ウッディの横顔だけでボロ泣き
──今回は吹替版をご覧いただきましたが、声の演技はいかがでしたか?
23年前の1作目から唐沢さんや所さんたちの日本語吹替が大好きで、観るなら日本版と決めていましたが、2人とももう決して若いわけじゃない。でもそれと引き換えに滲み出る年輪のような深みがすごくよかったと思います。特にバズ役の所さんって、1本目の頃からテンションが高いんだか低いんだかわからない飄々としたお芝居がいいんですよ。バズっぽいというか、自分の感情がうまく表現できてない感じというか。自我がまだ芽生えて間もない感じがすごく出ていた。でも今回のバズは大人の分別があるのでどうなるのかな?と心配したんですが、まったくもって杞憂でしたね。ギャビー・ギャビーも、新木優子さんの新たな一面が垣間見えて驚きました。英語版の声は誰なんだろう?
──字幕版のギャビー・ギャビー役はクリスティーナ・ヘンドリックスです。
ああ、「ドライヴ」とか「マッドメン」の人ですよね、なるほど。あと吹替だとボー役の戸田恵子さんがカッコいいんですよ!
──樋口さんが考える、ピクサーやディズニーのアニメーションと、日本のアニメーションの一番の違いはなんでしょうか?
すごい人たちの共同作業ってことだと思います。結局、日本人って共同作業に向いていない。組織のありようも含めて、個人に集約しちゃうんです。アメリカって、ある程度すごい人を何人か集めてディスカッションさせる。でも日本人はディスカッションが下手というか、議論して導き出す答えが悪い方向に向かうから、すごい人を1人神輿のように担ぎ上げる。そのおかげで純度の高いクリエイティビティが生まれるということもあるし、逆にどこかで限界が見えてくるんじゃないかという気もしますね。
──アニメーションではある程度記号化された表現になると思うんですが、ピクサー作品はとてもエモーショナルだと評価されていますよね。
今回もラスト近くのウッディの横顔だけでボロ泣きしましたし、回想シーンのボーの表情とか、感情表現が素晴らしい。日本だと絵がうまい人に依存することしかできないんですが、ピクサーでは、俳優でもないコンピューターでアニメーションを付ける人たちが、ストーリーに合わせた豊かな表現を作り出せる仕組みを作っているんです。そういえば、今、六本木ヒルズでやっている「PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス」が素晴らしいんですよ。子供にコンピューターグラフィックスをどうやって作っているのかを伝えるために、ピクサーとマサチューセッツ工科大学の研究者が一緒になって展示を作ったらしくて。今までは誰かが鉛筆で描いた絵を見せて「こういうふうにしてくれ」と説明していたものが、誰でもパラメーターをいじることで伝えられるようになった。そのシステムが体験できるんです。すごい可能性が広がったものだと思います。行ってない人は今すぐ行ったほうがいいです! 早くしないと夏休みの子供でいっぱいになっちゃいますから(笑)。
ほろ苦さでも悲しみでもない“素敵な現実”
──ピクサーには「語るべきストーリーがない限り続編は絶対に作らない」という鉄則があるそうです。樋口さんは「トイ・ストーリー4」から“語るべきストーリー”を感じられましたか?
これはあくまでも僕個人が勝手に感じ取ったことなんですけど、ピクサーにもいろいろあって、ずっとシリーズを作ってきたジョン・ラセター抜きで「4」を作ることになったわけですよね。ラセターがいない「トイ・ストーリー」なんてできるのだろうかと心配になりましたし、しかも「3」で一度終わってる物語じゃないですか。残されたスタッフにも「大丈夫か?」という気持ちはあったと思うんです。だから僕も途中まではモヤっとしたものを感じながら観てたんですが、ふと、これは残された人たちが、いなくなったかつての仲間に向けて「ありがとう」と伝えているんだと思ったんです。こういう形で、今まで一緒に仕事をしていた人に気持ちを伝える物語を選んで作り上げたことにすごく感動した。そこからは「こんないい話あるかよ!」って、物語とはちょっと違う次元でボロボロ泣いてしまいました。「3」も素敵ですけど、あっちは子供に向けた“夢”のある話だったと思うんですよ。「4」には“夢”はないかも知れないけれど、ほろ苦さでも悲しみでもない“素敵な現実”がある。そのことが本当に素晴らしいですね。
──23年続いてきたウッディとバズの友情の物語もひとつのエンディングを迎えたと思いますが、樋口監督は何か感じることがありましたか?
俺はずっとバズ派だったんです。体型的にもバズかなと思っていましたし(笑)。1作目の頃は、ウッディのバズに対する嫉妬から物語が構築されてましたけど、今では2人ともすっかり大人になりましたよね。組織とか集団の中でいろいろ変わっていくことはあって、でもそうやって変わっていっても2人は永遠に一緒なんだということも含めて、そう感じられるようになった自分が大人でよかった。だから、今の子供たちが40歳、50歳になって「4」を観直すときのことを考えると、それもまたいいなって思いますね。
- 「トイ・ストーリー4」
- 全国で公開中
- ストーリー
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おもちゃの持ち主・アンディの成長により、ウッディたちは少女ボニーのもとで暮らすことになった。ある日、ボニーが作ったおもちゃのフォーキーが彼らの新たな仲間としてやってくるが、彼は自分を「ゴミだ」と言い逃げ出してしまう。ウッディはフォーキーを連れ戻すため冒険に出る。
- スタッフ
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監督:ジョシュ・クーリー
製作:ジョナス・リヴェラ、マーク・ニールセン
脚本:ステファニー・フォルソム、アンドリュー・スタントン
製作総指揮:アンドリュー・スタントン、ピート・ドクター
- キャスト
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ウッディ:トム・ハンクス
バズ・ライトイヤー:ティム・アレン
ボー・ピープ:アニー・ポッツ
フォーキー:トニー・ヘイル
デューク・カブーン:キアヌ・リーヴス
ダッキー:キーガン=マイケル・キー
バニー:ジョーダン・ピール
ギャビー・ギャビー:クリスティーナ・ヘンドリックス
ギグル・マクディンプルズ:アリー・マキ
- 日本版声優
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ウッディ:唐沢寿明
バズ・ライトイヤー:所ジョージ
ボー・ピープ:戸田恵子
フォーキー:竜星涼
デューク・カブーン:森川智之
ダッキー:松尾駿(チョコレートプラネット)
バニー:長田庄平(チョコレートプラネット)
ギャビー・ギャビー:新木優子
ギグル・マクディンプルズ:竹内順子
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- 樋口真嗣(ヒグチシンジ)
- 1965年9月22日生まれ、東京都出身。1984年「ゴジラ」に造形助手として参加し、映画界入り。「平成ガメラ」3部作などで特撮監督を担当したのち、「日本沈没」「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」2部作、「シン・ゴジラ」といった作品でメガホンを取った。2018年には総監督を務めたオリジナルアニメ「ひそねとまそたん」が放送された。