ソン・ガンホが俳優人生35年でドラマ初主演|ソン・ガンホが俳優人生35年でドラマ初主演 イラスト&レビューで魅力を紐解く 描き下ろし相関図も!

韓国ドラマ「サムシクおじさん」がディズニープラス「スター」で全話独占配信中。本作は、映画「パラサイト 半地下の家族」などで知られるソン・ガンホが、役者人生35年にして、ドラマ初主演を務めたことで大きな話題を集めるヒューマンドラマだ。

劇中では1960年代の韓国を舞台に、“サムシクおじさん”の愛称で呼ばれる謎の政治フィクサーと、野心あふれる理想主義の青年キム・サンが韓国を豊かな国に変えるため奮闘する姿が描かれる。ソン・ガンホがサムシクおじさんことパク・ドゥチル、「太陽は動かない」のピョン・ヨハンがキム・サンを演じた。

映画ナタリーでは個性あふれるキャラクターや、物語をより楽しんでもらうため、トモマツユキによる描き下ろし相関図とイラストエッセイをお届け。さらに韓国エンタメに精通するライター・西森路代に本作ならではのソン・ガンホの魅力を紐解いてもらった。

イラスト / トモマツユキ文 / 西森路代(レビュー)

韓国ドラマ「サムシクおじさん」予告編公開中

トモマツユキが相関図&イラストを描き下ろし!

韓国ドラマ「サムシクおじさん」相関図
韓国ドラマ「サムシクおじさん」イラストエッセイ
韓国ドラマ「サムシクおじさん」イラストエッセイ

プロフィール

トモマツユキ

イラストレーター。Webデザイナーとしての経験を活かし、シンプルにわかりやすく伝えるイラストを手がける。主にWebメディア・雑誌・学生新聞などで活動中。

サムシクおじさんは、今のソン・ガンホの存在感にぴったりくる

寄稿 / 西森路代

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、ソン・ガンホ演じるサムシクおじさんことパク・ドゥチル。

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、ソン・ガンホ演じるサムシクおじさんことパク・ドゥチル。

ディズニープラスで配信中のドラマ「サムシクおじさん」は、ソン・ガンホが35年の俳優人生の中で初めてドラマに出演したということでも話題の作品だ。

彼が演じるのは、“サムシクおじさん”と呼ばれ、政財界の陰で暗躍するフィクサーだ。“サムシク”というのは韓国語で「三食」のこと。「戦争中でも(彼の周囲の人たちを)三食、食べさせた」ということからきているから、さぞ人情味あふれる話なのだろうと見進めていくと、真逆の印象すら抱かせてくれるのがこのドラマの面白いところだ。

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、左からピョン・ヨハン演じるキム・サン、ソン・ガンホ演じるパク・ドゥチル。

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、左からピョン・ヨハン演じるキム・サン、ソン・ガンホ演じるパク・ドゥチル。

物語は1960年前後の韓国が舞台となっている。政治の世界では、現大統領よりも、革新党のチュ・インテに支持が集まっていた。革新党の講演会に訪れたサムシクは、チュ・インテを支持する若きキム・サンという青年に目が留まる。彼もまた、一日三食食べられる世界を目指していることを講演会で語っていたのだった。

サムシクは、キム・サンの演説を聞いて、彼になら国を変えられると直感し、近づいていく。

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、ピョン・ヨハン演じるキム・サン。

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、ピョン・ヨハン演じるキム・サン。

このキム・サンを演じるのは、ピョン・ヨハン。ドラマ「ミセン-未生-」(2015年)で広く知られるようになったが、それまでにも数々のインディペンデント映画に出演していた演技派であり、近年は映画「声/姿なき犯罪者」(2022年)などの主演作も増えてきて、明日の韓国映画界を担う存在のひとりとなりつつある。

このキム・サンにサムシクがビビっと来るシーンが良い。いずれは、この男に自分の野望とこの国を託しても良いと直感する表情が見て取れる。多くの韓国ノワールに登場する、男性キャラクター同士にシンパシーが生まれ、バディになる瞬間が描かれていた。

しかし、これはまだ一話のラストシーンでの話。大統領選に出馬しようとしている自由党のカン・ソンミンの陰謀などが関わってきて、理想に向かって突き進む明るい物語というよりも、策略や駆け引きの渦巻く世界へと突入していく。

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、ソン・ガンホ演じるサムシクおじさんことパク・ドゥチル。

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、ソン・ガンホ演じるサムシクおじさんことパク・ドゥチル。

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、左からイ・ギュヒョン演じるカン・ソンミン、ソン・ガンホ演じるパク・ドゥチル。

韓国ドラマ「サムシクおじさん」より、左からイ・ギュヒョン演じるカン・ソンミン、ソン・ガンホ演じるパク・ドゥチル。

渦中にいるサムシクは、表向きは気のいいおじさんであるが、実は自分もいつ命を狙われるかわからない立場にある。そんな中でも、ひょうひょうと危機をかわしていく姿に、そこはかとない凄みや怖さすら感じる。これが、今のソン・ガンホの存在感にぴったりくるのだ。

そもそも、近年のソン・ガンホに対してどんなイメージがあるだろうか。「パラサイト 半地下の家族」(2019年)や「ベイビー・ブローカー」(2022年)、「非常宣言」(2023年)などを見ると、絵に描いたような理想的な父親ではないが、それでも負の責任を「父」として背負う役というものも多く、それはときに、重すぎるのではないかと思えるほどであった。

また「弁護人」(2016年)や「タクシー運転手 ~約束は海を越えて~」(2018年)を見れば、あるきっかけを境に、人権を尊重し平和を願う人間に変わる過程を演じる人というイメージもあったのではないだろうか。

しかしこの「サムシクおじさん」のソン・ガンホは、そのどれでもない。根本としては、皆が三食食べられる世の中にしたいという理想は掲げつつも、そのためには手段を厭わず、ときに手荒でスレスレ(以上?)なことをするし、正当な道筋だけを選んでいれば理想に近づくわけではないということを知っている人物となっている。

そんな本作の凄みについて語っていたのが、ソン・ガンホとは「復讐者に憐れみを」(2005年)や「スノーピアサー」(2014年)などでタッグを組んできたパク・チャヌク監督である。彼は「サムシクおじさん」を見て、「『ゴッドファーザー』でマーロン・ブランド、アル・パチーノ、ロバート・デュヴァルが変身合体して一人の人物を演技したとすればこうだっただろうか」とまで評価しているが、ドラマを見ればその評価は一目瞭然。この作品のソン・ガンホは、ドラマという長い時間をかけて見せる物語の中だからこそ、一面的ではない複雑で繊細なキャラクターを演じ切っているのだ。

ソン・ガンホが「サムシクおじさん」でドラマに初めて出演した背景には、俳優人生35年で50歳を過ぎても、新鮮でこれまでに演じたことのない役柄にたどり着いたということもあるのではないだろうか。

※文中の(年)は、すべて日本公開年

「サムシクおじさん」の視聴はこちらから

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