樋口真嗣が語る「トイ・ストーリー4」|ウッディの横顔にボロ泣き、ほろ苦さでも悲しみでもない“素敵な現実”

ディズニー / ピクサーによる長編アニメーション「トイ・ストーリー4」が、全国の劇場で公開中。おもちゃの世界を舞台に、カウボーイのおもちゃ・ウッディたちの冒険を描く本作には、彼やバズ・ライトイヤーらおなじみのキャラクターのほか新たな仲間も登場する。

映画ナタリーでは、「トイ・ストーリー」過去作のファンである映画監督・樋口真嗣に本作を鑑賞してもらった。子供はもちろん大人の心にも響くと話題の本作。1996年公開の1作目から23年、そして2010年の「トイ・ストーリー3」からは9年の時を経て、新たに紡がれたストーリーの魅力とは?

取材・文 / 村山章 撮影 / 小坂茂雄

23年間“おもちゃたち”と一緒に人生を過ごしてきた

──今「トイ・ストーリー4」をご覧いただいたばかりですが、いかがでしたか?

「トイ・ストーリー4」より、ウッディ(左)とボー・ピープ(右)。

アメリカの子供向けアニメって込められる暗喩がだんだん複雑になってきて、常に子供が楽しめるようにしながらも、大人が楽しめることも忍ばせてきたけど、今回はもはや忍ばせてない! 「これって子供はわかるのかよ!」とは思いましたけど(笑)、またしてもちゃんと両立しているのがすごい。陶器人形のボー・ピープが今回は自立して生きてるじゃないですか。ほかの女性のキャラクターもみんないろんな意味で自立していて、男のほうがむしろ依存をしている描写がいたるところにある。

──樋口監督としては身につまされる感じですか?

そりゃもう(笑)。でも1作目とか2作目のときは、まだそういうことって物語の中では大事な扱いではなかった気がするんです。全体的にもうちょっと幼いというか、そこまで大人目線じゃなかった。でも作ってる人たちも1作目から歳月を重ねてるわけで。何年経ったんでしたっけ?

──1作目の公開からは23年です。

樋口真嗣

23年! すごいな、もう23年も前なんだ。1作目って「自分は何者なんだろう」という若者の悩みみたいなところがあったと思うんですね。青春の香りがする作品だった。今回は完全に視点が大人になってますよ。お前そろそろ会社に居場所ねえぞという感じのオッサンが「俺にもまだできる!」みたいな。人生100歳の時代に向けて、我々世代へのメッセージを感じましたね(笑)。あと今回、これまでは明文化してなかった設定みたいなものを深く掘り始めた感じはあります。

──確かに、おもちゃは持ち主がいることが幸せという今までの設定と正面から向き合っている印象ですね。

「トイ・ストーリー4」

“家族がいる人といない人”の話になっていて、それってこれからの社会で起こり得るであろう差なのだろうか?と思ったりはしましたね。ウッディなどボニーの家のおもちゃたちは、家族がいることが幸せだという人たちで、一方で持ち主がいないおもちゃたちが寄り集まっている。あの感じは、去年観た「フロリダ・プロジェクト」を思い出しました。今回は“幸せの形”って1つではないということを暗示しているような気もします。そしてもう1つ、(新キャラクターの)ギャビー・ギャビーの話がすごい。彼女にこれだけの尺(時間)を使ったことも驚きでしたし、ウッディは、ボーとギャビー・ギャビーの間でひたすら自分の人生をどうするかを問い直している。(アンディが大人になったあとの)余生というか、これからの人生をどう考えるのかみたいな話で、「ピクサー、50を過ぎた男に刺さる話を作ってどうするんだよ!」の連続でした。しかもボーとウッディの関係ももはや“青春の恋愛”とかっていうレベルでもないじゃないですか。

──結ばれるかどうかのお話じゃないですね。好きな人がいるのは大前提として、どう生きていくのかを考える話になっている。

左からウッディ、フォーキー、バズのぬいぐるみ。

そう、生きていくうえでの選択の話なんですよ。正直ウッディとバズに関しても、CMでは唐沢寿明さんと所ジョージさんが何についてしゃべっているのかサッパリわからなかったんですけど、観れば「そういうことだったのか!」と唸りました。やっぱり23年前から続いているキャラクターを使うと、人生を描くこともできるんだなと思いました。CG技術の発展だけでもどれだけでも話し続けられるくらいすごいんですけど、それ以前に物語のエッジが立っているというか、時間の経過を含めた人生を描いているのはすごいことだと思います。

──23年分の重みがあるからこそ成立してるんですね。

23年間と過去作3本がある中で、我々も一緒に人生を過ごしてきたし、おもちゃの中に宿っているキャラクターの成長を見てきたわけです。だからすごく感慨深い。自分が作品を作るうえで、正直、高校生の恋愛の話とかってかなり苦しいんですよ(笑)。それが世の中にあふれている現実に、自分がどれくらい向き合えるだろうかと、ここ数年考えてはいたんですよね。いっそもっとさかのぼって、子供の話だったら俺は親の視点で作れるなとか、作家ってみんなそういうことを考えながら作ってると思うんです。でも「トイ・ストーリー4」はそういう感じじゃまったくなくて、やっぱり主人公=作り手であり続けているわけですよ。きっとこの人たちは還暦になってもそうなんだろうし、こういう主題をここまで堂々とやってもいいんだっていう勇気をもらいましたね。

「トイ・ストーリー4」
全国で公開中
ストーリー

おもちゃの持ち主・アンディの成長により、ウッディたちは少女ボニーのもとで暮らすことになった。ある日、ボニーが作ったおもちゃのフォーキーが彼らの新たな仲間としてやってくるが、彼は自分を「ゴミだ」と言い逃げ出してしまう。ウッディはフォーキーを連れ戻すため冒険に出る。

スタッフ

監督:ジョシュ・クーリー

製作:ジョナス・リヴェラ、マーク・ニールセン

脚本:ステファニー・フォルソム、アンドリュー・スタントン

製作総指揮:アンドリュー・スタントン、ピート・ドクター

キャスト

ウッディ:トム・ハンクス

バズ・ライトイヤー:ティム・アレン

ボー・ピープ:アニー・ポッツ

フォーキー:トニー・ヘイル

デューク・カブーン:キアヌ・リーヴス

ダッキー:キーガン=マイケル・キー

バニー:ジョーダン・ピール

ギャビー・ギャビー:クリスティーナ・ヘンドリックス

ギグル・マクディンプルズ:アリー・マキ

日本版声優

ウッディ:唐沢寿明

バズ・ライトイヤー:所ジョージ

ボー・ピープ:戸田恵子

フォーキー:竜星涼

デューク・カブーン:森川智之

ダッキー:松尾駿(チョコレートプラネット)

バニー:長田庄平(チョコレートプラネット)

ギャビー・ギャビー:新木優子

ギグル・マクディンプルズ:竹内順子

樋口真嗣(ヒグチシンジ)
1965年9月22日生まれ、東京都出身。1984年「ゴジラ」に造形助手として参加し、映画界入り。「平成ガメラ」3部作などで特撮監督を担当したのち、「日本沈没」「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」2部作、「シン・ゴジラ」といった作品でメガホンを取った。2018年には総監督を務めたオリジナルアニメ「ひそねとまそたん」が放送された。