「『陳情令』コンサート~Japan Special Mix Edition~」特集|ライタートークで紐解く作品の魅力 (2/2)

キャストのもっとも美しく初々しい瞬間を閉じ込めたような作品(熊坂)

──「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」ではコンサートの裏側以外にドラマのメイキングを観ることができます。

小俣 ドキュメンタリーもいいところが凝縮されていて見応えたっぷり。プロデューサーはもちろんですけど、関係者が原作「魔道祖師」の世界観をすごく大切にしていることが伝わってきましたね。とにかく現場の熱がすごい。台本の読み合わせって、あそこまで感情を込めてやるものなんですかね?

 人物を掘り下げる作業は、ほかの現場でもやることがあるようなんですが、今回は特に若手のキャストが多かったですし、演劇専攻じゃない人もいたので、より熱がこもっていたのかもしれないですよね。作品の世界観を一緒に作り上げながら、スタッフが若い出演者たちを鍛えているような印象を受けました。

「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」より。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

熊坂 若手キャストたちの奮闘記、成長記としての面白さもありましたよね。スタッフが新人たちをうまく育てて、いかに役者にしていったかという過程を見ることができる。キャストにとって「陳情令」がとても大切なものになった理由が垣間見えます。ドキュメンタリーを観てから、ドラマ最終話を観ると込み上げるものがあって。みんなここから巣立っていったんだなという気持ちになりました。

 日本初放送・配信をリアルタイムで共有してほしい。お祭りに参加すると楽しいと思いますね。

──コンサートやドキュメンタリーが新たに放送され、4月からは吹替版の放送・配信も決定するなど、「陳情令」は日本で異例の大ヒットを飛ばした中国時代劇という印象があります。長年中華エンタメを追い続けてきた皆さんの目にはどう映っていますか?

熊坂 日本においては、SNS発信でブレイクした初めての中国時代劇だったと思います。視聴者層もいわゆる中国ドラマファン層とはまた違って、アニメやゲーム、BLが好きな層など幅広い。ここまで大きなファンのつながりができた作品も今までになかったですよね。日本版の最終話を作るなんてことも聞いたことがない。

小俣 やっぱりものすごく思い入れが強い作品なんですよね。日本側のスタッフさんにとっても。

熊坂 YouTubeの公式チャンネルにメイキングをいくつもアップしたり、こつこつやっていて。裾野が広がった理由の1つでもありますよね。誠実に取り組むって本当に大事だなと。

 字幕にもこだわりが詰まっていますよね。中国ドラマには立場や距離感によっていくつも呼び方が登場するんですが、日本語字幕を付けるときって、視聴者が混乱しないように1つに統一しますよね。でも「陳情令」では、きちんと呼び方の重要性をくみ取って、字幕に反映させている。より作品世界に入り込めるようになっていると思います。

熊坂 1つの作品がヒットすると媒体側の人間としてはその作品をフックに、ジャンル全体を盛り上げていこうと思うので、ほかの作品もこんなふうになったらいいなとは思うんです(笑)。でもやっぱり「陳情令」って特殊ですよね。

 中国時代劇の枠を飛び越えて「陳情令」だけ1つのジャンルのような存在感がありますよね。

──本作が視聴者を魅了する理由をどのように捉えていますか?

 物語の幅が広くて、主役の2人に限らず、いろんな登場人物に思い入れを持つことができるのが魅力的。画面も華やかですよね。音楽を筆頭に、細部にまでこだわった作り手の愛情が観る側にも乗り移ってくる感じです。

熊坂 私は魏無羨と師姉、江澄のシーンも好きでした。骨付き肉と蓮根の汁物がすごく食べたくなった(笑)。そしてやっぱり出演者が美しいですよね。若いキャストが多数キャスティングされているという点もこの作品の特徴。主演のシャオ・ジャンとワン・イーボーをはじめ、キャストのもっとも美しく初々しい瞬間を閉じ込めたような作品になっていると思うんです。役者たちのがんばり、体当たりで演じたものが作品の中に詰まっていて、観ている側の胸を打つ。

小俣 若手キャストにとって青春の1ページになっているようなところはあるかもしれないですよね。彼らの作品に懸ける情熱や、作品中で描かれる愛や絆も若さの中だからこそより美しく輝く。そこに惹き付けられているのかもしれないです。

「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」より、左から聶懐桑(ニエ・ホワイサン)役のジー・リー、魏無羨(ウェイ・ウーシエン)役のシャオ・ジャン、藍忘機(ラン・ワンジー)役のワン・イーボー、金凌(ジン・リン)役のチー・ペイシン。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

「『陳情令』スペシャルドキュメンタリー」より、左から聶懐桑(ニエ・ホワイサン)役のジー・リー、魏無羨(ウェイ・ウーシエン)役のシャオ・ジャン、藍忘機(ラン・ワンジー)役のワン・イーボー、金凌(ジン・リン)役のチー・ペイシン。© 2021 NewStyle Media. All Rights Reserved

プロフィール

小俣悦子(オマタエツコ)

編集・ライター。出版社で10年勤務ののちフリーランスに。台湾が大好きで「台湾エンタメパラダイス」(キネマ旬報社)20号分を企画・編集。ほか「華流日和」「華流スター&ドラマガイド2020」「BE a LIGHT」(コスミック出版)、Cinem@rt「山河令」特集の編集など、中華圏を中心にアジアのエンタメ関連の編集・執筆に携わる。

熊坂多恵(クマサカタエ)

「中国時代劇で学ぶ中国の歴史 2022年版」「最新!中国時代劇ドラマガイド2021」(キネマ旬報社)ほか編集。映画雑誌の編集を経て、中国、台湾、韓国などアジアのエンタメを紹介するムック本の編集や執筆に参加。

林穂紅(リンスイコウ)

訳詞者、翻訳者、編集者。Beyond、唐朝、ドウ・ウェイ、八三夭楽隊など中華ポップスの訳詞や音楽雑誌への寄稿を中心に活動後、OSTの仕事をきっかけに中華ドラマにハマる。編著に「チャイニーズ・ポップスのすべて」(音楽之友社)ほか。

※記事初出時、キャプションに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

2022年2月11日更新