私たちの子供や孫世代の人類が絶滅の危機に瀕していたら? 30年後の未来からタイムスリップしてきた人類に、エイリアンとの全面戦争への協力を呼びかけられた現代の人々。幼い娘のため2051年の未来へ従軍する1人の高校教師を描いたSF映画「トゥモロー・ウォー」が7月2日にAmazon Prime Videoで全世界独占、見放題配信がスタートする。
主演は「ジュラシック・ワールド」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズで知られるクリス・プラット。そして「レゴバットマン ザ・ムービー」で映画ファンの注目を集め、DC映画「Nightwing(原題)」にも抜擢されているクリス・マッケイが監督を務めた。本特集では絵空事ではないリアルな危機感を描いた世界観、戦争で離れ離れになる父娘、未知の敵、クリス・プラットの魅力という4つの切り口から映画の魅力を紹介する。
文 / 渡邉ひかる
- ダン
(クリス・プラット) - 高校で生物学を教える教師。15年前、イラク戦争に従軍した過去を持つ。家族を捨てた父親とは疎遠状態が続いている。幼い娘のため未来での戦争に参加する。
- ロミオ・コマンド
(イヴォンヌ・ストラホフスキー) - 全世界の人口が50万人と激減した未来で、ダンをはじめ兵士たちの指揮を執る人物。エイリアンの弱点を見つけるため研究をしている。
- チャーリー
(サム・リチャードソン) - 未来の戦争でダンと行動をともにする民間人の兵士。おしゃべりなお調子者だが、地球・大気科学の博士号を持つ秀才という一面も。
- ジェームズ(J・K・シモンズ)
- かつて家族から逃げるように去っていたダンの父親。ベトナム戦争へ従軍し、PTSDに苦しんだ。エンジニアの修士号を持ち、米国政府を敵視している。
- ミュリ(ライアン・キエラ・アームストロング)
- ダンの愛娘。現代では多くの若者が未来を悲観しており、ミュリも30年後の現実を知ってから悪夢にうなされる。愛読書は科学百科事典。
人類を未来へ送り込む!? 絵空事ではないリアルな危機感
「トゥモロー・ウォー」の物語は2022年12月からスタート。今を生きる人々がそれぞれの日常を過ごしていたところに、2051年からの“使者”が時空を超えて現れる。約30年後の未来でエイリアンとの戦争を余儀なくされているという使者たちは、人類滅亡の危機を回避すべく、2022年の人々も2051年の戦いに参加するよう協力要請。事態を深刻に受け止めた各国の政府は、現代人たちを未来へ送り込むことに……。未来の人類が絶滅寸前! かくなる上は、過去の人類に助けを求めるしかない! この大胆な発想がSFアクション大作らしいが、とは言えタイムトラベル可能な未来世界にとっては至って建設的なアイデアなのかもしれない。現に、まもなく徴兵制度が敷かれる現代の描写はリアルで、召集された民間人は未来への転送管理装置を装着。規定のトレーニングを経て、戦いへと送り込まれる。エイリアンの猛攻が兵士不足を招き、民間人も戦わざるを得ない設定からも、人類がいかにギリギリのピンチを迎えているかが伝わってくるところ。しかも、1週間の兵役で帰還率は2割程度らしく……。これらの詳細な描写が、絵空事ではない危機感を煽ってくる。
父親が徴兵の対象に…、2051年の戦争へ
物語の主人公は、元軍人の高校教師ダン(クリス・プラット)。愛する妻と幼い娘に囲まれて暮らすダンは、未来の状況が悪化する中で徴兵の対象者に。当初は兵役逃れの道を模索するが、妻や娘の身の安全を思い、兵士となって2051年へ赴くことを決意する。科学が大好きで聡明な娘ミュリ(ライアン・キエラ・アームストロング)は悲しみをこらえながらも気丈に父を送り出すが……。冒頭で描かれるダンとミュリの穏やかな日常、仲の良さそうな父娘の姿が、のちのスリリングで壮絶な展開と対比となって涙を誘ってくる。また、ダンには同じ元軍人でありながらも長年の衝突が原因で疎遠になった父ジェームズ(J・K・シモンズ)がおり、穏やかなだけではない人生を送ってきた様子。そんなダンが未来に行くこと、戦いに身を投じることがフォレスター一家の運命を揺るがすことに!? 現在、未来、そして“現在と未来の間に起こる出来事”が物語の鍵を握る。
俊敏? 獰猛? 未知の敵“ホワイトスパイク”とは
未来世界で猛威を振るい、人類を滅亡の危機に追いやった未知の敵“ホワイトスパイク”とは何者なのか? 2051年の戦地に足を踏み入れたダンが目撃する惨状はすべて、この驚くほど凶暴なエイリアンが招いたものであり……。俊敏にして獰猛で、一瞬たりとも油断ならないホワイトスパイクの造形は、「メイズ・ランナー」シリーズや「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」に参加してきたクリーチャーデザイナー、ケン・バルテルミが手がけている。そのホワイトスパイクがウヨウヨと蔓延る荒んだ未来を緊張感たっぷりに描きながら、息もつかせぬド迫力のミリタリーアクション大作にして、胸に迫る家族ドラマでもある作品世界を作り上げたのは、「レゴバットマン ザ・ムービー」などで知られるクリス・マッケイ。これまではアニメーション世界を中心に手腕を振るってきたマッケイが、長編実写映画のフィールドでもポップでダイナミックな映像センスを見せつけている。
弱さも見せるマッチョな父、クリス・プラットの魅力
危機に次ぐ危機、衝撃に次ぐ衝撃を突きつけてくる作品世界で欠かせない魅力となっているのが、主人公のダンを演じ、製作総指揮も務めたクリス・プラットの存在。かつて戦地を駆け抜けた退役軍人にして一児の父親でもあるダンは、クリス・プラットが息を吹き込んでこそ目で追いたくなる役どころ。突然の徴兵に戸惑いながらも戦う決意をし、未知の敵に対する不安を軽口で乗り切るヒーローぶりは「アベンジャーズ」シリーズのスターロードを思わせるほど頼もしく、マッチョな肉体で銃をぶっ放す活躍ぶりに惚れ惚れさせられる。しかしその一方、徴兵前は教師として平凡な暮らしを送り、その中で生まれる一縷の空虚を抱え、愛する妻と娘を守るべき家庭人としての自分と静かに向き合ってきたダンの心の奥底も、彼という人間を知るうえでの大事な要素。頼れるアクションヒーローではあるもののむしろ不完全で、時にハラハラさせられもする“新プラット”が愛おしくなる。