晴(コラム)
アカデミー賞受賞「ドライブ・マイ・カー」放送記念!
俳優 西島秀俊
WOWOWシネマ 2022年7月19日(火)~23日(土)
WOWOWオンデマンドで放送同時配信
「ドライブ・マイ・カー」で世界の注目を集め、アジア人の俳優として初めて全米批評家協会賞の主演男優賞を受賞した西島秀俊。映画やドラマと幅広く活躍する西島が多彩な監督たちと組んだ6本の映画がラインナップに並んだ。
放送作品
- 「2/デュオ」★
- 「帰郷」★
- 「CUT」★
- 「サヨナライツカ」
- 「ゲノムハザード ある天才科学者の5日間」★
- 「チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像」
※★の作品はWOWOWオンデマンドでアーカイブ配信あり
アカデミー賞受賞「ドライブ・マイ・カー」放送記念!俳優 西島秀俊 | WOWOWオンライン
※同時配信とは?
WOWOWの3つのチャンネル(プライム、ライブ、シネマ)を放送と同時に、WOWOWオンデマンドで配信するサービス。放送に比較して遅延が発生します。
西島秀俊をWOWOWオンデマンドで観る
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純朴な男が父性に目覚める? 自然体の西島秀俊に感じ入る
「帰郷」(2005年)
久しぶりに帰った故郷で昔の恋人に再会し、喜んだのも束の間、その彼女が小学生の娘を置き去りにして消えたことから娘のために彼女を捜すハメになる。西島秀俊演じる晴男は昔の恋人から、「娘の名前はチハル、晴男くんの“ハル”」なんて言われて、もしかして俺の子供かもと思い、責任を感じて母親探しに付き合うような純朴な男。房総の田舎町を路線バスに乗って、子供に振り回されながらも自分の中に沸々と生まれてくる父性をまんざらでもない様子で喜ぶ晴男。子役との相性もよく、一緒に「クラリネットをこわしちゃった」を楽し気に歌う姿は案外、素かも……と思いたくなるほど自然体で、肩の力がふっと抜けた感じがとてもいい。西島ファンには癒し効果も抜群だ。旅のオチは滑稽で、ちょっと切なくもあるが、当時、30代前半ならではの彼の魅力が楽しめる(前田)。
※WOWOWシネマ 7月20日(水)23:00~ほか
WOWOWオンデマンドで放送同時配信・アーカイブ配信©2004『帰郷』製作委員会
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映画への強烈な愛を放つ、西島秀俊がイランの鬼才と組んだ圧巻の1作
「CUT」(2011年)
自分が信じる真の映画にこだわり続ける映画監督の秀二。そんな彼の映画作りを支えていた兄がヤクザから借金した挙げ句、死亡。自責の念にかられた秀二は兄が死んだ場所でヤクザ相手に殴られ屋をすることで借金返済をしようとするが……。2005年の東京フィルメックスでの出会いを機に、シネフィルとして知られる西島秀俊がイランの鬼才アミール・ナデリ監督とタッグを組んで、愚直なまでに映画を愛する男を演じている。顔や体を容赦なく殴られ、端正な顔立ちは見る影もなくなるが、殴られれば殴られるほどすごみを増し、映画への強烈な愛を放っていく姿には引き込まれずにはいられない。100発の殴打シーンに古今東西の名作映画100本をかぶせていくクライマックスは圧巻。西島自ら、「俳優人生のターニングポイントになった」と語る作品だけに、ぜひ目を通しておきたい1作だ(前田)。
※WOWOWシネマ 7月21日(木)23:15~ほか
WOWOWオンデマンドで放送同時配信・アーカイブ配信©︎CUT LLC 2011
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吉田修一×市川準×西島秀俊、平凡な男の心のさざなみを繊細につづる
「ドラマW 春、バーニーズで」(2006年)
意中の相手と結婚し、平凡な毎日を送る男がふとした瞬間、目の前の暮らしに疑問を感じ始めてしまう。吉田修一の著作を名匠・市川準が映像化した本作は淡々と穏やかなようでいて、じっとりとした不安と居心地の悪さがまとわりついてくるヒューマンドラマだ。恋愛映画のような題名とは裏腹に、今はもう閉店してしまったバーニーズ・ニューヨーク新宿店は、主人公の心にさざなみを与える“きっかけの場所”として登場。ここでの意外な再会を境に、男は過去に思いを馳せ、現在に違和感を覚えるようになる。そんな主人公の心の機微を、西島秀俊が抑えた演技で繊細に表現。身勝手と吐き捨てられないほどあり得そうで、危うくもある設定に共感と説得力をもたらしている(渡邉)。
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“頭脳犯”と刑事のヒリつく攻防、誘拐事件を巡るサスペンス×人間ドラマ
「ドラマW 誘拐」(2009年)
要人の孫娘が誘拐される事件が発生。犯人は政府に、今まさに行われようとしている日韓条約の締結中止と30億円を要求する。だが、事件の裏には意外な真実が隠されており……。五十嵐貴久の同名小説を映像化したサスペンスドラマで、序盤から緊迫の展開が連続。しかしながら物語が進み、伏線が回収されていくにつれて切ない事情が見えてくる。犯人の正体はあらかじめ明かされているため、気になるのはその動機。三上博史が用意周到な頭脳犯を演じ、ミステリーを突きつけてくる。そんな犯人を冷静に追う刑事役で西島秀俊が登場し、視聴者の目となり耳となり活躍。犯人と刑事のヒリつく直接対決も感慨深く、サスペンスと人間ドラマを真摯に行き来する(渡邉)。
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永作博美×西島秀俊、観る人を迷宮に突き落とす重厚な1本
「ドラマW 蛇のひと」(2010年)
ある会社の部長が自殺し、時期同じくして課長が失踪。部下の陽子(永作博美)は課長の行方を追う中で、課長に関わった人たちが少しずつ不幸になっていることに気づき……。よく知っていたはずの相手の人物像がわからなくなり、“本当の姿とは?”に翻弄され始める主人公ともども、迷宮に突き落とされた気分になる作品世界が悩ましくも魅力的。「見えない目撃者」などの森淳一監督のもと、物語最大のキーマンである“課長”を、西島秀俊が絶妙な怪しさをうっすらとにじませながら演じている。人当たりがよく、口もうまい課長の周りに悲劇がつきまとうのはなぜか? そこに“意図”はあるのか? 捉え方次第で色づき方すら違って見えるラストにも、ザワザワさせられる(渡邉)。
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西島秀俊が孤高の公安警部を体現、香川照之&真木よう子と魅せるアンサンブル
「MOZU Season1 ~百舌の叫ぶ夜~」(2014年)
「MOZU Season2 ~幻の翼~」(2014年)原作は逢坂剛のハードボイルド小説。警視庁公安部のエースが、妻を亡くした爆発事件の真相を解明しようと奔走する。「ダブルフェイス」に続くWOWOW×TBS共同制作の第2弾で、監督も同じ羽住英一郎。ハードボイルドの魅力をよりパワーアップした作品で、西島秀俊は愛する妻がなぜ、犠牲になったのかをひたすら追う倉木を演じた。タバコをくゆらせては人に心の内をのぞかせず、その存在感で悲しみや痛みも1人抱え込む孤高の男を体現する。敵に当たり負けしないため、体重を5㎏増量して鍛え上げたという体(上半身の筋肉美、必見!!)で挑んだアクションシーンも絵になる。また公安嫌いの刑事・大杉を演じる香川照之、紅一点の女性公安警察官・明星に扮した真木よう子といった演技派俳優たちと魅せるアンサンブルの妙など、西島魅力炸裂の代表作と言っていい(前田)。